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<開催報告>第4回水素エネルギーを語るシンポジウム 「水素エネルギー実用から普及へ~欧州および日本の最新動向~」

弊社が主催し、住友商事株式会社が協賛した第4回水素エネルギーを語るシンポジウム、「水素エネルギー実用から普及へ~欧州および日本の最新動向~」が9月20日に開催された。
基調講演の講師として、TOYOTA MOTOR EUROPE NV/SA 末松啓吾氏、FEV-Consulting Nase Alexsander 氏、本田技研工業(株) 長谷部哲也氏の三氏を迎え、モデレーターは国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏が務め、パネリストとして東京大学先端科学技術研究センターの木村達三郎氏が参加した。

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【基調講演要旨】

”Viable Hydrogen Ecosystems by utilization of multiple Fuel Cell Applications in Europe”
(「さまざまな燃料電池アプリケーションの活用による欧州での水素エコシステムの実現」)
(TOYOTA MOTOR EUROPE NV/SA, Powertrain 2(Fuel Cell Business), Research&Development 2, Technical Head 末松 啓吾 氏)

◆水素エネルギーを通じたカーボンニュートラル実現のアプローチ

現在の政治トレンドをみると、欧米中日の主要各国がそれぞれカーボンニュートラルにコミットしており、欧州グリーンディールのような大規模助成と規制強化の両面の取組が進んでいる。規制面では、大型トラック(Heavy duty truck)に対して初のCO2排出規制として2030年までに30%のCO2削減義務(2019年比)が課せられ、(長距離走行に適するとされる)水素エネルギーがCO2削減に貢献できるまたとない機会が到来している。
産業別では、欧州委員会は特に物流・産業領域におけるCO2削減に期待しており、2030年までの5年間で再生可能エネルギー水素(グリーン水素)により40GWの水素生産を行う目標も掲げられている。
欧州においてトヨタは「燃料電池のリーディングカンパニー」として第1位の認知度、代替パワートレインに積極的な企業としても第2位の認知度を得ている。トヨタ欧州としては、カーボンニュートラル実現のため、2つの軸によって欧州カーボンニュートラルに貢献したい。すなわち、プロダクト軸においては、自動車だけでなくB2Bの様々なアプリケーションで燃料電池を使ってもらう。また、エコシステム軸として、政府・自治体や地元企業とともに水素エコシステムの実証を進めていきたい。

◆トヨタの燃料電池技術の適用

欧州は全世界の水素関連投資額の約半分を占めており、欧州が水素社会が最初に立ち上がる地域となる可能性が高い。
トヨタは従来、自動車を中心とした水素エネルギー活用に取り組んできたが、今後はさらに様々なアプリケーションへの水素エネルギーの適用を目指し、例えばMIRAIの燃料電池システムをベースにした箱型・平型のモジュールを作成している。これにより、より安価で信頼性・耐久性の高いものづくりを目指している。
燃料電池モジュールにおける現在の技術的ハードルは、粉塵対策、振動対策、耐水性、電磁両立性などがある。
トヨタのB2Bビジネスにおいて、バスやマリンボートにおいて燃料電池が導入され、電車に関しても現在進行中のプロジェクトが存在するなど、すでに具体的な成果が出始めている。トヨタのB2Bビジネスでは、プロダクトの製造販売だけでなく、お客様にいかに長期的に貢献するかを重視し、ロジスティクス、アフターセールス、統合サポートを含めた支援を目指している。燃料電池モジュールについてお客様に理解してもらいながら、お客様の課題を拾い上げ、シミュレーション・評価を欧州のお客様に提供していく。アフターセールス領域では、データモニタリングを使いながら最適なソリューションを提案する取り組みも進めていきたい。また、燃料電池モジュールの普及のためにはローカリゼーションも欠かせない。トヨタはベルギーのザベンテムにおいて燃料電池モジュールの現地組立生産を開始している。

◆水素エコシステムの構築

水素エコシステムの形成のためには、①顧客に水素エネルギーが受容されていること、②水素供給インフラが整っていること、③政府と一体となった活動があること、④技術のイノベーションがあることが重要となる。なかでも1つめの水素エネルギー受容に向けては、第1段階として地場企業(CaetanoBus等)とともに地域社会での情報発信を行う、第2段階としてファイナンスやロジスティクスを含めトヨタグループの総力を結集した活動を行う、第3段階としてインフラ関連企業との連携を行う、そして第4段階として比較的小さなエコシステムからスタートすることで現実的なプランを計画・実現することを目指している。水素エコシステムの事例として、ドイツ北西部のニービュルにおいては約20の企業が参加し、水素バス、水素ステーション、再生可能エネルギーによる水素生成などの通じた小規模なエコシステム形成を行っている。

