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業界レポート『大型商用FCVへの期待』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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大型商用FCVを巡る昨今の動向

2019年には東京モーターショーでのMIRAI Conceptの発表、三菱ふそうのコンセプトトラック「Vision F-cell」の発表ぐらいしか人目を惹くニュースがなく(7月にはホンダがクラリティーフューエルセルの後継モデルの発売を当初予定していた2020年から2~3年延期するという残念な発表もありました)、今一つ盛り上がりを欠いた燃料電池(以下FC)車ですが、2020年に入り、日系OEMやパートナー企業によるFCトラックに関する発表が相次いでいます。

また海外でも燃料電池トラックに関するリリースが大手OEM、関連サプライヤー、スタートアップ企業から発表されています。

FCと大型トラックの親和性

FC車の普及にあたり、適性が高い用途の一つに大型トラックがあると言われています。

  • 大型トラックには、
    貨物を満載し長距離を走行することが多い
  • 内燃機関を動力源としていたのでは環境負荷が高い(化石燃料の消費量=CO2排出量が多い※)
    ※ 一般的に大型トラックの実燃費は一般道で2km/L、高速道路で5km/Lと言われています。

という特徴があり、後者を解決するために大型トラックをバッテリーEV化しようとすると、一充電当たりの航続距離を確保するためには大量の(=重く、場所を取る)バッテリーを搭載する必要があり、トラックの生命線である積載量(容積・重量)がバッテリーに取られてしまう、またバッテリーが大容量化すればするほど、充電にも長い時間を必要とし輸送効率が低下してしまうので、大型トラックの電動化にはバッテリーと比較してエネルギー密度が高く、内燃機関車と同程度の時間で燃料の充填ができるFC車が向いている、という考え方です。

インフラの観点からも、大型トラックはターミナル間の輸送で使われることが多く、水素ステーションはターミナルにあれば事足りるため、なかなか普及が進まない水素ステーション(国の目標、2020年度までに160か所に対して2020年3月現在、開設済みの商用水素ステーション112カ所、計画中23カ所/出典8)が普及のボトルネックになりにくいという利点もあります。

大型商用車の電動化により車両重量はどのくらい重くなるのか

バッテリーEVの大型トラックはまだ市販されていないため、既に日本に導入されているバッテリーEV大型バス、中国BYD社の 「K9」の仕様(出典9)を見ると、一回の充電で250km(それでもディーゼルバスの半分程度)の走行距離を確保するために324kWhものバッテリーを搭載しており、車体重量が14.4tに達し、同クラス(厳密には全長が1m短いが法定乗車定員は31人多い)のディーゼルバスよりも4.4t(約44%)ほど重くなってしまっています。K9に搭載されるリン酸鉄リチウムイオン電池の重量エネルギー密度は90 Wh/kg程度と言われていますので324kWhのバッテリーの重量はセルの重さだけで3.6t程度になるのではないかと推測されます。

一方、現在市販されている唯一の「大型商用FCV」であるトヨタ自動車のSORA(FCバス)も同クラスのディーゼルバスに比べて概ね2tの重量増となっています。

大型FCVへの期待

トヨタ自動車/日野自動車が3月に共同開発を発表したFC大型トラックは、「日野自動車の大型トラック『プロフィア』をベースに、今年発売される新型MIRAIの燃料電池スタックを2基搭載し、車両総重量(GVW)25t、航続距離600kmを目指す」ことが公表されています。
本田技術研究所といすゞ自動車も「大型トラックを共同研究する」、と発表しています。

運送業にとって輸送効率、つまり一回トラックを走らせて「何トン運べるか」は極めて重要であり、

                   車両総重量=車両重量+積荷重量(+乗員+燃料)

なので、車両重量が軽ければ軽いほど、「稼げるトラック」になります。余談ですがこれはディーゼルトラックも同じで、ここ数年でエンジンのダウンサイジング等による数100kg単位での軽量化が実現しています。

ここではトヨタ自動車/日野自動車が共同開発するFC大型トラックがどの程度の積載量を確保できるのか、公開情報を元に推測してみます。あくまでも推測ですので、関係者の皆様の「そこは違う」という御指摘、可能な範囲での情報共有を心よりお待ち申し上げます。

