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異業種の事例を参考にする
◆乗用車の市場動向に「不況」と「環境意識」の影響大きく
ハイブリッド車に活路か。自工会調査より
<2010年04月08日号掲載記事>
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【乗用車市場動向調査の結果概要】
自工会から乗用車市場動向調査の結果が発表された。本調査は隔年で行われており、今回は、09年 9月~ 10月にかけて、全国の約 1 万世帯を対象にしたものとなっている。
その結果は、ここ数年、業界内で言われていることが、再確認される内容であった。主だった内容をいくつか記載したい。
・世帯保有率が減少
99年から 07年まで 79 %前後で推移していたが、09年は 75 %に減少した。
・保有期間が長期化
前保有車の保有期間は長期化の傾向が継続しており、新車では平均で 7.3年、中古車では平均で 5.3年となった。
・車型のダウンサイジングが進行
保有している車型は、「大・中型」「小型」が減少し、「軽」が引き続き増加傾向にある。
・エコロジーとエコノミーの意識が増加傾向
今後、車を購入する時に重視することでは、「燃費のよさ」「排出ガスが少ない」「リサイクル率が高い」の 3 つが増加している。
保有台数の減少傾向が、今後も継続していくことを予見させる調査結果となっている。
【継続が想定される保有台数の減少傾向】
大幅な新規購入の増加を望めない成熟した国内市場では、買い替えを促すことが、保有台数の減少に歯止めをかける一つの重要な要素であるが、前述の通り、保有(買い替え)期間の長期化傾向が続いている。
そして、従来と比べて買い替え期間が長くなった理由の中で、年々増加しているのが、「車の使用頻度や走行距離が以前と比べて少ない」という回答である。
車ユーザーが、そもそも出掛けなくなったのか、出掛ける際に他の移動手段を使うようになったのかは、この調査だけでは断言できないが、生活の中で車を使用しなくなる傾向が高まっていることは読み取れる。
加えて、現在、車を保有している世帯の内訳を見ると、車がないと不便な場所に住んでいる世帯が約 60 %、車はなくても不便ではない場所に住んでいる世帯は約 40 %となっている。
仮に、車はなくても不便ではない場所に住んでいる車ユーザーが、生活の中で車を使用しなくなり、買い替え期間を長期化させるどころか、車を手放し始めたら、どうなるであろうか。
保有台数が現状から 40 %減少するとは思えないが、保有台数の減少傾向は当面継続することが想定され、底の見えない問題とも考えられる。
【市場縮小に対応する方向性と現状の取り組み】
市場規模が縮小する前提の環境下で、業界が対応していく方向性として、以下の 4 パターンを考えてみる。
(1)縮小にあわせて供給も縮小する(いわゆる縮小均衡)
(2)縮小したパイの中で、回転率を高める
(3)縮小を食い止める
(4)新たなマーケットを開拓する
それぞれの方向性で、業界が対応を進めているのはご存知の通りである。代表的な取り組み事例を紹介する。
・ディーラー統廃合
新車需要の減少に応じて販売力を縮小させるという意味で、(1)の縮小均衡路線での対応と言える。
・環境対応車や経済性の高い小型車の投入
時代に対応した付加価値を持った車両を投入し、買い替えを促すという意味で、(2)の回転率を高めることに繋がると考える(もちろん、買い替えにより市場縮小を食い止めることにも繋がる)。
・残価設定ローン/個人リース
ファイナンス手法により、支払い金額を抑え購入のハードルを下げ、買い替えを促すという意味で、(2)の回転率を高めることに繋がると考える(同上のとおり、市場縮小を食い止めることにも繋がる)。
・カーシェアリング
車を使うことが減り、経済合理性などの面から車を手放そうとする車ユーザーに、必要な時だけ利用することを訴求し、実質▲1台ではなく、▲0.×台にするという意味で、(3)の縮小食い止めに繋がると考える(場合によっては、これまで車を利用していない顧客を取り込み+0.×台ということに繋げられるかもしれない)。
・パーソナルモビリティ
