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REPORT

業界レポート『コロナパンデミック下のVMT(車両総走行マイル)推移と考察』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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目下コロナパンデミックの下、日本でこそ緊急事態宣言は解除されたが、諸外国においてはより厳格に都市封鎖が行われ、人の移動も厳しく制限されている。本件においてはこのような状況下で移動の実態がどう変化したのか、公開データに基づき検証してみたい。
米国には全国の自動車の総走行距離を推定するVMT(Vehicle Miles Traveled)と言う指標がある。目的は交通量の変化率を推定するためとされている。FHWA(米連邦高速道路局)が、各州から提出されるデータを元に毎月公開しており、その由来は古くFHWAのホームページ内を訪れると1970年までデータを遡ることができる。(図1)

 

図1.VMTの推移(1970-2020)

 

移動距離については経済成長との関連性が強いと言われるが、VMTの過去推移を見ても米国の経済成長に沿って増加してきたことが読み取れ、1970年代のオイルショックや2008年の金融危機のタイミングでは減少または停滞していることがわかる。

移動データの取得方法は、主要道路や高速道路に設置された全国約5000ヶ所のセンサーにより交通量をモニターし、各道路の道路長を乗じて計算されたものを基本として、各州が州内の総走行距離を推定し、それらをFHWAが束ねて全国のVMTを集計している。月ごとのVMTに加え、曜日や休日数などのばらつきを補正する季節調整などの処理を施し、暦年比較しやすいように整理が為されている。但し、米国の道路総延長距離約660万km*1という広大さに対して測定カ所が5,000ヶ所とは、日本のNシステムの設置密度の概ね半分程度*2に相当するため、必ずしも十分なものとは言えないだろう。故に公開している推定値を如何に算出しているか、根拠は検証する必要があると思う。一方で、データ自体は、半世紀に渡り連続して収集されているので、時系列上の相対変化を読み取るには十分に意義あると思われる。

図2.月別VMTと季節調整済VMTの推移(2010-2020)

 

また毎月の変動に目を向けると、面白いことに毎年7月をピーク、2月をボトムとする山なりの決まったパターンが繰り返されていることがわかる。(図2)毎年2月の落ち込み幅は大きく、2019年の数値は、ピークの7月が296Bマイルに対し、ボトムの2月は227Bマイルであり、ピークに対して23%も少なく、季節による変動幅が大きいと言える。この背景には次のようなことが関係するものと考える。

  • 夏季は7月4日の独立記念日を中心に長期休暇を取得し行楽や旅行へ出かける人が多いため、VMTも大きい。
  • 一方、冬季は積雪・吹雪等による外出の抑制が故、VMTも小さい。猛吹雪に襲われた時には企業や学校、商業施設などを含む都市まるごとの閉鎖もしばしば発生すると言われる。
  • 3月の学校の春休み、11月のサンクスギビング連休、12月のクリスマス休暇等のカレンダーイベントも影響している。

この様にVMTは人々の生活、行動にも密接に関係している。

さらに詳細を見ると、データは地方部と都市部にわかれており、それぞれ「都市間」、「幹線道路」、「その他」に分けられている。地方部と都市部の比率を計算すると2019年のデータにおいては都市部が69.7%、地方部が30.3%と3分の2以上を都市部が占めていることなどもわかる。

 

さて、最新となる2020年3月のデータについては、毎年のパターンとは明らかに異なり、深く落ち込んでいる。もちろんこれは、コロナパンデミックによる都市ロックダウンおよび外出自粛要請によるものである。米国では緊急事態宣言が発令されたのが、例えばワシントン州が2月29日、フロリダ州が3月1日と州ごとに異なるので、ロックダウンの影響がどの程度なのかは単純ではないが、前年の3月の値と比べると18.6%の減少となっている。

FHWAの公式データは3月までである故、データ分析サービス会社Streetlightによる集計内容を見てみた。同社は車載器およびスマートフォンのGPSデータを元に独自にVMTを集計しており、また日毎のデータを用いていることからロックダウン影響の詳細を読み取ることができる。(図3)

図3.日別VMTの推移(2020.3.1-2020.4.12)

 

それによると、緊急事態宣言以降大幅にVMTが減少していることがわかる。全土緊急事態宣言の発令された翌週末に当たる3月22日のVMTは、3月前半の平均値に対して実に76%の減少となっている。また、曜日ごとのVMTでは緊急事態宣言以前は平日のVMTは少なく金曜日から週末にかけて多かったのが、緊急事態宣言以降は逆転し、平日よりも週末のVMTの少なくなっていることも米国における”Stay at home”の徹底度合いが見て取れる。また、州ごとに緊急事態宣言が徐々に解除されるにつれ、5月末に掛けて移動が回復してきていることもわかる。

このように、テクノロジーの進化により走行データがより詳細に取得・分析できるようになったことによって期待されることは大きい。今日、データを活用すれば人々の行動分析がより正確かつ簡単に行うことができる。斯様なテクノロジーを使うことでコロナパンデミックの影響もより正確かつ鮮明に捉えることができるであろう。

 

米国以外に目を向けると2017年にIHSが2040年までの世界の主要地域のVMT総計の予測を出している*3。同予測によると米国・欧州・中国・インドのVMTの総計は2017年から2040年までに65%増加し、その増分の4割はMaaSによるものとなっている。(図4)

図4.世界主要地域における2040年までのVMT予測

 

今回のコロナのパンデミックによりUberやカーシェアリングなどのMaaSサービスは感染拡大防止の観点から敬遠され、利用が激減していると言われる。果たしてその結果がどうなるか、VMTはいかに経済動向により変化するか見極めることで、今後の両者の動向を、データを通じて注目していきたい。

 

*1: CIA World fact book「道路総延長距離」 https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/xx.html

*2: 日本の道路総延長距離は約120万km*1に対しNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の設置数が2015年時点で1690カ所*3なので、
設置密度を計算すると日本のNシステムの概ね半分程度となる

*3: 2016年3月1日産経新聞「秘密扱いの「Nシステム」記録」よりhttps://www.sankei.com/affairs/news/160301/afr1603010027-n2.html

 

[図表の出典]

図1・図2  :The St. Louis Fed.https://fred.stlouisfed.org/categories/33202

図3.         :The StreetLight Data https://www.streetlightdata.com/

図4.         :IHS Markit https://www.greencarcongress.com/2017/11/20171114-ihsmarkit.html

 

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