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REPORT

業界レポート『2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組み』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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2020年9月に就任した菅首相は、10月26日の就任後初の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。従来日本政府はパリ協定に基づき「21世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会の実現を目指す」とし、「2050年までに80%の温室効果ガスの削減を目指す(※1)」としていましたが、ここから更に大きく踏み込んだ目標が立てられたことになります。

12月3日にはNHKから「“脱ガソリン” 2030年代半ばに新車販売すべて「電動車」へ」と題し、「経済産業省が2030年代半ばに国内の新車からガソリン車をなくし、すべてをハイブリッド車や電気自動車などにする目標を設ける方向で調整している」(※2/下線は筆者)との報道がなされました。筆者は「2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2030年代半ばに新車販売を『電動車』に」という目標は、ハードルはあるものの、実現可能な極めて真っ当なもの、という印象を受けました。

また日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長は12月17日にオンライン記者会見を開催し、「自工会は政府の2050年のカーボンニュートラルを目指す方針に貢献するため全力でチャレンジすること」を表明すると共に、「カーボンニュートラルを目指した取り組みは、サプライチェーン全体で取り組まなければ、産業の競争力を失うおそれがあり、国家のエネルギー政策の大変化なしに達成は難しい」ことを訴え、「電動化≠EV化」であることを協調されました。(※3) 。

更にこの会見の一週間後の12月25日、経済産業省は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表しました。2050年カーボンニュートラルへの挑戦を、「経済と環境の好循環につなげるための産業政策」であるとし、14の重要分野を選定してそれぞれに高い目標が掲げ、「民間企業の前向きな挑戦を政府として全力で応援していく」としています(※4)。

 

筆者はこの戦略の中で、特に発電部門の脱炭素化に向けたロードマップが具体的に示されたことを画期的だと受け止めています。「すべての電力需要を100%再生可能エネルギー(再エネ)で賄うことは困難」「火力は必要最小限、使わざるを得ない」とし、増大する電力需要に対応しつつCO2排出量の削減に向け、再エネの最大限導入、安全性を高めた既存原子力発電所・次世代炉も最大限活用する一方で、再エネ+原発では対応が困難な出力変動を、アンモニアや水素などのグリーン燃料を導入した「ゼロエミッション火力」及びCO2回収で2050年までに実現する、という内容は、実現可能性が高くかつ「急変」に伴う「痛み」が少ないものという印象を持ちました。経産省は「この戦略を、着実に実施するとともに、更なる改訂に向けて、関係省庁と連携し、目標や対策の更なる深掘りを検討していきます。」と表明しています

 

自動車の走行時に排出されるCO2の削減に向けて電動化は不可欠な技術である一方、電動化はCO2削減のための一手段であって、電動化それ自体は目的ではありません。

トータルでのCO2排出量を削減するためには、走行中のCO2排出量(Tank to Wheel)を削減するのみならず、燃料(バッテリーEV、PHEVの場合は電気)を製造・流通時に発生するCO2(Well to Tank)に加え、自動車を製造(原材料の製造も含む)・廃棄する際のCO2(Life Cycle Assessment/LCA)も削減する必要があります。この点についてはVolkswagenが興味深いデータを公表していますのでご紹介します。
図1は同社のe-Golf(バッテリーEV) と Golf 7(ディーゼル車)を200,000km走らせた場合の車両製造時+燃料製造時+燃料そのものからのCO2排出量の比較です。100%風力由来の電力で運用した場合は当然e-Golfの排出量が最小となっていますが、EU 28カ国の平均電源構成では、ディーゼルのGolf 7に対して「多少少ない(ディーゼルのGolf 7が1km走行あたり140gの CO2を排出するのに対してe-Golfは119g)」程度、石炭火力発電の割合が多いドイツではe-GolfのCO2排出量がGolf 7を超え、低効率の石炭火力発電所が多い中国ではe-Golfの方が3割程度CO2の排出が多いという結果となっています。

図1:ディーゼル車と電力構成別バッテリーEVのCO2排出量比較

(出典:https://www.volkswagenag.com/en/news/stories/2019/11/how-volkswagen-makes-the-id-3-carbon-neutral.html

 

現時点では確立されたLCAの計算方法がないため、このデータに対しては様々な意見が見受けられますが、ディーゼルゲートの汚点を挽回するべくバッテリーEVに傾倒するVolkswagenがこのようなデータを公表しているということは、日本自動車工業会と同様、「CO2削減は自動車メーカーの努力だけではいかんともしがたく、素材(バッテリー原料を含む)メーカーや電力会社が一丸となって取り組まなければカーボンニュートラルは実現しない」というメッセージだと捉えてよいのではないでしょうか。

 

今回日本政府から発電部門の脱炭素化に向けた具体的かつ現実的なロードマップが示されたことにより、自動車メーカーは、電動化をどう進めれば、それぞれの時点でのCO2排出量を最小化に貢献できるのか、具体的なスケジュールが描けるようになりました。

CO2排出量の削減、ひいてはカーボンニュートラルは我々人類が地球上でサステナブルに生きていくために実現しなければいけない課題である一方、太陽光や風力発電の急激な導入による再エネ賦課金の高騰(=電気料金の上昇)や、行き過ぎた政策によって十分にコストが下がりきっていない電動車しか選択肢がなくなり、低所得層やこれからクルマを買おうという発展途上国の人たちがクルマを所有できなくなることを「地球環境の為」といって押し付けるのは SDGsの「1. 貧困をなくそう」、「10.人や国の不平等をなくそう」に反します。

「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の発表を機に、今後「痛み」を伴わない、真の意味でサステナブルなカーボンニュートラルへの道筋が議論されることに期待したいと思います。

 

※1「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月11日閣議決定)

※2 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201203/k10012743081000.html

※3 https://www.youtube.com/watch?v=zjMg8IsWjIQ&t=1914s

※4 https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012.html

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