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戦略的にバリューチェーンを見直す
◆マツダ、欧州で「RX-8」の販売を打ち切りへ。「ユーロ 5」に適合せず
本社宇品工場で生産し、輸出している欧州仕様車を 6月に生産を終える。欧州では 2003年に発売、2004年には 1 万 8,525台を販売したが、2009年は 1,128台にとどまっていた。
<2010年05月06日号掲載記事>
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【環境規制の影響】
マツダが、ロータリーエンジンを搭載した「RX-8」の欧州での販売を終了する。現地の新しい排出ガス規制「ユーロ 5」に適合しなくなるためである。
ホンダも「シビック タイプ R (4 ドアセダン)」の生産を終了予定だ。同じく排出ガス規制への対応が難しいためとのことである。
数年前から懸念されていた、環境規制の強化により、車が販売できなくなる・顧客獲得の戦いの土俵にも上がれなくなる事態が、現実に起きつつある。
それがビジネスに与える影響は、当該車種の販売台数減少に留まらないことも想定される。例えば、「RX-8」のようなブランド・アイコン的な商品の場合、統合的なブランド戦略が崩れてしまうことや、同車に憧れて入社を検討する社員が流出してしまうことも考えられる。
今回、「RX-8」の販売が終了するのは欧州のみであるから、ビジネスに与える影響は限定的かもしれない。ただ、環境規制の強化は、今後も、世界的な規模で着実に進んでいくであろうし、将来的に、深刻な影響を与える事態にも繋がりかねない。
【対応を進める自動車メーカー】
もちろん自動車メーカーは、ただ手をこまねいているわけではない。外部環境と内部環境を照らし合わせながら、対応を進めている。
今回取り上げた環境対応を例にとれば、マツダは、トヨタとハイブリッドシステムの技術ライセンス供与を合意し、2013年までに自社開発の次世代ガソリンエンジンとトヨタのハイブリッド技術を組み合わせた車両の発売を目指している。
ホンダは、「シビック タイプ R」と同じスポーツ・セグメントに分類される自社開発のハイブリッド車「CR-Z」を発売した。以前から「シビック」のハイブリッド車は発売しているが、スポーティという意味では「CR-Z」の方が商品のメッセージ性は強い。
両社の対応の違いの一つに、ハイブリッド技術を自社内のバリューチェーンに持つか・持たないかが挙げられる。
【バリューチェーンをどう構築するか】
従来、自動車メーカーは、技術開発や商品企画から始まり、購買、生産、販売までのバリューチェーンを概ね、全方位に自社内で構築する方向性で取り組んできた。
上記で述べたホンダの対応は、ハイブリッド技術を自社内のバリューチェーンに取り込むという意味で、従来型といってよいだろう。
一方、マツダは、ハイブリッド技術を自社内のバリューチェーンから外出ししている。こうした対応は、自動車メーカーにとって、従来の方向性から考えると抵抗感があるかもしれない。特に、ハイブリッド技術は、競争力の焦点の一つでもある。
ただ、自動車メーカーは、環境技術一つとってみても多様化している上、環境対応だけではなく、新興国向け車両の開発や販売網構築など、同時多発的に対応を進めなければいけない。従来のように、バリューチェーンを全方位に自社内で構築することが難しくなってきているのではないだろうか。
その場合、現状自社が保有しているリソースと、追加投入可能なリソースを勘案しながら、バリューチェーンの一部に注力、あるいは一部を外出しする方向性も検討が必要になると考えられる。
バリューチェーンの一部に注力する方向性とは、特定の付加価値で強みを持ち、そのエキスパートになることである。
一般に、特定技術・部品に強い部品メーカーなどが該当するだろう。自動車メーカーでも、例えば、生産技術やグローバルな生産能力という強みを活かせないだろうか。電気自動車領域で強みを持つ米国のベンチャー企業も量産となると生産面でのリソースが必要になるが、自動車メーカー並みに持つことは難しい。自動車メーカーは、生産領域での強みを活かし、こうした企業と提携していくことは考えられないだろうか。
バリューチェーンの一部を外出しする方向性とは、単に外出しをするのではなく、外部を活用しながら、全体の付加価値向上を志向することである。
一般に、「アップル」や「デル」などが該当するだろう。自動車メーカーでも、例えば、環境技術は外部から適材・適所で調達する一方で、商品全体のパッケージング・商品企画の競争力を高め、全体の付加価値を向上させることも考えられないだろうか。その場合、目指すべき姿として、自動車メーカーや OEMというより、総合プロデューサーという方が近いかもしれない。
【戦略的にバリューチェーンを見直す】
環境意識の高まりや新興国での需要拡大など、自動車メーカーを取り巻く状況が大きく変化しつつある。
スピード感を持った対応が必要な中で、バリューチェーンを全方位に自社内で構築していくことが困難なことも想定される。前述したように、バリューチェーンの一部に注力、あるいは一部を外出しする方向性も検討が必要になると考えられる。
その際、足元の状況から短期的な視点で対応を積み重ねていくと、結果として競争力を失ってしまいかねない。
長期的な視点に立ち、戦略的に、自動車全体のバリューチェーンの中で、どこに競争力を持つか・どのような姿を目指すのか、見直してみる時期ではないだろうか。
自動車業界の中心に存在し、川上・川下に広範なネットワークを持つ自動車メーカーだからこそ、様々な可能性を検討できると考える
<宝来(加藤) 啓>