”A new era in heavy duty trucks: Which concept wins the race?”
(「大型トラックの新時代:パワートレインの勝者は誰か」)
(Managing Director, FEV-Consulting, Mr. Nase Alexsander)

◆競合する3つのパワートレインとその評価軸

世界各地でゼロエミッション車規制が強化されるなか、商用車部門(トラック部門)の主流パワートレインとなりうるソリューションには、「二次電池式パワートレイン」、「燃料電池式パワートレイン」、「水素燃焼エンジン(内燃機関)搭載パワートレイン」の3方式があり、これらは互いに競合し得る。
それぞれのパワートレイン方式の評価軸として、まずコストの問題がある。コストには購入コストとランニングコスト(エネルギー費、道路交通料、サービス・メンテナンス費等)があり、これらを合わせた全体のコストを「総所有コスト」と呼ぶことができる。また、実用性の観点(トラックの操作性、最大積載量への影響、1台のトラックを多用途に使える相互運用性、公共インフラへの依存度等)も考えなければならない。

◆3つのユースケースにおけるコスト分析

これらのコストや実用性といった基準の重要度は、トラックのユースケースに左右される。ユースケースは、都市型配送、地方方配送、長距離輸送の3つに大別される。この分類の一端には都市型配送があり、この場合には二次電池式トラックが優位となる。必要な走行距離が短く、それにより電池容量や公共インフラへの依存度も低く抑えることができるためである。もう一端のユースケースは長距離輸送であり、それらの中間に位置するのが地方型配送である。後者2件のユースケースでは、様々なテクノロジーを組み合わせた適切なソリューションが求められる。
購入コスト低減の決め手となるのは、ゼロエミッション・パワートレインに用いられる主要技術のコストダウンである。具体的には、二次電池式電気自動車(BEV)における電池パックのコスト、燃料電池車(FCV)における燃料電池システムのコスト、水素内燃機関搭載車(ICE車)における水素タンクシステムのコストがそれにあたる。電池パックは既にコストダウンが進んでおり、2030年には約115ユーロ/kWh以下になると予想される。燃料電池システムのコストダウンは電池パックよりも遅れており、2025‐2030年に大幅なコストダウンが起きるとみられる。2030年には長寿命燃料電池システムのコストが100ユーロ/kWh水準に達すると見込まれる。水素タンクは、700バールの圧縮水素タンク技術が主流になると予想され、導入コストは600-700ユーロ/kgと考えられる。FEV-Consulting独自の試算では、2030年の40トン長距離トラックのパワートレインコストは、3方式のうち内燃機関型が最も安価になると予想される。
ディーゼルエンジンを基準とした各パワートレインの購入コスト(2030年時点)は、二次電池式が+11.7万ユーロ、燃料電池式が+6万ユーロ、水素エンジン型が+3.5万ユーロと試算される。
また、ランニングコストの要となるのはエネルギーコストである。40トン長距離トラックを100km走行させるのに必要なエネルギーコストは、ディーゼル燃料の場合40-50ユーロ以上となる。二次電池式の場合、デポ充電方式では安価だが、HPCスタンド方式ではかなり割高となる。燃料電池方式、水素エンジン方式は、ともにディーゼル燃料よりもやや安くなると見込まれる。
上記に道路交通料やサービス・メンテンナンス費を加え、2030年時点の「総所有コスト」を検討すると、ベースラインシナリオにおいてはディーゼルエンジン、水素エンジン、二次電池式がほぼ同水準のコストであるのに対し、燃料電池方式がより安価とであるいう試算となった。

