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一時的な「応援」ベースでの人材活用
◆ホンダ、グループから応援。国内 2 工場増産へ 200 名
<日経新聞 2009年 09月 18日号掲載記事>
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【ホンダ・グループとしての今回の施策】
ホンダが、10月上旬に、乗用車の国内 2 工場にグループ企業から約 200 人の従業員を受け入れ、増産を行う。
増産をするのは、「フィット」や「インサイト」を生産する鈴鹿製作所と「フリード」を生産する埼玉製作所で、各工場約 100 人ずつ合計 200 人増員する。
増員する約 200 人は、グループ企業の八千代工業、田中精密工業、柳河精機などから受け入れる。
ホンダは、昨年末時点では約 4,500 人いた期間従業員を今年 4月末にはゼロとしており、当面、期間従業員の採用は見送り、グループ企業からの応援で対応する方針とのことである。
【個別対応からグループでの対応へ】
今回の記事で取り上げられたホンダ・グループ 3 社の概要は以下の通りである。
・八千代工業
ホンダの連結子会社(09年 3月時点出資比率 50.34%)で、軽自動車受託組み立てと燃料タンク、ルーフ等部品の製造を行う。ホンダ・グループ向けの売上が 97% を占める。今回、ホンダが増員を行う鈴鹿製作所、埼玉製作所の近隣に工場を持つ。
・田中精密工業
ホンダの関連会社(09年 3月時点出資比率 24.34%)で、エンジン部品、足廻り部品等の製造を行う。ホンダ・グループ向けの売上が 80% を占める。
別記事によれば、田中精密工業がホンダに従業員を送るのは初めてで、10月 5日から来年 3月末頃まで正社員 60 人を派遣するとのことである。
(自動車ニュース&コラム 2009年 9月 23日号)
・柳河精機
ホンダの関連会社(出資比率非公開)で、ミッション部品、ナックル Assy等の製造を行う。今回、ホンダが増員を行う鈴鹿製作所、埼玉製作所の近隣に工場を持つ。
これまでの業界慣習では、系列の子会社などの特定の会社からの確保が一般的であったが、資本関係、取引関係、地理的関係からも、今回のホンダの対応は、かなり柔軟な対応ではないかと考える。
【設備・人員の両面での平準化】
生産体制の増強や平準化を考える上で、設備面と人員面と二つの側面があると考えている。
グローバルに拡大を続けた昨年までは、特定のハイブリッド車や小型車の販売が好調という計画以上の偏りが生じても、新規に生産ラインを増設し、設備、人員を確保して増産体制を確保してきたが、昨今の厳しい市場環境の中、多くのメーカーが過剰な生産能力を抱えており、生産ライン増設や新規人員採用を安易に判断できる状況ではない。また、こうした偏りある販売傾向も、恒常的に数年間継続するものなのか、一時的なものになってしまうものなのか、その見通しを立てるのも簡単ではない。従って、設備・人員の両面での平準化を図り、対応することが求められる。
設備面については、自動車メーカー各社は、これまでも混流生産に対応できる生産ラインを構築することで、車種毎の需要変動に伴う生産ライン稼働率の偏りを平準化する取組みを進めてきた。しかしながら、ある程度の偏りを平準化できるとしても、昨今の市場環境のように、ここまで偏りが大きくなると、混流生産に代表される設備面の柔軟性だけでは限界がある可能性もある。
更に深刻なのが、人員面での平準化である。これまでは期間従業員を採用して拡大に対応してきたが、大きな社会問題も招いたこともあり、一時的に大量に採用して、また雇用を打ち切るということも簡単には対応しにくい状況にある。期間従業員採用だけでは、現実的に柔軟な人員確保を実現することが難しくなっていると考える。
こうした状況の中だからこそ、出来る限り平準化に取組み、稼働率を向上させることが重要となるはずである。
今回の取組みについても、人員面での平準化を進めるために、自社だけではなく、グループ全体での最適化を図ることを狙ったものであろう。記事によれば、今回の取り組みは、定常的な異動ではなく、一時的と思われる「応援」という対応になっている。将来的な市場動向が見えにくい中で、最大限の柔軟性を担保することを考えてのことであろう。
【生産性向上の可能性】
こうした取組みは、一時的な平準化対応に留まらない副次効果をもたらすのではないかと筆者は考えている。
自動車業界では、多能工を育成することが、人員面の柔軟性を高めることにつながることは広く認識されている。今回のような取組みを進めることで、こうした多能工の対象範囲を、自社だけではなく、グループ全体に広げられる可能性があるのではないだろうか。
今回の例で考えれば、これまで特定の部品の組立を担当にしていた人員が、車両全体の組立に携わることになる。車両の組立という同じ領域を担当していた人員にとっても、これまでと違う生産ラインで働くことになる。新たな現場での教育によって、一時的に稼働率が下がるかもしれないが、現在の職場でも、将来的に元の職場に戻ったとしても、改善機会を見出す可能性が高まるかもしれない。
これは、将来的な生産性向上につながる可能性がある。再び市場を拡大すべき時期が来たときに、一つの武器になるかもしれない。今回のように、一時的な「応援」ベースで人員を確保するという試みが大きな効果を発揮するのであれば、こうした手法を恒常的に取り入れ、グループの総合力を高めることを考えることも有効であろう。
勿論、グループ間で流動的・即応的に人材を活用するには、制度面の見直しや、グループ全体で人員のスキルセットを把握するなどシステム面の整備も必要になってくるかもしれない。そうした分野でも、弊社がお役に立てれば幸いである。
<宝来(加藤) 啓>