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REPORT

業界レポート『自動運転に関する法整備の動向』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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はじめに

2020年は、公道におけるレベル3自動運転(特定条件下の自動運転。緊急時には人間が運転を引き継ぐ)を認めるための関係法令が日本で整備され、自動運転システムに関する国際基準も成立するなど、自動運転が法制度の面で大きく前進した年になりました。これに基づいて、11月11日には、本田技研工業の「レジェンド」が公道でのレベル3自動運転に必要な型式認証を世界で初めて取得しています[i]

今回は、自動運転の交通ルールと車両の安全基準の改正状況について振り返りたいと思います。

交通ルールの整備状況

交通ルールに関する国際条約の状況については、既に弊社レポート「『CASE最前線』第4回 ”自動運転②”」において説明がなされています。そこにもある通り、2018年10月、国連の作業部会である道路交通安全グローバルフォーラム(WP1)により、ウィーン道路交通条約とジュネーブ道路交通条約の加盟国に対して自動運転を推進する勧告がなされました。これにより、各国は自動運転に向けた国内法を整備することができるようになりました。

ここでは、その後、日本においてどのような法整備がなされてきたかについて見ていくことにします。

日本政府は2018年4月、「自動運転に係る制度整備大綱」を公表し、レベル3自動運転システムを備えた自家用自動車について、2020年の実用化を見据えた国内法制度の整備を行う方針を示しました。これを踏まえ、関係府省庁で法整備の検討がなされてきました。

日本の交通ルールを定める道路交通法は、主に警察庁が所管しています。2020年4月、特定条件下の自動運転(レベル3)に対応した改正道路交通法が、世界に先駆けて施行されました。主な改正点は以下の3点です。

 

① 自動運行装置の定義

まず、新たに「自動運行装置」という概念が定められました。自動運行装置とは、運転の「認知・予測・判断・操作」のすべてを代替する自動運転システムであり、かつ、作動データの記録機能が付いたもののことです。

この「自動運行装置」を使用する場合(つまり自動運転)も、道路交通法上の「運転」に含まれると規定されました。これにより、決まった速度や天候の範囲内(特定条件下)ではシステムが操作を担い、緊急時や特定条件外では運転者が操作を引き継ぐ「レベル3」の自動運転が可能となりました。

 

② 運転者の義務

運転者は、自動運転が可能となる特定条件から外れた場合、直ちに、そのことを認知するとともに、自動車を確実に操作することができる状態にあることが義務付けられています。[ii]

また、自動運行装置を適切に使用する場合には、携帯電話等を手に持って使用することや、カーナビ等の画面を注視することも許されるようになりました(”セカンダリータスク”の解禁)。

 

③ 作動データの記録

自動運行装置を備えた自動車について、整備不良車両に該当するかを確認したり、交通事故の原因調査を行ったりするために、作動データを記録・保存することが義務付けられました。

 

安全基準の整備状況

(1)国際基準の状況

上記でも登場した「自動運行装置」については、国連欧州経済委員会の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で議論が行われてきましたが、2020年6月、自動運行装置、サイバーセキュリティ及びソフトウェアアップデートの国際基準が成立しました。日本はWP29において分科会の副議長や各専門家会議の共同議長を務めるなど、議論を主導したとされています[iii]

国際基準の主なポイントは以下の通りです。

 

① 自動運行装置に関する基準

  • 自動運転システムがもたらす安全性が「注意深く有能な運転者と同等以上」のレベルであること:従来、自動運転システムの安全性が完璧でなければならないのか、一般の運転者程度で良いのかといった議論がありましたが、この論点に一定の基準が示された形です。
  • 運転操作引継ぎの警報を発した場合において、運転者に引き継がれるまでの間は制御を継続すること:自動運転システムから運転者への引継ぎには5~10秒程度の時間がかかると言われますが[iv]、運転者への引継ぎが完了するまで、システム側がきちんと自動車を制御することが求められています。
  • 運転者に引き継がれない場合はリスク最小化制御を作動させ、車両を停止すること:緊急の場合に自動運転システムが安全に自動車を停止させる機能は「ミニマム・リスク・マヌーバー」と呼ばれ、自動運転に必須の機能とされてきましたが、これが国際基準にも盛り込まれました。具体的には、音やランプ等で周囲に警報を発しながら路肩に自動車を停止させるなどが想定されます。
  • 運転者が運転操作を引き継げる状態にあることを監視するためのドライバーモニタリングを搭載すること:モニタリングの方法は、カメラやバイタルサインなど複数の方法が考えられます。
  • 不正アクセス防止等のためのサイバーセキュリティ確保の方策を講じること。
  • 自動運転システムのON/OFFや故障等が生じた時刻を記録する作動状態記録装置を搭載すること。
  • 上記要件について、シミュレーション試験、テストコース試験、公道試験及び書面を組合せて、適合性の確認を行うこと。