◆各パワートレイン方式の導入ロードマップ

先進的な商用車OEMにおいては、2024年までに二次電池式の長距離トラックを提供する予定となっている(トレイトン、ダイムラー等)。燃料電池トラックは、2025年以降に実現する見通しであるが、一部、販売台数の少ないOEMではやや前倒しとなる可能性もある(イヴェコ、ニコラ等)。
2025年以降の中大型商用車市場において、「電動化推進シナリオ」(欧州委員会の定める非常に厳格なCO2排出目標を前提としたシナリオ)においては、二次電池式と燃料電池式の混在が予想される。一方、燃料電池式や二次電池式が計画通りにコストや耐久性を向上できなかった場合の「代替シナリオ」においては、水素エンジン方式が2025年以降の商用車市場(特に長距離トラック分野)において地位を確立する可能性は十分にある。
それぞれのパワートレインに有利・不利な変動要因は残っており、商用車パワートレインの覇者について現時点で明確な答えはないものの、今後数年間の技術革新やコスト削減の状況が注目される。

水素利用拡大に向けたホンダの新たなチャレンジ
(本田技研工業株式会社 長谷部 哲也 氏)

◆Hondaのカーボンニュートラル社会実現に向けて

世界の環境・エネルギー課題と水素需要の高まり
IPCCの報告書によると、最も温度上昇が抑えられるシナリオにおいてでさえ、20年以内に1.5℃を超える予測となっており、2050年ネットゼロ実現には大胆な取り組みが必要となる。COP26ではグラスゴー気候合意を採択して閉幕し、温度上昇を+1.5℃に抑えることが事実上の世界目標になったが、達成時期含め、各国の目標は様々であると言う課題もある。
カーボンニュートラルに向け、主要国で水素・クリーンエネルギーへの投資が拡大し、幅広い分野での水素利用に期待が高まって来ており、2050年CN宣言以降、水素がエネルギー基本計画に組み込まれた。

新領域事業拡大に挑む Honda の取組方向性と組織運営体制
Hondaは環境安全ビジョンとして、『「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」の実現』を掲げ、環境負荷ゼロの循環型社会の実現を目指す。そのための具体的なアクションとして、「二酸化炭素排出量実質ゼロ」、「カーボンフリーエネルギー活用率100%」、「サステナブルマテリアル使用率100%」の3つを掲げて取り組むことを宣言している。
カーボンニュートラルに向けたマルチパスウェイの考え方から水素を有効なエネルギキャリアの一つと捉え、適材適所なエネルギー・パワーユニット技術を提供できるよう取り組んでいく。水素事業領域においては、FCを自社の車両用途以外の商用トラックや定置電源等の新たなビジネス展開に向けて取り組む方向性を示している。

◆HondaのFC開発進化と多用途展開について

FC 技術開発実績と FC 技術進化
20年以上にわたりFC技術の研究開発で実用化に取り組み、2016年のCLARITY FUEL CELLでは世界で初めて5人乗りのセダンとして発売した。走行実績として、各地域の厳しい環境テストをクリアーし、日米市場の累積走行距離は8800万kmを突破している。また、次世代に向けた燃料電池の進化として、GMとの共同開発によるコスト低減、多用途展開に向けた耐久時間の拡大など、研究・用途開発を実施している。

FC 技術の多用途展開と水素利用拡大へのチャレンジ
水素は高いエネルギー密度で貯蔵でき、運べ、すぐに充填できる特徴があり、バッテリーでは難しい稼働率が高い大型モビリティや大型インフラの電源に適している。ホンダはいすゞ自動車とのFCトラックの実証実験をはじめとした、FCシステムを活用した様々な研究を行っている。

・FC大型トラック:いすゞ自動車との共同研究として、いすゞ自動車の大型トラック ギガをベースに、航続距離600㎞を目標に、22年度 モニター走行開始を目指して、現在車両の開発に取り組んでいる。 

・FC定置型電源:北米での実証には、リースアップした CLARTY FUEL CELLのFCパワーユニットをリユース活用し、優れた応答品質と信頼性とを備えたクリーンな電源装置の実証に取り組んでいる。

◆HondaのFC開発進化に向けた開発基盤について

FC開発進化として、FCの耐久性・性能安定性向上に関わる最適な水マネージメントを行うためのシミュレーションツールを構築し、また新規アプリケーション展開に向けた独自モデルベース開発により、「外販開発の加速」と「最先端技術の迅速な適用」の実現を可能にすることで、今後様々なステークホルダーからのアプリケーションへの適合要求に対し、各部の最適設計も可能になると考えている。

パネルディスカッション

上記3名による基調講演の後、清水氏をモデレーターとして、東京大学の木村氏を交えて、個別論点に対する意見交換および視聴者からの質疑に対するディスカッションが行われた。

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