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REPORT

業界レポート『コロナ禍におけるフードデリバリー需要とモビリティ』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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はじめに

今般のコロナ禍においては、長期間の外出自粛等によって人々の生活スタイルに大きな変化が生じた。日本では緊急事態宣言こそ解除されたものの、現在もその影響は続いている。本稿では、コロナ禍において需要が増加したフードデリバリーサービスをめぐる状況を検討し、モビリティとの関わりについても言及したい。

サービス消費への長期的シフトと外部サービスの必要性

検討の前に、コロナ禍以前の日本において、デリバリーサービスを含む家庭労働のアウトソーシングの必要性が高まっていた背景について概観する。

戦後日本における消費行動は、大量生産型の受動的なモノ消費から個人主体の多様な消費行動へと長期的に変遷してきた。すでに1970年代ごろから、家電・自動車を中心とした耐久消費財の普及・飽和や二度のオイルショックを経て、画一的なモノ消費から、個性化された多様なモノ消費、体験を重視するサービス消費へと志向がシフトしていったといわれる[1]

サービス消費のニーズが高まったもう一つの背景は、家庭環境の変化である[2]。すなわち、少子化、高齢化、女性の労働市場進出と共働き世帯の増加(図1)[3]、個人世帯の増加(図2)[4]などによって、家事・育児・介護などの家庭労働をアウトソースするサービス(いわゆる外部サービス)を求める傾向が高まったことがある。特に、共働き世帯は1980年から2019年までの間に約2倍となり、逆に専業主婦世帯[5]は同期間に約半数となるなど、家庭労働の分担や効率化の必要性は一層増している。

 

図1:専業主婦世帯と共働き世帯の推移      

図2:世帯構造別にみた世帯数の構成割合の推移

 

さらに、スマートフォンアプリをはじめとする近年の技術革新が、多様かつきめ細かな外部サービスの実現を後押ししている。

今般のコロナ禍においては、緊急事態宣言、休業要請、ステイホームの呼びかけに応じ、または感染リスクを自ら回避するため、外出を控えて、デリバリーを含む外部サービスを利用した人が多かったのではないかと推測される。以下、検討したい。

コロナ禍における宅配・デリバリー需要の状況

コロナ禍においては、外出を避けつつ物品調達や食事・娯楽を行う必要に迫られ、宅配・デリバリーの需要が高まることとなった。

外出自粛期における消費者と宅配・デリバリーサービスの関係性を示す例として、通販・マーケットプレイスの状況をみると、Amazonや楽天の宅配サービスに対する需要は大きく伸びている。

米Amazonの四半期決算発表[6]によれば、2020年1-3月の売上高は、新型コロナウイルス拡大による外出制限の影響でインターネット通販の需要が増え[7]、前年同期比26%増の754億5200万ドル(約8兆900億円)となった(1-3月期としては過去最高)。日本市場の内訳は公表していないが、アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は、やはり外出自粛期のインターネット通販の利用が大幅に増え、通常時の販売ピークを大きく上回る需要があったと語っている[8]

楽天においても、ショッピングEコマース[9]の流通総額が大きく伸び、2020年4月の同流通総額は前年同期比約58%増となった(金額公表なし)[10]

フードデリバリーサービスの利用増加と要因

では、コロナ禍の外出自粛において最も多用されたデリバリーサービスのカテゴリーは何だろうか。

オンライン保険相談サービス「ほけんROOM」を運営する株式会社Wizleapの調査[11]によれば、何らかのデリバリーの利用者のうち、「食品・飲料・お酒」、つまりフードデリバリーの利用者が突出して多かったことがわかる(図3。デリバリー利用者の約84%がフードデリバリーを利用。2020年5月8日~12日。複数回答可。調査人数803名)。

フードデリバリーの状況を供給側からみると、主要プレイヤーであるUber Eatsと出前館の利用ユーザー数は、緊急事態宣言が発出された4月上旬以降、実際に急増している(図4。2019年12月~2020年4月)[12]

