メインメニューを開く

REPORT

業界レポート『資源インフレによる自動車コストへの影響考察』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

  • Facebookでシェアをする
  • Twitterでリンクを共有する

■はじめに

2020年のパンデミック以降、サプライチェーンや物流の混乱、在宅勤務・在宅レジャー等の生活の変化および、ウクライナ危機に伴う資源高騰等さまざまな要因によりインフレが進行している。日本において自動車の価格は2022年5月現在大きく変わっていないが、欧米ではテスラが値上げをするなど影響も出始めている。原材料価格の上昇により、日本における乗用車の製造コストがどの程度影響を受けるのか、考えてみたい。

■試算の前提条件

自動車には金属、樹脂、貴金属など様々な材料が使用されており、代表的なものとして鉄・アルミ・ゴム・プラチナ・パラジウム等がありハイブリッド車や電気自動車などに使われるバッテリーにはコバルト・ニッケルなどが挙げられる。ここでは、車両の中で最も大きな重量を占める鉄について試算し、自動車製造コストへの影響を考えてみる。

 

想定する車両は量販価格帯のコンパクトクラスとする。

・5ナンバーサイズ
・ハッチバック
・排気量1500CC(駆動モーター非搭載、過給無し)
・乗車定員5名
・車両価格150万円~250万円
・車両重量1000kg~1200kg

■車1台分に使用される鉄の重量

この車格の車は一部外板にアルミを使っているものもあるが、ボディ骨格や外板にはほぼ鉄が使われている。またサスペンションなどの懸架装置やブレーキディスク・キャリパーなどの制動装置、排気管も鉄製が主流である。パワートレインも、エンジンブロックやミッションケースなどはアルミ鋳造が一般的だがクランクシャフトやピストン、コネクティングロッド、カムシャフトと言った機構部品には鉄が使われている。その他の主な鉄製の部品としてシート内のフレームやホイールなどがある。これらを含め、車1台分で使われている鉄の重量を車両重量の約半分として、500㎏と仮定する。

図1.自動車に使われる鉄製部品の例(ボディ、足回り部品、エンジン部品)

■単位重量当たりの価格

鉄材料と言っても部品に加工される前の形態は鋼板や鋼管、インゴットなど様々であり強度や加工性などのグレードも多様である。また、加工方法もプレス加工・鋳造・鍛造等様々なため、単位重量当たりの材料コストを綿密に計算するのは現実的ではない。今回は影響の程度を粗く試算することを目的とし、一般的な圧延鋼板の価格を使用して試算を行う。

 

日本鉄リサイクル工業会の鋼材市中実勢価格によると、2020年1月時点の圧延鋼板の価格*1は90円/kgであった。これが2022年1月には145円まで60%以上も上昇している。この価格で材料費を試算すると、2020年1月には90円/kg×500kg=45,000円だったものが、2022年1月には145円/kg×500kg=72,500円となり、鉄製部品の材料費だけで27,500円も値上がりしていることになる。

■影響の考察

もちろん、自動車メーカー各社は独自の調達ルートを持って在庫管理や価格交渉を行っているので必ずしもこの変動をダイレクトに受けるとは限らない。また開発・製造現場の努力によってその時々の状況に合った材料への置き換えも行うだろう。しかし、鉄だけで2万円以上の材料費影響があり、その他の原材料も値上がりしている状況で、原油・電気料金の上昇により加工費や工場の操業費も値上がりし、燃料価格の高騰により物流費も上昇する。加えて、原材料の鉄鉱石はブラジルなど海外からの輸入であるため、円安の影響も発生する。更に、上記価格は2022年1月時点の価格であるため、ロシアによるウクライナ侵攻の影響は織り込まれていない。

 

元々原価率の低い大衆車において、数万円のコスト増加は原価率を数%押し上げるので、影響は極めて大きいと推察される。今でこそ好決算が続いている自動車OEM各社であるが、各社とも2023年3月期の見通しにおいてはインフレや鉄鋼、半導体、希少金属等の資源制約により減益予想としている。今後はこれらのコスト上昇要因を乗り越えて開発・生産しなければならない上に原材料や部品加工、完成車組立などすべての製造工程でカーボンニュートラルの実現を目指さなければならない。

 

自動車OEMにはサプライチェーンマネジメントとサーキュラーエコノミーを両立しながら、社会性と顧客ニーズに応えるという非常に難易度の高い経営が求められている。

 

[出典]

1.鉄鋼新聞『鉄鋼市場価格』を基に作成された日本鉄リサイクル工業会『価格推移表 鋼材市中実勢価格』(https://www.jisri.or.jp/kakaku)2022年5月20日時点の掲載データより
冷延薄板(0.8ミリ)を参照。2020年1月値「89,600~90,900(円/トン)」および2022 年4月値「144,400~155,900(円/トン)」の中央値をそれぞれ90,350円、145,150円とし、単位を円/kgに変換した上で、少数点以下を四捨五入した数値を使用した。                    

 

RELATED関連する記事

RANKING人気の記事

CONSULTANTコンサルタント