いささか乱暴な推測ですが、ディーゼルトラックからFCトラックの車両重量を推定するにあたり、以下のコンポーネントの単体重量を調べて(一部は推測して)計算してみます。

上記に加え、ディーゼルトラックでは標準装備の燃料タンクに「満タン」の状態で250kg(軽油の比重0.82kg/L x300L)程度の燃料を搭載するのに対して、FCバスSORAに搭載される「MIRAI用水素タンク10本」に充填される水素は20~23kg(充填圧力700気圧の場合)なので、MIRAI用水素タンク40本に充填しても80~100kg程度となり、ここで150kg程度積載量を稼くことができます。

また、ディーゼルトラックはキャビンの直下にエンジンを置き、後輪を駆動するというレイアウトになるため、大型トラックの場合はプロペラシャフトが長くなり重量が嵩みますが、FCトラックであればモーターをデフの近くに置くことでプロペラシャフトを短くする、もしくは左右の後輪を独立したモーターで駆動し、モーターを統合制御してデフを省くことでの軽量化も可能ではないかと推測します。

一方で、水素を積んで走るため、安全性の担保のため水素タンク周辺の保護は必須となりその分の重量増は見越す必要があるでしょう。

上記を全て合わせて考えると、FC大型トラックはディーゼル大型トラックに対して1~1.5tの重量増(道路の保護のため車両総重量は規制されているので、イコール貨物積載量の減少)で実現するのではないかと期待しています。
車両総重量25tのディーゼル大型トラックをウィング車(バン)に架装した場合の積載量は12~13t程度ですから、FC化による積載量減が10%程度であれば、Total Cost of Ownershipがディーゼル車と同等ならば、許容する運送業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
走行時にCO2を排出しないトラックに対しては、車両総重量の規制を緩和するという政策も、普及には有効かもしれません。

Well to wheel、Life Cycle AssessmentでのCO2排出量の観点で見ると、水素には製造時や水素ステーションで圧縮貯蔵する際のエネルギー消費等、解決しなければいけない問題が山積しています。

しかしながら、大型商用車の電動化を次世代電池によるEV用バッテリーのエネルギー密度の改善まで待っていたら、CO2排出量の削減はおぼつきません。

「今ある技術を用いて近い将来に実現できることは実現する」という観点から、FC大型商用車の実現に期待したいと思います。

 

【出典】

  1. https://www.honda.co.jp/news/2020/c200115.html
  2. https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/32024051.html
  3. https://www.mitsubishi-fuso.com/ja/news/2020/03/26/2020%E5%B9%B4%E4%BB%A3%E5%BE%8C%E5%8D%8A%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AB%E7%87%83%E6%96%99%E9%9B%BB%E6%B1%A0%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E9%87%8F%E7%94%A3%E3%82%92%E9%96%8B%E5%A7%8B/
  4. https://www.sej.co.jp/company/news_release/news/2020/2020040116.html
  5. https://www.scania.com/group/en/norwegian-wholesaler-asko-puts-hydrogen-powered-fuel-cell-electric-scania-trucks-on-the-road/
  6. https://www.faurecia.com/en/newsroom/faurecia-wins-major-award-hydrogen-storage-systems-hyundai-trucks
  7. https://nikolamotor.com/badger
  8. http://fccj.jp/hystation/index.html#hystop
  9. https://en.byd.com/wp-content/uploads/2019/07/4504-byd-transit-cut-sheets_k9-40_lr.pdf

https://blog.evsmart.net/ev-news/fujikyu-bus-to-procure-byd-k9-electric-bus/

  1. https://www.hino.co.jp/products/ からダウンロード(要個人情報登録)
  2. https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/21862392.html
  3. https://jafmate.jp/blog/news/170612_3.html
  4. https://www.eaton.com/us/en-us/catalog/transmissions/8ll-manual-transmission.specifications.html
  5. http://www.yokosya.jp/pdftxt/ys0002.pdf
  6. FCV(燃料電池自動車)適正処理/回収・リサイクル マニュアルhttps://global.toyota/pages/global_toyota/sustainability/esg/challenge2050/Challenge5/proper-disposal/fcv_manual.pdf

https://www.jsae.or.jp/formula/jp/SFJ/docu/nissan_Modelnumber01.pdf

 

 

 

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