このことからは、飲食店が一斉に営業を自粛し、人々が感染リスクを避けて在宅するようになった状況下で、フードデリバリーサービスが盛んに利用された様子がうかがえる。

 

図3:デリバリー利用者の利用サービス内容 

 

図4:Uber Eatsと出前館の利用者数推移

 

さらに要因を考えるに、米国シンクタンクEddieWouldGrow創設者のEddie Yoon氏は、近時Harvard Business Reviewに寄せた論説[13]において、フードビジネス(自炊、デリバリー、テイクアウト等)を題材に、ポストコロナの消費者行動を形づくる要因として次の3点を挙げている。

  1. 在宅勤務の増加: テレワークを恒久的に選択できる労働者が増えており、これは自宅で料理をする(或いは食事をとる)時間と相関関係がある。ポストコロナの時代には、在宅で働く人々が増えると考えられる。
  2. 単身世帯の増加: 一般に1人分の料理を作ることは効率が悪く、単身者にとってメリットが小さい。単身世帯の増加は、米国で料理人口が減少した大きな要因であった。
  3. 密集環境を回避するニーズの増加: 消費者が密集を好まなくなっており、デリバリーへの需要も高まる。スーパーマーケットやレストランは、宅配需要に対応することが求められる。

上記は米国における考察であるが、日本を含め、在宅勤務の増加、単独世帯の増加を背景に持つ国々においては同様のことがいえると考えられる。日本でも、コロナ禍以前から推進されていたテレワークは今後も継続的に採用されていくと考えられ、すでにテレワークの恒久化を発表した企業も多い[14]。また、日本において単身世帯が増加していることは、前述のとおりである。加えて、新型コロナウイルスがグローバルな拡大を続けるなか、終息までは数年を要するという見方もされている[15]。近時の報道では集団免疫の獲得の難しさが示唆される[16]など、未だ終息が見通せない現状において、「3密」を回避する傾向もまた長期化するものと考えられる。

 

上記のことから、今後、日本においてもフードデリバリーの需要がなくなることは考えにくく、むしろ増加していくことが示唆される。株式会社Wizleapの上記調査においても、今後何らかの形でデリバリーサービスの利用を続けると回答した人は約79%に上っている(図5)。

 

図5:デリバリーサービスに対する今後の利用意向

フードデリバリーサービスとモビリティ

デリバリーサービスは、必然的に運搬手段を必要とするため、モビリティとの関わりは深いといえる。最後に、フードデリバリーサービスに用いられるモビリティについて述べる。

現在主流のフードデリバリーサービスに用いられるのは、主に自転車及び原動機付自転車(原付バイク)である。現在、Uber Eatsで利用できる運搬手段は、①自転車、②原付バイク、③バイク(排気量125cc以上)、④軽自動車の4つである[17](ただし、③と④については事業用車両(いわゆる緑ナンバーまたは黒ナンバー)であることが必要)。出前館で用いられている移動手段もほぼ同様であり、自転車と原付バイクである[18]

上記に加え、タクシー業界のフードデリバリー業界への参入もある。国土交通省は、2020年4月から新型コロナウイルス対策としてタクシーによる飲食料品のデリバリーを特例で認め、すでに約1,600社、約47,000台が参入している。本特例は9月末までの延長が決定されているが、国土交通省は恒久化を含めて検討を行っている[19]。タクシー業界は、コロナ禍によって失った旅客運送ビジネスを、一部ではあるものの、コロナ禍によって増加したデリバリービジネスで補った形となる。この構造は、UberとUber Eatsの関係にも似通う[20]

 

