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安全ITSを実用化していくために
◆車車通信を含む新たな ITS サービスの実現に向け、官民で協議会旗揚げへ
<2009年06月02日号掲載記事>
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【「安全」に寄与する ITS 】
ご存知の通り、これまで、複数の ITS に関連するインフラ整備が計画・実行されてきた。例えば、VICS (道路交通情報システム)による渋滞情報の提供や、ETC (自動料金収受システム)による高速道路や駐車場の料金支払い自動化などである。
これらの取り組みは、主には渋滞緩和や交通円滑化などによる「快適・利便」性の向上、ひいては、それらにより CO2 排出量が削減されるなど、「環境」問題に対応していくための ITS であろう。
今回、官民での協議会が旗揚げされた取り組みの主要テーマは、「快適・利便」や「環境」ではなく、「安全」である。
路車間や車車間通信により、出会い頭・右左折時の衝突や追突などを防止していこうというものである。既存では、ミリ波レーダーやレーザレーダーによる制御技術が実用化されているが、一台の自動車単体での安全性を向上させるものである。
【「安全」よりも「環境」の時代】
今回の協議会には、総務省を始め、自動車メーカーや部品メーカー各社が参画している。取り組みを遂行していくためには、各種の困難が想定されるが、差し当たっては、各社の経営リソース不足という課題があるのではないだろうか。
現在の社会や経済環境は、研究開発に費やせる経営リソースが限られる中で、「安全」よりも「環境」に重点的に配分せざるを得ない状況である。
実際に、例えば、トヨタは 今年度の研究開発費を昨年度比で 840 億円削減するとしている。また、日産は研究開発費を 昨年度費で 555 億円削減の上、環境関連への振り分けを昨年度の 54 %から今年度は 70 %に拡大するとしている。ホンダは今年度の研究開発費を昨年度比で 481 億円削減するとしている。
【「安全」 ITS を実用化していくために】
こうした環境下で「安全」 ITS を実用化していくためには、従来に増して、投資効果を追求していくことが必要となろう。
効果を追求していく方向性は、記事にもあるように、通信技術に、欧米での取り組みと共通できる部分を確保し、効果の規模を日本に限定せず、グローバルに拡大していくことである。
また、ITS が先行して実用化されている先進国の自動車市場は、既に飽和しており、一定量の規模の中で、如何に回転率を上げていくかが重要であろう。つまり、「安全」 ITS をキーに回転率を上げていくことである。
イメージとしては「エコ替え」という言葉があるが(買い替えることが本当にエコなのかという問題はある)、「セーフ(安全)替え」と言われるムーブメントが起きるくらいに、安全の付加価値を高めることである。
「エコ替え」と言われる背景には、環境対応という社会的な大きな流れがある。「セーフ替え」という観点では、特に先進国では高齢化という社会的な流れを汲み取ることができるのではないだろうか。今後、高齢者ドライバーが増えていくことが想定され、「安全」 ITS の目指す事故を未然に防ぐという、アクティブ・セーフティーの面で、付加価値を高めることができるのではないだ
ろうか。
もう一つは、投資コストを下げる方向性である。安全 ITS の実用化に向けて投資総額は変わらないかもしれないが、1 社当たりの投資額は、参画企業数を増やすことによって、下げることができるのではないだろうか。
「安全」 ITS は、個別の部品メーカーや自動車メーカーの枠を超えた路車間や車車間通信が中心となる。車車間通信を例にとれば、トヨタ車同士だけで出会い頭の衝突回避ができても意味がない。系列・メーカーの枠を超えて、トヨタ車だけでなく、他銘柄との双方向の通信が必要となる。
そう考えると、より多くの部品メーカーや自動車メーカーに参画を呼びかけ、1 社当たりの投資額を減らすということが考えられるかもしれない。
【「安全」への持続的な取り組み】
「安全」は、これまでも、今後も変わらず、自動車に求められる要件の一つであろう。
例えば、カーシェアリングに見られる、所有から利用へという時代が本格化し、自動車が単なる移動手段となった場合であっても、「安全」は求められるだろう。また、高齢化社会の到来により、これまで以上に「安全」が求められる時代となる可能性もある。
もちろん、交通事故件数や負傷者数、死傷者数は、減少傾向にあり、自動車業界は、一定の成果は出してきている。しかし、まだ改善していく余地はあるだろう。
今回取り上げた「安全」 ITS は、各メーカーが個別に競争優位を獲得していく技術というより、全メーカーが共同で取り組み、自動車業界全体として、付加価値をベースアップさせる取り組みである。
前述したように、各社の経営リソースが限られ、「安全」の優先順位を下げざるを得ない時代だからこそ、各社が力を出し合い、業界全体として、持続的に、「安全」の付加価値を向上していくことが重要と考える。
<宝来(加藤) 啓>