 

② サイバーセキュリティ及びソフトウェアアップデートに関する基準

  • サイバーセキュリティ及びソフトウェアアップデートの適切さを担保するための業務管理システムを確保すること。
  • サイバーセキュリティに関して、車両のリスクアセスメント及びリスクへの適切な対処・管理を行うとともに、セキュリティ対策の有効性を検証するための適切かつ十分な試験を実施すること。
  • 危険・無効なソフトウェアアップデートの防止や、ソフトウェアアップデート可能であることの事前確認等、ソフトウェアアップデートの適切な実施を確保すること。

 

(2)国内法の状況

日本では、国土交通省が主に所管する道路運送車両法が、車両の安全基準に関するルールを定めています。2020年4月、改正道路交通法の施行と合わせて、道路運送車両法の改正法が施行されました。なお、この改正は、前述の国際基準(2020年6月)の制定に先行して行われる形となりました。

主な改正点は以下の通りです。

 

① 保安基準の対象に「自動運行装置」を追加

自動運転を実現するのに必要な設備として、法律上「自動運行装置」を定義したことは先に説明しましたが、この自動運行装置を、自動車がクリアしてなければならない保安基準の対象とし、具体的な保安基準も定めました。なお、保安基準の内容は、前述の国際基準で定められた内容とほぼ同様のものになっています。

② 電子的な検査に必要な技術情報の管理

従来、車検における電子的な検査はランプ点灯確認等の簡便なものに留まっていましたが、自動運行装置については本格的な電子的検査を行う必要が生じます。これに必要な技術情報を独立行政法人で管理することとされました。今後、車載式故障診断装置(OBD)等を用いた検査制度が具体的に構築されていくことになります。

③ 「分解整備」から「特定整備」への拡大、メーカーから整備事業者への技術情報提供

従来、自動車の整備のうち特に安全性への影響が大きいものを「分解整備」とし、これを整備事業者が行うにあたって認証を受けることを義務付けていました。今回の改正では、この対象に自動運行装置を加えて範囲を拡大するのに合わせ、名称も「特定整備」と変更しました。また、メーカーは特定整備を行う整備事業者等に対し、点検整備に必要な技術情報を提供することが義務付けられました。

④ ソフトウェアアップデート等に関する許可制度

従来、プログラムやソフトウェアの事後的な改変については想定されていませんでしたが、今回、自動運行装置等に組み込まれたプログラム等のアップデートやバージョンアップ(法律上「特定改造等」と呼称)に関して、これを行う事業者があらかじめ国土交通大臣の許可を得ることを義務付ける制度が導入されました。また、ここでの事後的なアップデートは、無線(OTA: Over the Air)によって行うことも可能とされました。

 

【自動運転車であることを示すステッカー】

 

おわりに

これまでみてきたように、レベル3自動運転に関する法制度は一通り完了し、レベル4自動運転についても一部を残して制度整備が進んできている状況となっています(下表)。冒頭に触れたように、本田技研工業が11月にレベル3自動運転の型式認証を取得し、2020年度内の販売予定を発表するなど、引き続き活発な動きが予想されます。今後も目が離せない状況が続きそうです。

出典:「官民ITS構想・ロードマップ2020」 2020年7月15日

 

 

[i] 2020年11月11日付Bloomberg「ホンダ「レジェンド」、世界初レベル3自動運転車に-国交省型式指定」 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-11-11/QJM9Z6T1UM1R01

[ii] 道路交通法第71条の4の2第2項第3号。

[iii] 国土交通省報道発表資料「自動運行装置(レベル3)に係る国際基準が初めて成立しました」2020年6月25日 https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000343.html

[iv] 「自動運転の引き継ぎは5~10秒」BMWの自動運転専門家に聞く(後編)

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00134/041300043/

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