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二輪車市場と四輪車市場の比較から学べること
◆ヤマハ発、原付スクーター「VOX XF50」。市街地走行での扱い易さ向上
『ストリートスタイル』をイメージさせる新色を設定した 2009年モデル。
<2009年 03月 05日号掲載記事>
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【昨今の四輪車市場の動向】
国内の四輪車市場では、新車販売台数の減少傾向が続く中で、「若者のクルマ離れ」や「小型車シフト」「軽高登低(軽自動車は好調だが、登録車=普通乗用車は低迷)」といった販売車種傾向の変化が、その要因として注目されてきた。
一方で、二輪車市場では、かつてから同様の現象を経験してきた。二輪車市場では古くは 1980年代から、若者層を中心にバイク離れが始まったと言われている。象徴的な例として、二輪車業界では 10 代を中心としたバイクの「三ない運動(乗らない、買わない、(免許を)取らない)」と呼ばれている現象も生じている。
また、詳しくは後述するが、新車販売の中で、過半を占めるのが原付第一種・第二種であり、四輪車で言う「小型車シフト」「軽高登低」といった現象も、先行して生じているとも言える。
今回は、二輪車市場と四輪車市場を比較することで、お互いの業界で学べることがないか考えてみたい。
【二輪車市場の動向】
二輪車の販売台数は、98年度に 100 万台を割り、その後も減少傾向が続いている。2007年度には 66 万台となっている。排気量別に見ると以下のようである。
販売台数 全需に占める台数割合
原付第一種( ~ 50cc) 424,673台 65%
原付第二種( 51cc~125cc) 108,882台 16%
軽二輪 (126cc~250cc) 80,959台 12%
小型二輪 (251cc~ ) 40,562台 7%
合計 655,076台
原付第一種の割合が 全需の 65% を超えている状況である。更に、原付第二種まで含めれば 80% を超えるシェアを占めている。
需要形態の中心は、買い替えであり、全需に占める割合は 55%である。一次中断・再購入も 15% であり、それを広義で買い替えと捉えれば、買い替えは全需の 70% を占める。※
※買い替え、一次中断・再購入以外は、新規購入 18%、増車 11%となっている。
二輪車需要が減少している主な要因の一つとして、需要の中心である買い替えサイクルの長期化が考えられる。買い替え顧客が、直前に使用していた二輪車の使用年数は以下である。
5年未満 5年~10年未満 10年以上
使用年数 33% 37% 30%
過去からの調査結果を見ると、5年未満の層が減少し、10年以上の層が増加する傾向にある。
10年以上の比率が増加しているのは、多くの二輪車ユーザが、調子が悪くなるまで、または壊れるまで乗り続けることがあると思われる。以下は、買い替え購入理由(複数回答)として上位に挙げられているものである。
買い替え購入理由
前の二輪車の調子が悪くなった 49%
前の二輪車の修理代が高くつく 28%
前の二輪車が動かなくなった 16%
こうした状況の背景には、二輪車は、購入価格が手頃であることや、維持費が安い、燃費が良いというメリットを持つ一方で、多くが 1 人乗りであること、荷物の積載量が四輪車と比べて少ないこと、運転者が外部と直に接するため、雨の日は乗り難い、夏は暑く・冬は寒いことなど、利便性が、四輪車と比較し、劣る部分が多いことが考えられるのではないだろうか。
そのため、移動手段としてコスト・メリットを追求する通勤・通学や業務用でのニーズが高くなる一方で、趣味・嗜好性のニーズが一部のユーザを除き徐々に低下傾向にあり、結果として販売車種では原付第一種・第二種の比率が増加していると考える。また、通勤・通学や業務用のニーズが高いため、調子が悪くなるまで、または壊れるまで乗り続けることにより、買い替え期間が長期化していると考えられないだろうか。
こうした市場環境の結果として、新モデルの投入や技術的な進化も活発ではなくなっているのではないだろうか。断言するには精緻な分析が必要ではあるが、実際に、原付第一種(~ 50cc)の代表モデルの一つであるホンダ「ディオ」のフルモデルチェンジ期間は 6年半であり、単価は 1.2 万円(8%)下がっている。
ホンダ「ディオ」直近のフルモデルチェンジ期間と価格※
発売時期 車両価格
2001年 3月 159,000円
2007年 10月 147,000円
※「ディオ」は 2001年から 2007年までの間、高価格版と廉価版を発売している。
高価格版 ディオ Z4 :2002年 3月 189,000 円
2004年 2月 199,000 円(フルモデルチェンジ)
廉価版 ディオ :2003年 11月 119,000 円
四輪車と比較すると、例えばワゴン R はフルモデルチェンジ期間が 5年で、単価は 9.5 万円(12%)上昇、カローラはフルモデルチェンジ期間が 6年で、単価は 21.7 万円(19%)上昇している(いずれの車種も最低グレード比較)。
【二輪車メーカーの打ち手】
二輪車の国内市場が減少する中で、抜本的な打ち手が出てこなかった理由の一つには、海外市場の需要が好調であったことがあるだろう。冒頭に書いたとおり、国内の二輪車市場が 98年に 100 万台を割って以来、減少傾向が続いているの対し、海外では年間 1,700 万台を超える中国市場を筆頭に、数百万台クラスの市場がいくつもある。例えば、ホンダは 2007年に全世界で 1,300 万台以上販売しているが、このうち国内の販売台数はわずか 30 万台強である。
とはいえ、二輪車メーカーは国内市場に対して何も手を打ってこなかったわけではない。新たな需要を開拓するために新セグメントの車種を投入してきた。
例えば、大型スクーターの投入である。126cc 以上の車種別販売台数を見ると、ホンダの「フォルツァ」や、スズキの「スカイウェイブ」などスクータータイプの車種が上位を占める。大型スクーターの登場により、気軽にバイクに乗りたい層を開拓したと思われる。
また、中国生産輸入による廉価版原付の導入もその一つであろう。前述した2003年 11月に導入した廉価版「ディオ」は、中国の新大洲本田摩拓有限公司が生産したモデルである。バイクの低価格化につながった側面もあるとは思うが、若者のバイク離れに一石を投じるものではあったと考える。
加えて二輪ではないが、配達用三輪車もその一例と言える。もともと小回りのきく二輪車に安定性と収納性を高めた配達用三輪車は、業務用のニーズを捉えたと思われる。
今後も新たな需要を開拓していくことで、販売台数下落に歯止めをかける余地があるかもしれない。以前に筆者が述べたシニア世代向け製品開発においても、二輪車メーカーとしてできることがあるように思える。
【まとめ】
これまで述べてきたように、国内二輪車市場は、四輪車市場に先駆けて成熟・衰退している市場だと考える。もちろん、リソースに限りがあり、需要の大きい海外市場がある中で、国内市場にどこまで注力すべきか、難しいところであることは否めない。
しかし、先行する国内市場で新たな需要を開拓していくことが、将来的な海外市場の需要を創出する側面があるかもしれないと考える。特に所有から利用という新たな動きが顕著になりつつある国内四輪車市場のように、二輪車市場でもこうしたアプローチの応用を考える余地があるのではないだろうか。
また、四輪車市場は、市場が成熟・衰退に向かう中で、二輪車市場を一つの先行事例として、念頭に置くことで新たな戦略も生まれる可能性があるだろう。
今後とも、機会を捉えて、製品・業態別に二輪車市場と四輪車市場を比較することで、お互いの業界で学べることがないか考えていきたい。
<宝来(加藤) 啓>