高齢化社会に向けた対応など、移動に関する需要を四輪車に限らず獲得を目指すという意味で、(4)の将来的に新たなマーケットを開拓していく取り組みである。現在では、「セグウェイ」のような新たなモビリティが注目を集めており、自動車メーカー各社もこの分野の開発を進めている。
・サポートロボット
車にとらわれず、従来から培った技術も活用しながら、(4)の将来的に新たなマーケットを開拓していく取り組みである。ホンダやトヨタは既に自社開発のロボットを発表している。
【市場縮小への対応をより進めるために】
上記のような取り組みに加えて、自動車業界の外、異業種に目を向けることで、市場縮小への対応が、更に進む余地もあるのではないだろうか。
例えば、外食店舗を経営するダイヤモンドダイニングの取り組みである。上野の商業ビルで経営している炉辺焼き・割烹・和食ビュッフェ・バーの 4 店舗は、それぞれ看板・店は異なるが、実はこの 4 店の料理は同じ厨房で作り効率化しているという。混雑する時間帯や調理器具、素材の重なりやズレを考慮しての結果であろう。
これを自動車業界に転用して考えてみたい。地方では、新車・中古車・サービスをフルに持つディーラーの経営が困難な状況に成りつつある。例えば、資本の整理は必要かもしれないが、新車販売拠点はそれぞれの系列・ブランドで持つが、サービス拠点は複数の系列・ブランドで共有することはできないだろうか。
混雑する時間帯は相変わらず土日に集中するかもしれないし、部品も系列・ブランドで異なる部分はあろうかと思うが、サービスに関わる設備や人を共有することで、縮小均衡の対応が進むと考えられる。
現状の自動車業界では、バックオフィスの共有化は進んでいるが、それをもう一歩進められないかという考え方である。
他にも、大手紳士服の販売店で見られる 2 着目購入割引制度を、自動車業界でも、同じ世帯で 2台目を購入するときなどに 適用できないだろうか。現状では、販社・店舗個別には割引が行われていると思うが、メーカーレベルで制度化してもよいかもしれない。自工会の調査によれば、複数台保有率は、 01年から 40 %前後で推移していが、09年は 36.1 %に減少している。市場縮小の食い止めや回転率の向上に繋がるのではないだろうか。
航空会社に見られる利用頻度に応じて顧客対応を差別化するという考え方も適用できるかもしれない。自動車業界でも秋田トヨタが、「秋田トヨタステイタスプログラム」という「ダイヤモンド 5 つ星」から「ルビー」まで 4 つに分かれたステイタスによって受けられる特典が異なるサービスを 09年に開始した。顧客の層別管理を強化することにより買い替えを促すなど、市場縮小の食い止めや回転率の向上に繋がる可能性もある。
更に、弊社の秋山が以前に、レノボが IBM の PC 部門を買収したニュースが当時はセンセーショナルであったが、現在、同様のニュースが流れてもさほど驚くべきこととは受け止められないだろう、むしろ、現在では 1台 6~ 7 万円の低価格ノートパソコンが市場の主流になっていると述べ、新興国メーカーの自動車が日本の消費者にも容易に受け入れられる時代が到来する可能性を指摘した。筆者もその可能性はあると考える。
新興国メーカーの製品が受け入れられる可能性があるとすれば、日系メーカーの冠を持つ新興国生産の逆輸入車が増える可能性もあるだろう。
実際、弊社が行っている 1 クリックアンケートで、タイで生産される予定の日産新型「マーチ」について、こうした車両が日本に輸入された時、日本の消費者はどのように対応をするかをアンケートしたところ、「むしろ購入が進む」「購入意識に影響しない」「低価格セグメントでは進む。高級セグメントでは進まない」と前向きな回答をした読者が全体の 70 %を超えている。
新興国で生産された割安な車を日本に導入し、市場縮小に対応することも考えていくべきであろう。
【煮詰まったら異業種を見てみるのも一案】
上記で述べてきたことは一例であり、他にも様々な異業種の事例はあるだろう。飽和した国内市場で、活路を見出そうとしているのは、自動車業界だけではない。
自動車業界として、ある程度の縮小均衡は必要かもしれないが、その先に、新たなビジネスモデルを確立していかなければいけないだろう。
同じ業界・同じ環境で、物事を考えていても、時に煮詰まることがあるのではないだろうか。その際に、異業種に目を向けて、柔らかいところから、発想していくのも一案かと考える。
<宝来(加藤) 啓>