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従来とは異なる切り口で新たなビジネス機会を見い出す
◆エコカー補助金、残額は 18日現在で約 789 億円。次世代自動車振興センター
<2010年08月19日号掲載記事>
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【終了間近のエコカー補助金制度】
エコカー補助金制度が 9月末で終了する。自動車メーカーではテレビ CM で来店を促進したり、ディーラーではお盆休みを返上して開店したりするなど、各社が、最後の駆け込み需要を獲得するため、積極的に活動をしている。
ただ、補助金の交付を受けるには、9月末までに車両登録を済ませることが必要なため、車種によっては、在庫・生産面などの関係から、既に間に合わないケースも出ている。
また、補助金の残高も少なくなっており、9月末の期限を待たずして終了するという見方も多くある。今回の記事で取り上げた補助金の残高は、次世代自動車振興センターや自販連などで、交付金の申請が受理されたベースの金額であり、受理される前の金額も含めると、これから顧客がディーラーで補助金の対象となる新車を購入をしても、補助金を受けられるかわからない状況である。
せっかく顧客が来店しても、「補助金が出ない(出ないかもしれない)なら買わない」ということになり兼ねないため、例えば、スバルでは 9月 5日までに成約した顧客に対しては、補助金を受けられなかった場合に、 最大 10 万円をキャッシュバックする施策を導入している。
上記のような駆け込み需要の取りこぼしを防止するための施策だけではなく、補助金の終了に伴う反動で、10月以降に懸念されている需要の落ち込みに対応するための施策を導入する自動車メーカーもある。弊社メールマガジン前回号の 1 クリックアンケートでも取り上げたが、トヨタは 10月からの 2~ 3 カ月の予定で、1台当たり 5 万円の販売奨励金を導入する方針とのことである。
【エコカー減税・補助金の効果と今後の影響】
各社が、エコカー補助金制度による需要の獲得に向けた施策を導入し、終了後に懸念される需要減少の対策を講じているが、エコカー補助金の開始直後は、自動車メーカーでは大きな影響はないと想定していたようである。以下は、2009年 5月の自動車ニュース&コラムの記事であるが、補助金制度の効果を期待するのは三菱自動車の 1 社であった。
◆新車買い替え補助制度(エコカー補助金制度)による販売増、自動車大手8社では三菱自動車のみ期待。
4月から実施されているエコカー減税*1 による販売増を見込む企業が 5 社に対し、買い替え補助制度の効果を見込むのは三菱自動車 1 社にとどまった。
<2009年05月17日号掲載記事>
*1
車両重量と燃費の組み合わせで一定の基準を満たした新車を購入した場合に、取得税などが減免される。2012年 4月まで継続
自販連では、需要全体を過去からのデータに基づく実勢需要とエコカー減税・補助金の効果を区分して分析しており、09年度は、エコカー減税・補助金の効果が 75 台~ 100 万台はあったとしている。エコカー減税・補助金のどちらが、どれだけ効果があったのかまではわからないが、エコカー補助金は、当初、自動車メーカーが想定していた以上の効果を出しているのではないだろうか。
併せて、自販連ではエコカー減税・補助金対象の新車購入者へアンケートを行っており、「想定した買い替えサイクルよりも早く購入した」と回答した人の割合などから、エコカー減税・補助金の効果を 100 万台とすると、その内、30万台が、エコカー補助金終了後の需要減少に繋がる、いわゆる先食い需要に相当するとしている。先食い需要の影響は、毎月▲1.2~▲ 1.3 万台程度のペースで、今後、 2年間程度続くと見込んでいる。
【今後、展開していくべき施策】
需要の先食いにより販売台数の減少が懸念される 10月以降に、どのような施策を展開していくべきだろうか。
