はじめに
1995年に国際連合気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開始され、1997年の第三回COP会議にて京都議定書が採択、その後も様々な国際会議が開催され、その趨勢から世界の気候変動に対する認識は変化していった。
2015年12月にIPCCが提供する技術的観点も踏まえパリ協定が採択され、工業化以前からの気温上昇を2℃以内に止めるという長期的目標が設定され、この目標に向けて各国及び各業界で取り進めがなされている。自動車産業においてもカーボンニュートラルに向けて、電動化の推進や水素燃料の開発が注目を集める中、既存のインフラやシステムが利用できる燃料として合成燃料(e-fuel)の開発も進められている。ここではe-fuelの技術面に着目し、その課題について述べたいと思う。
e-fuelの生成プロセス
e-fuelは、二酸化炭素(CO2)から酸素を取り除く還元反応が必要となる。CO2の持つ化学エネルギーは、炭化水素系の中で最も低く安定しているため、還元するためには何らかの形でエネルギーを与える必要があり、この生成プロセスによって効率性が異なる。例えば、CO2を還元してメタン(CH4)を合成する2つの生成プロセス、①水(H2O)を分解して水素(H2)を生成する②生成したH2 を還元剤としてCO2を還元するという①+②の二段階のプロセスと、③CO2とH2Oから直接CH4を生成するプロセスを比較する。①+②で必要となる総エネルギーと③で必要となる総エネルギーは同じであるが、②が発熱反応であるため、この反応で生じるエネルギーを100%回収利用することが必要条件となり、③の方がエネルギー利用効率では優位となる。上記は簡単な例だが、生成プロセスの簡素化とエネルギー効率化はe-fuel実用化に向けての重要な課題である。
<主な物質の熱力学的な安定度>
*Gibbs自由エネルギー:物質の熱力学的な安定性や化学反応の方向を表す指標。
上記表上の物質の中ではCO2が一番安定しており、還元には大きなエネルギーが必要。
触媒の開発
CO2を還元した後にはメタンやメタノール等が生成されるが、還元後の生成物が目的通りにつくられるように化学反応を進めるためには適した触媒の開発が必要になる。従来、メタノールの合成には、銅系の触媒が用いられていたが高温下で反応を進める必要があり、反応の過程で目的としていない一酸化炭素(CO)やCH4が生成される場合がある。還元後の生成物を効率的に取り出すためには低温低圧の条件下で反応を可能とする触媒の開発が課題となっており、直近ではイリジウムを用いた有望な触媒の発見も見られる。
安価な水素の調達と再生可能エネルギーの必要性
H2とCO2からメタノールやその先の化学品を生成する技術はある程度確率されてきており、水素を還元剤とする場合が多くなると思われるため、安価な水素を生成・調達することが重要な課題である。日本では、CH4の直接分解によるH2の製造等、技術開発を進め、2030年頃に商用規模の水素サプライチェーン構築、2050年頃にはCO2を排出しない水素の製造コストを10分の1にし、天然ガス等の既存エネルギーと同等のコストを目指す。また、カーボンニュートラルを目指したLCA観点でのCO2排出削減や、上記で述べたCO2分解のための多大なエネルギーの必要性などから、再生可能エネルギー利用の拡大も付随して重要な課題となっている。
まとめ
気候変動・カーボンニュートラルへの対応は、工業分野だけでなく金融分野等他の分野も巻き込んで大きな流れとして進められている。自動車産業でのe-fuelの導入はその流れの中での対応変化の一つで実用化・商用化までの課題は多い。特に技術課題は重要で、解を見つけるには困難を当然伴うが、カーボンニュートラルという意義のもとに、さらに技術が進展し、新たな産業の創出につながるような方向に進んでいくことを期待したい。
<参考資料>
- 科学技術振興機構 研究開発戦略センター「二酸化炭素資源化に関する調査報告」
- 経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」
- 統合イノベーション戦略推進会議決定「革新的環境イノベーション戦略」
- 内閣府ボトルネック研究会「CO2利用にあたってのボトルネック課題及び研究開発の方向性」
- 国立研究開発法人産業技術総合研究所 記事「低温で二酸化炭素からメタノールを合成できる触媒を開発」