デリバリーサービスは、今後、超小型モビリティ[21]の活躍する市場にもなりうる。国土交通省は従来、CO2排出削減、省エネルギー、道路の効率利用等の観点から、超小型モビリティの導入・普及を推進している[22]。公表されている同省の勉強会資料[23]では、超小型モビリティの市場規模(既存車両より優位性があると考えられた領域)は、保有台数ベースで約1,170万台とも推定されている(このうち集配・デリバリー関連は約19万台、うち飲料・フードデリバリー関連は約2.4万台)。

超小型モビリティは、2人乗りの小型電気自動車を正式に軽自動車の一種と区分することで、2020年からの市販を進める方針が固まっている[24]。矢野経済研究所は、超小型モビリティの国内販売台数を、2025年で約7,000台、2030年で約10,000台と予測している[25]

 

他方、フードデリバリーサービスは、コロナ禍に伴う大幅な需要増にもかかわらず収益を十分に確保できていないとも指摘されている。米国では、Uber Eats事業の2020年第1四半期における総取引数が前期比約52%増と発表されたが、コストなどを差し引いた収支は赤字となった[26]。販売促進や安全装備のコスト増に加え、飲食店側からも手数料の減額を求められていることが財務悪化の原因という[27]

デリバリースタッフの安全面でも未だ課題があるといわれる。日本のUber Eatsデリバリースタッフでつくる労働組合「ウーバーイーツユニオン」は、配達中の事故に対するUber側からの補償内容が妥当か検証する必要があるとして、実態調査に乗り出すことを発表している[28]

 

ポストコロナの時代において、フードデリバリーサービスには中長期的な需要が生じうると考える。厳しい収益構造やデリバリースタッフに関する課題を解消し、ビジネス構造を安定化することができれば、フードデリバリーサービスは、人々の多様な暮らし方や新たなモビリティの在り方にも大きく影響を与える可能性があるのではないだろうか。今後の動向に注目したい。

 

 

[1] 堀 眞由美「消費社会の変遷と消費行動の変容」中央大学政策文化総合研究所編『中央大学政策文化総合研究所年報』第17号、2013年、139-142頁。

[2] 同論文、141頁。

[3] 独立行政法人労働政策研究・研修機構「早わかり グラフで見る長期労働統計」(https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html)、2020年7月10日閲覧。以下、参考文献のウェブサイト閲覧日は同様。

[4] 厚生労働省政策統括官(統計・情報政策担当)「グラフで見る世帯の状況」、2018年3月、6頁(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h28.pdf)。

[5] 専業主夫世帯や、パートナーのいずれかが家事専業である同性カップル世帯についても検討に含めるべきであるが、入手可能なデータの関係上、割愛する。

[6] Amazon.com, Inc. 2020年度第1四半期決算発表 (https://ir.aboutamazon.com/quarterly-results/default.aspx)。

[7] 日本経済新聞電子版「米アマゾン売上高26%増 1~3月、新型コロナで需要増」、2020年5月1日(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58688420R00C20A5I00000/)。

[8] 日本経済新聞電子版「アマゾンジャパン社長が語るネット通販のこれから」、2020年6月30日 (https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60928230Z20C20A6EE8000/)。

[9] ショッピングEコマースは、楽天市場、B2C事業群(ファッション、ブックス、Rakuten24 (日用品通販)、ネットスーパー、オープンEC)、ラクマ(フリマアプリ)の合計。楽天株式会社 2020年度第1四半期決算発表 (https://corp.rakuten.co.jp/investors/documents/results/)。

[10] 同決算発表。

[11] 谷川昌平監修「宅配/デリバリーの急増に関する意識調査」、ほけんROOMマネー・ライフ、2020年5月14日 (https://hoken-room.jp/money-life/8616) 。

[12] 石徹白未亜「ウーバーイーツ&出前館のアプリ、緊急事態宣言で利用急増…銀行・証券もユーザー増加」、Business Journal、2020年5月20日 (https://biz-journal.jp/2020/05/post_158181.html)。

[13] Eddie Yoon, 3 Behavioral Trends That Will Reshape Our Post-Covid World, Harvard Business Review, 26 May 2020 (https://hbr.org/2020/05/3-behavioral-trends-that-will-reshape-our-post-covid-world).