1 つは、前述したトヨタのように、販売奨励金を導入することが考えられるが、自動車メーカーにとっては負担が増大することに繋がる上に、値引き販売が膠着化すれば、ディーラーにとっても収益圧迫につながる可能性がある。実際、日本より先にスクラップインセンティブが終了し販売奨励金を導入したドイツでは値引きが膠着化している状態という話も聞く。
また、弊社メールマガジン前回号の 1 クリックアンケートの結果でも、「(エコカー補助金制度終了に伴う)販売奨励金の導入はやむを得ないが、期間や金額、車種等を限定し、段階的に減らしていくべきである」という回答が 1位であった。ドイツでの事例を考えれば、現実的に、減らしていけるかどうかが重要となるであろう。
そして、 1 クリックアンケートの結果で、 1 位と 僅差で 2 位となった「販売奨励金は導入せず、他の販売促進策を練るべきである」ということも考えなければいけないであろう。
販売奨励金は、主に価格志向の顧客に対する施策であるが、それ以外の顧客も来店すると考えられる。
例えば、9月中にも発売が予定されている「フィット」のハイブリッド仕様車が欲しいなど商品に魅力を感じている顧客である。実際、前述した自販連のアンケートでも、「エコカー減税・補助金がなくても同じ車をこの時期に購入していた」と回答した顧客が 13 %存在している。全体の中の割合で見れば、補助金が終了する 10月以降は増加するのではないだろうか。
「車は単なる移動手段の一つである。そうであれば、(一定の機能・性能があれば)より安い方が良い」と考える顧客が増える中で、多少の値引きには左右されず、商品に魅力を感じて購入する顧客は、自動車業界にとって、大切にしていかなければいけない顧客である。
こうした顧客に対しては、EV (電気自動車)や PHV (プラグイン・ハイブリッド車)など新たな価値を持った商品を導入していくことに加え、例えば、自動車業界でも秋田トヨタが導入しているステイタスプログラムなど顧客サービスに濃淡を付けるという方向性の深化や、トヨタの「パッソ」のように、WEBを販促だけでなく、囲い込みの手段として更に活用していくことが考えられないだろうか。
また、もう一つ、需要の先食いとは異なる基点から発生する需要が考えられる。事故や免許取得、引越しなど、通常の買い替えサイクルをベースとしない需要である。
例えば、引越しを基点とした需要に対しては、異なる販社間で顧客情報を連携する仕組みを強化したり、引越し業者とアライアンスを組んで流入や流出に関する情報を得たりすることなどが考えられないだろうか。
10月以降は、需要の先食いにより相対的に価格志向の顧客は減少すると思われる。価格志向だけではない顧客を獲得する時期とも捉えて、自動車メーカーとしても、販売奨励金による支援だけでなく、上記で述べたような仕組み作りを支援することも検討していく余地があるのではないだろうか。
【従来とは異なる切り口から新たなビジネス機会を見い出す】
従来、自動車メーカーや販社は、自動車の需要が減少する中で、自動車の販売から保有までのビジネス機会を獲得すべく各種の施策を導入してきた。延長保証やメンテナンスパック、買い替えタイミングを狙った重点的な顧客コンタクトなどである。
自動車の販売から保有までのビジネス機会の獲得とは、主に時間という切り口で、販売から保有までのビジネス機会を深堀していくことと考えられる。
時間という切り口での深堀に加えて、他の切り口を用いてビジネス機会の幅を広げたり、深堀したりする余地があるのではないだろうか。
例えば、前述した引越しに関係する需要を獲得するために、個別の販社のテリトリに限らず地理的な切り口でビジネス機会を広げることも考えられる。
他にも、神奈川トヨタには自動車のショールームにアウトドアショップを併設している店舗があるが、これはライフスタイルという切り口から、自動車に限らずビジネス機会を広げる取り組みとも捉えられる。販社の収益の中心が新車ビジネスからサービスビジネスに変わる中で、サービスビジネスの顧客接点を得るという意味でも効果があるのかもしれない。
従来とは異なる切り口から新たなビジネス機会を見い出し、既存ビジネスとの組み合わせなどを考えながら、それを獲得する仕組みを作ることが重要なのではないだろうか。
<宝来(加藤) 啓>