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REPORT

業界レポート『交通分担率の都市比較とポストコロナの展望』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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はじめに

移動にどのような手段が使われているかを、手段毎のシェアで示したものを「交通分担率」と言う。交通分担率は、都市計画や都市開発、地下鉄の路線検討の際や、人々の移動実態を把握する上で重要なデータとなる。日本では、交通分担率の調査にパーソントリップ調査*1と呼ばれる、市民へのインタビューに基づいた統計的な手法によって集計される。大規模な調査となるため、東京では5年に1度程度の頻度で行われており、直近のデータは2018年のものになる。世界の各都市については、都市毎の調査目的や地域特性に応じて調査の方法や対象、交通手段分類の粒度が異なるため同条件で捉えることはできないが、並べて比較することによって都市毎の特徴を読み解くことができる。

交通手段は大きく公共交通と私的交通に分類され、更に公共交通は鉄道、バス、タクシーなど、私的交通は自動車、自転車、徒歩などにそれぞれ分けられる。ここにいくつかの都市の事例を例示してみる。

 

各都市の公共交通分担率の比較と考察

グラフ1.各都市の公共交通分担率

図1は都市毎の交通分担率から公共交通だけを集計した「公共交通分担率」のグラフである。香港やソウルのように70~80%以上を公共交通が占める都市もあれば、ヒューストンやフォートワースのように1~2%程度しか無い都市まで幅広く存在していることがわかる。続いて、都市毎の詳細データを確認する。

グラフ2.(左)東京の交通分担率とグラフ3.(右)ロンドンの交通分担率

東京(23区)では公共交通分担率は36%(鉄道が33%、バスが3%)、私的交通の分担率は64%(乗用車が27%、バイクが1%、自転車が13%、徒歩23%)となっており、他の都市と比べて公共交通の中で鉄道の分担率が高いのが特徴と言える。

 

ロンドンの公共交通分担率は東京都同じ36%だが、内訳は鉄道22%、バス14%となっている。ロンドン交通局が運営管理する、街の風物詩でもあるロンドンバスの存在感が表れている。一方、私的交通64%については自動車36%、バイク1%、自転車2%、徒歩24%という内訳だ。

(左)グラフ4.香港の交通分担率、(中央)グラフ5.ソウルの交通分担率、(右)グラフ6.シンガポールの交通分担率

(左)グラフ7.ヒューストンの交通分担率と(右)グラフ8フォートワースの交通分担率

公共交通分担率が高い都市を見ると、香港(87%)、シンガポール(57%)と言った都市国家やソウル(72%)など人口集中が進んでいる都市が並んでいる。一方で、米国のヒューストン、フォートワースは公共交通分担率が1~2%程度と極めて低く、自動車が約90%を占める自動車社会の都市である。(運転80%、相乗り10%)

グラフ9.(左)バンコクの交通分担率とグラフ10.(右)マニラの交通分担率

他方、アジアの都市に目を向けるとまた違った特徴が見られる。バンコクとマニラは、公共交通の分担率が46%、47%と高いが、鉄道の占める割合はそれぞれ、15%、4%しかない。バンコクの独特な公共交通として観光客にも有名な3輪タクシー「トゥクトゥク」や、バンコク市民の通勤にも使われるバイクタクシーが含まれている。マニラでもサイドカータイプの3輪タクシー「トライシクル」(16%)や相乗りタクシー「ジープニー」(19%)のシェアが大きい。


図1.タイの3輪タクシー「トゥクトゥク」

図2.フィリピンの乗り合いバス「ジープニー」

このように、各都市の交通文化や特徴を、交通分担率を通して定量的に読み取ることができる。

MaaSの普及とコロナによる変化

交通手段に関する近年の大きな変化として、UberやGrabと言ったライドシェアやカーシェアなどMaaSの成長が挙げられる。上述した都市のデータはいずれもライドヘイリングの普及影響が小さい時点の統計データである。コロナによるロックダウンの最中、ライドシェア、カーシェアは感染リスクの高い移動手段だと忌避され利用が激減したが、将来的には感染予防、ソーシャルディスタンスの確保と移動の効率化をバランスしながら成長していくと予測されている。(グラフ10.)

グラフ11.VMT(車両総走行距離)におけるMaaS車両のシェア予測(IHS Markit社)*2

MaaSの普及が拡大するには、各国においてライドシェアリングに関する規制の緩和や、MaaS車両の走行に対応した道路、交通規制などの整備が必要となる。一部の都市では、コロナ禍における公共交通の利用を回避するために、代替え移動手段として自転車やマイクロモビリティのために専用レーンやカーフリーゾーンを設けるなどの対応を行った。こういった施策がポストコロナのニューノーマルとして定着すれば、MaaSの普及はより一層加速していくと考えられる。

しかし上述の通り、人々の移動手段は都市毎に多様である。MaaSの普及は多様化を残しつつも進む、つまり、公共交通が発達している都市では、個々人の志向や目的を反映して多様な交通手段を組み合わせたマルチモーダルMaaSが進む一方で、公共交通、特に鉄道が未発達な都市においては、ライドシェアの高度化の方向に進んで行くであろう。

2020年10月現在、まだ多くの国が感染拡大防止のために入国制限を実施している状況だが、このパンデミックを乗り越えた未来において、各都市の伝統的なモビリティを、より便利に、効率的に利用できるようになる日の到来を楽しみに待ちたい。

 

 

*1 パーソントリップ調査:都市における人の移動に着目した調査。世帯や個人属性に関する情報と1日の移動をセットで尋ねることで、「どのような人が、どのような目的で、どこから どこへ、どのような時間帯に、どのような交通手段で」移動しているかを把握することが可能。「人(パーソン)」に着目するため、一つの交通手段だけでなく、公共交通、自動車、自転車、徒歩といった交通手段の乗り継ぎ状況を捉えることが可能。

 

*2 ベースシナリオ(Rivalry Scenario)と、自動運転や電動化がより積極的に進展するシナリオ(Autonomy Scenario)の2種類のがある。いずれのシナリオにおいてもMaaSのシェアは拡大する予測となっている。

 

出典:

■交通分担率(グラフ1~グラフ10)

東京                                :国土交通省「パーソントリップ調査」(2018)

ロンドン.                     :Mayor of London, Travel in London Report 10 (2017)

香港、シンガポール、ソウル :Journey: Psassenger Transport Mode Shares in World Cities(2012)

ヒューストン、フォートワース :米統計局「Census Reporter 2019」

バンコク                        :LSE(London school of Economics) Cities

マニラ                           :Deutsche Gesellschaft für Internationale Zusammenarbeit

 

■MaaSの成長予測グラフ(グラフ11)

IHS Markit                 :Mobility and Energy Future, Light Vehicle Long Term update-20

 

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