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シニア世代に向けた製品・マーケティングを考える『第 1 回 シニア世代への基本的アプローチ』
第 1 回 『シニア世代への基本的アプローチ』
今年の 1月から 5 ヶ月に渡り、若者の購入意欲を高めるための製品やマーケティングについて考えてきた。今回からはシニア世代(60 歳以上)に売れるクルマ・売るためのマーケティング活動について考えていきたい。
初回となる今回は、シニア・マーケットの概観や、今後、連載を進める上での基本的なアプローチについて述べたい。
【シニア世代の概観とクルマ需要】
改めて示すまでもないかもしれないが、シニア・マーケットは大きい。警察庁によれば、60 歳以上の層は、人口では約 30 %(60 歳以上人口 35 百万人/全人口 109 百万人)を占め、免許保有者数でも、約 20 %(60 歳以上保有者数 16 百万人/全保有者数 79 百万人)を占める。
運転免許書を保有しているものの、実際には運転しない人を割り引いても、それなりの規模を持ったマーケットであると見られる。
また、シニア層の貯蓄額は約 24 百万円と、他の年代層(他層は 20 百万円に満たない。全体平均は 17 百万円)に比べて貯蓄額が多く、比較的資金的な余裕もある層と見られる。
ただし、シニア層は退職等により収入の減少が避けられず、老後の生活のために、ある程度の貯蓄が必要になる。その額は 15 百万とも 30 百万円と言われており、貯蓄額 24 百万円が自由に使えるわけではない。
限られた収入・貯蓄を生活や孫の小遣い、そしてクルマに振り分ける訳であるが、シニア世代はクルマを必要としているし、実際に使う層も増えている。
内閣府の「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」によれば、シニア層の外出状況は、「ほとんど毎日」が 60 %を占め、「ときどき外出をする」を含めれば、92.6 %にもなる。外出することがクルマ需要の根底にあるとすれば、ほとんどのシニア世代がその需要を持っていることになる。
さらに、外出する手段(複数回答)については、「徒歩」が 60 %と最も多いが、次に多い外出手段は、「自分で運転する自動車」で 40 %になる。当該調査は複数年に一度行われているが、年を経過する毎に、「徒歩」の比率が下がり、「自分で運転する自動車」の比率が上昇している傾向にある。
【カローラに見るシニア世代への対応】
シニア向けのクルマというと語弊があるかもしれないが、2006年 10月にフル・モデルチェンジされたカローラ・アクシオは、実質的にシニア向けのクルマといっていいだろう。
一部紙面では、カローラ・アクシオの顧客の 80 %は、50 歳代と 60 歳代で平均購買年齢は 63 歳と言われている。当該記事は過去のものであり、団塊の世代がシニア世代に突入した今、更に 60 歳代の顧客が増えていてもおかしくない。
実際に、カローラ・アクシオは、シニア世代への配慮が見られる作りになっている。例えば、安全性や走る・曲がる・止まるの基本動作のサポート機能に、そういった配慮が見られる。
安全性の面では、衝突安全ボディ、SRS エアバッグの全車種標準装備化、上級グレードにはサイドエアバックや、カーテンシールドエアバッグを標準装備している。基本動作のサポート面では、バックモニターの全車種標準装備化や上級グレードにプリクラッシュ・セーフティや、パーキングアシスト、レーダークルーズコントロールを標準装備している。
また、販売面でも「らくちんカローラクレジット」というカローラ専門の残価設定型ローンがあり、年金の需給月に合わせた隔月のプランもある。
しかしながら、カローラ・アクシオに見られるような安全性や基本動作のサポート機能、販売面での工夫だけで、シニア世代へのアプローチは充分なのだろうか。
【「らくらくホン」に見る製品の多様化】
シニア向けにヒットした製品として、読者の皆様の頭にすぐ浮かぶのは NTTドコモが販売する「らくらくホン」だろう。
初代「らくらくホン」が発売されたのは 1999年であるが、現在でもコンスタントにシニア世代に売れているという。発売当初は 1 モデルであったが、「しんせつ」、「かんたん」、「見やすい」、「あんしん」をキーワードに、機能を音声通話のみに絞り込んだモデルから、歩数系や脈拍計も備えた多機能モデルまで、現在では 5 種類の製品ラインナップになっている。
更に言えば、先日販売された「706ie」シリーズは、「らくらくホン」=「お年寄り」と見られるのを嫌がるユーザ向けに発売されたモデルだという。
例えば「L706ie」は「らくらくホン V」と比較し、電話帳を NTT ドコモのサーバーに保管できる機能や、紛失した時などに遠隔操作でロックが掛けられる機能など「あんしん」の機能の一部を削る一方で、フルコーラスで楽曲を一曲丸々ダウンロード・着信メロディーとして使える機能が拡充されている。
「しんせつ」、「かんたん」、「見やすい」、「あんしん」という「らくらくホン」のコンセプトにはない「わくわく」といったコンセプトを持っているのである。
そもそも、携帯電話は若者から拡がっていった製品であり、シニア世代にとっては、全く馴染みのない新製品であった。そのため、当初は機能を絞り込み、使い易いインターフェースに重点を置いた製品が主流となったのではないだろうか。
そして、製品が一巡し、使い方が分かってくると、使い易さだけでなく、機能面で個別のニーズが出てきて、多様化が進んでいるということが背景にあるのではないだろうか。
【クルマが取るべきシニア世代へのアプローチ】
クルマの場合も、「しんせつ」、「かんたん」、「見やすい」、「あんしん」という「らくらくホン」のコンセプトに共通するものがあるとは思う。
しかし、携帯電話と違い、クルマはシニア世代にとって新しい製品ではなく、昔から親しんできた製品である。当初は使い易さが売りとなった携帯電話とは異なり、クルマに求められることは、既に多様化しているのではないだろうか。そう考えると、より一層、細分化された製品・マーケティングが必要になると思われる。
確かに、GT-R や 一部の輸入車などのスポーツカーのマーケティングに、昔クルマに憧れていたシニア世代に訴求する取り組みが見られる。ただ、一部の取り組みであり、定年後のライフスタイルの変化やシニア世代の趣味・嗜好に、もっと目を向けることで、シニア世代の需要を喚起できる余地があるのではないだろうか。
つまり、シニア世代を、ある特性を持つ層にグルーピングし、個別のグループに向けた製品・マーケティング活動を展開していくことが有効であると考える。
次回からは、具体的に、シニアの特性を抽出し、その特性に合う製品・マーケティングを考えていきたい。
<宝来(加藤) 啓>