[14] 2020年7月10日現在、ツイッター、東芝、富士通、トヨタ自動車など。
ツイッターについて、CNET Japan「Twitter、一部の従業員に在宅勤務の恒久化を認める」、2020年5月13日 (https://japan.cnet.com/article/35153655/)。
東芝について、時事ドットコムニュース「東芝、在宅勤務を恒久化へ コロナ後も積極活用」、2020年6月5日 (https://www.jiji.com/jc/article?k=2020060501129&g=eco)。
富士通について、日テレNEWS24「富士通 全従業員をテレワーク勤務に」、2020年7月6日 (https://www.news24.jp/articles/2020/07/06/06673253.html)。
トヨタ自動車について、SankeiBiz「トヨタ、在宅勤務制度を拡充 恒久化、工場勤務にも適用検討」、2020年7月2日 (https://www.sankeibiz.jp/business/news/200702/bsc2007020500003-n1.htm)。

[15] 花村遼・田原健太朗「新型コロナの収束シナリオとその後の世界(3)収束まで「3年から5年」が現実か」、日経バイオテク、2020年4月30日 (https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/04/24/06847/)。

[16] 時事ドットコムニュース「新型コロナ、3カ月で抗体減少 集団免疫困難か―スペイン保健省」、2020年7月7日 (https://www.jiji.com/jc/article?k=2020070700193&g=int)。

[17] 配達パートナーに関する「登録要件」、Uber Technologies Inc.ウェブサイト(https://www.uber.com/a/signup/drive/deliver/)。

[18] 「出前館 デリバリークルー募集」株式会社出前館ウェブサイト(https://www.demaecan-jobs.com/)。

[19] 時事ドットコムニュース「タクシー宅配、恒久化を検討 コロナ対応、ニーズ高く―国交省」、2020年7月8日 (https://www.jiji.com/jc/article?k=2020070700724&g=eco)。

[20] ただし、Uber Eatsの収益性には課題が残るという指摘がある(後述)。

[21] 国土交通省の定義によれば、超小型モビリティとは「自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人~2人乗り程度の車両」とされている。国土交通省自動車局環境政策課「超小型モビリティの成果と今後」国土交通省『地域と共生する超小型モビリティ勉強会』第1回勉強会、資料1、2016年12月21日、10頁 (https://www.mlit.go.jp/common/001158768.pdf)。

[22] 同資料、4-9頁。

[23] 「超小型モビリティ市場性・事業性について」国土交通省『地域と共生する超小型モビリティ勉強会」第4回勉強会、資料2、2017年6月21日、4頁 (https://www.mlit.go.jp/common/001190040.pdf)。

[24] 矢野経済研究所「2025年の次世代モビリティ(電動トライク、電動ミニカー、超小型モビリティ)の国内販売台数は8,300台まで拡大と予測 ~超小型モビリティ規格が創設される2020年から普及が進む見通し~」、株式会社矢野経済研究所ウェブサイト、2020年3月12日 (https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2387)。

[25] 同ウェブサイト。

[26] Aarian Marshall, Everyone’s Ordering Delivery, but Apps Aren’t Making Money, WIRED, 29 May 2020, (https://www.wired.com/story/everyones-ordering-delivery-apps-not-making-money/).

[27] Heather Haddon・Julie Wernau「料理宅配サービス、需要急増でもなぜ儲からない」、The Wall Street Journal日本版、2020年5月14日 (https://jp.wsj.com/articles/SB12076302647651404700904586382963218056764)。

[28] Yahoo! Japanニュース「ウーバーイーツ労組が会見 事故実態調査へ (全文1) 傷害見舞金制度の妥当性を検証」、2020年1月7日 (https://news.yahoo.co.jp/articles/e9448e1e96d24e7e6c2e0ac47a6599d4266b7314)。

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