商用車業界にとっての顧客であるトラック物流業界は、様々な課題が山積・解決待ったなしの苦しい状況にあり、商用車業界はCASEの推進で顧客の問題解決に貢献しようとしている。特にConnectedの領域については、比較的早期に取り組みを始めた企業もあり、その結果事業展開・成果創出が既に成され、自動車をはじめとしたモビリティ全体にとって先行事例たり得ると思うものも少なくない。今回はこの商用車のConnected領域における取り組み事例と、その重要成功要因(KSF)を概観・考察する。
商用車メーカーにとっての顧客であるトラック物流業界が抱える課題
トラック物流業界では、以下のような課題が見受けられるようになって久しい。ECの普及もあり、社会的なニーズは高まっているが、業界は疲弊している。
- 小口多頻度化:(昨今は横ばい傾向だが)長期的なトレンドとしては貨物1件当たりのボリュームは減少する一方で、件数は増加
出典:「物流を取り巻く現状について」国交省・2018年10月
- 積載効率の低下:営業用トラックの積載効率は直近では約40%まで低下
- 人手不足:ドライバーが不足していると感じている企業の割合は年々増加し、今後の見通しも明るくない
出典:「物流を取り巻く現状について」国交省・2018年10月
出典:「トラック運送業界の景況感」全日本トラック協会・2019年8月
課題解決に向けたConnectedの取り組み事例
前章で触れたように業務効率低下に悩んでいるトラック物流業界に対し、Connectedや機械学習の技術を活用し、顧客の業務効率のみならず販売店サービス部門の効率向上にも成果をあげている、ある商用車メーカーの取り組みを紹介する。
車両故障診断自動化の取り組み
- 背景:販売店サービス部門の人手不足、特にベテランメカニック減少により、現場の作業効率・スキル向上の支援が求められていた。入庫車両の故障診断を高精度で効率よく行う為には、熟練メカニックがセンサーデータに含まれる多種のパラメータの複雑な動きを読み解き、修理箇所・交換部品を特定する必要があるが、若手へのノウハウ継承が難しいといった側面もあった。
- システムの仕組み(概要):故障発生時の車両センサーデータに基づく、故障診断自動化システム。必要となる整備内容や部品を入庫前にデータから予測し、入庫後の診断時間を短縮、顧客車両のダウンタイム短縮・業務効率向上を図る。診断自動化の仕組みには機械学習を活用し、高精度を実現。
【概念図】
- 効果:サービス入庫時間短縮による顧客車両ダウンタイム削減・アップタイム増加がもたらされ、ひいては顧客の業務効率向上にもつながり、販売店からも高い評価を得ている。
- 今後の車両センサーデータ活用オポチュニティ:車両センサーデータと他業務データを掛け合わせて蓄積・分析することで、これまで問題の全体像や因果関係を把握するのに膨大な工数を要したり、一部の経験豊富なメンバーだけの暗黙知になっていたような重要な知見があぶりだされ、より広く共有できるようになる可能性がある。例えば、顧客車両のセンサーデータと補給部品出荷データ・市場品質データを掛け合わせて分析することで、顧客の車両使い方と補給部品需要や品質不具合・問題との関係性が把握しやすくなり、車両の性能・仕様の設計最適化につなげやすくなる等である。
考察・成果を出すためのKSF
- 過去の関連データ収集・統合・蓄積
前章で紹介したような機械学習を活用した高精度なモデルを構築するためには、大量の過去データが必須。また、単一のデータだけでは因果関係の解明・精度向上は不可能な為、複数種類のデータを何らかのキーで掛け合わせて分析することも重要である。 - 社内外との連携・上層部の理解
データの活用をPOCで終わらせず、最終的に実務に役立つ仕組みを実現するためには、ITやデータサイエンスの専門家と、実務を担当する業務部門の知見を融合させてプロジェクトを推進することが必須である。少なくとも数か月以上の期間にわたり、社内外の多くのステークホルダーを巻き込んだ活動となる為、トップやマネジメント層の理解・リーダーシップも非常に重要な要素となる。
以上