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シニア世代に向けた製品・マーケティングを考える『第 5 回 自動車業界がクルマ以外で移動手段を提供する余地』
シニア世代のライフスタイルの変化や趣味・嗜好に、着目して、シニア世代のクルマ需要を如何に喚起するか・捉えるかを考えるシリーズです。
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今回は、身体能力の低下等の理由により、自分自身でクルマを運転することを止めたシニアに対し、自動車業界が自ら運転するクルマ以外で移動手段を提供する余地がないか考えていきたい。
【シニア層の移動に関する 3 類型】
一口にシニア層といっても、身体・心身の具合や加齢に伴う身体能力の低下の度合いにより、モビリティの在り方も変わってくるだろう。シニア層の移動は、自分自身で移動できる・できない、車を運転する・しないという観点からは、次の 3 つに大別されると考える。
1. 自分自身で車を運転して移動するシニア
(マイカー・レンタカー等での移動)
2. 自分自身で車の運転はしないが、公共交通機関等を利用して自ら 移動するシニア
(バス・タクシー・鉄道・自転車・徒歩等での移動)
3.自分自身では移動できず、他者のサポートを利用して移動するシニア
(例:介護・福祉サービス等を利用しての移動)
シニア層は、1~ 3 の移動手段のいずれかを限定的・固定的に選択するのではなく、移動の場面や身体・心身の具合等により、使い分けているのが実態と考える。
例えば、近隣の移動は 1 に分類されるマイカーを利用するが、長距離の移動は 2 に分類される鉄道を利用するシニア、また、移動は常に 1 に分類されるマイカーでしたいが、加齢に伴う身体能力の低下により自ら運転することに不安を抱えるようになり、2 に分類されるバスを利用するようになったシニア等、様々なケースが想定される。
【自動車業界の対応】
自動車業界は、こうしたシニアの様々な移動手段を想定してサービスを提供してきたし、官公庁・地方自治体もこうしたシニアの移動手段を確保・サポートしてきた。
「1. 自分自身で車を運転して移動するシニア」に対しては、走る・曲がる・止まるの基本動作のサポート機能を装備した車を開発・販売し、身体能力面での負担を軽減させることを目指している。
具体的には、バックモニターやプリクラッシュ・セーフティ、パーキングアシスト、レーダークルーズコントロール等である。
また、開発中ではあるが、安全性の面で、ハンドルやシート、バックミラーに取り付けたカメラから、脈拍、心拍数、血圧、目の動き等、身体の状況を検知し通知することや、道路インフラと協調し、曲がり角や交差点での、通行人や車の動きを検知し通知することも考えられている。
しかし、一方で、高齢者ドライバーの事故が増加しており社会的な問題となっている。警察庁は、運転免許の自主返納を呼びかけており、運転免許を身分証明として利用している高齢者には、その代わりとなる「運転経歴証明書」を発行する等している。民間でもホテルやレストランで「運転経歴証明書」を見せると割引が受けられる等のサービスもある。
「2. 自分自身で車の運転はしないが、公共交通機関等を利用して自ら移動するシニア」に対しては、例えば、割引料金や定額料金で地域の巡回バスを運行したりすることで移動をサポートしている。観光や果物狩り等に格安料金で行けるバスツアー等も、こうしたシニア層に好評だといわれている。
「3.自分自身では移動せず、他者のサポートを利用して移動するシニア」に対しては、車椅子等に対応した福祉車両のラインナップを拡充している。また、訪問介護事業や老人福祉施設の運営事業者には、特種自動車等を提供している会社もある。
【今後、自動車業界が対応を進められる余地】
シニア層が、自分自身で車を運転することに不安を感じ、車の運転を止めた時から、自分自身では移動できなくなるまでの間に、どういった移動手段があるだろうか。
公共の移動手段として、バス・電車等がある。また、個人で移動する手段として、バイク、自転車、車椅子、徒歩等がある。筆者は、後者の個人での移動手段に自動車業界が対応を進められる余地があるのではないかと考えている。例えば、バイクや自転車を運転するのはそれなりに危険が伴うし、車椅子や徒歩での移動は身体的な負担を伴うと考えるからである。
つまり、「1. 自分自身で車を運転して移動するシニア」と「3.自分自身では移動できず、他者のサポートを利用して移動するシニア」の間に個人の移動手段としてのギャップがあり、それを埋める方向で、自動車業界が対応できる余地があるのではないかと考えている。(ギャップを埋めるための具体的な動きは後述する。)
また、「3.自分自身では移動せず、他者のサポートを利用して移動するシニア」に関しては、今後、自動車業界が対応していく余地はあるものの、それを自動車業界が単独で牽引していくのは、現実的には難しいのではないかと筆者は考えている。
介護・福祉サービスを必要とするシニアは増えていくだろうし、介護・福祉サービスを提供する事業者も増えていくだろう。そうすれば、事業者に販売・サービスする車の台数も増えるだろう。
実際に、ホームヘルパーや介護福祉士等が住宅を訪問し介護・福祉サービスを提供する事業所は、平成 19年時点で 約 2 万 2 千あり、ケアハウスや老人ホーム等の老人関係施設は、約 6 千あり、年々増加傾向にある。(厚生労働省社会福祉施設等調査結果の概況より)
しかし、一般的にも言われているとおり、訪問サービスを提供する人員や老人関係施設に勤める人員が不足している。実際に老人関係施設の稼働率(総在所者数÷総定員)は現状で 86 %であり、稼動率が低い要因は、入居希望者や施設の許容はあるものの、そこで働く人員の不足により稼動できないことが主要因の一つという。こうした介護人員の不足という根本的な問題は、自動車業界というよりは、もっと大きな社会問題として、政府・経済界全体で対応していく必要があるのではないだろうか。(自動車業界との関連でいえば、ロボット事業の可能性はあるかもしれないが、それだけではないだろう。)
【自動車業界が対応を進める具体的な動き】
現状で車を運転するのを止めた時に、個人が利用できる移動手段の中で、車椅子や徒歩での移動は身体的な負担を伴うのではないかと述べた。
この身体的負担を解決する移動手段として、例えば、電動車椅子があるが、それを深化させることはできないだろうか。現在開発中ではあるが、トヨタの「i-REAL」やスズキの「PIXI」といった類である。
携帯電話の世界では、「らくらくホン」=「お年寄り」と見られるのを嫌がるシニア層がおり、そういったシニア層向けに、新モデルが開発され多様化が進んでいるという。
自動車でも、現在の電動車椅子に乗っていると、お年寄りと見られ、それを嫌がるシニアもいるのではなかろうか。「i-REAL」や「PIXI」が実用化されれば、そうしたシニア層にも訴求できるかもしれない。
ちなみに、日本でも、観光地やゴルフクラブ内で利用が始まっている「セグウェイ」も候補の一つかもしれない。ただし、体重移動により進行方向をコントロールするため操作にはコツが必要だし、身体能力が低下しているシニア向けには、改良の余地があるのかもしれない。
【日本市場でチャレンジする】
これまで、「1. 自分自身で車を運転して移動するシニア」と「3.自分自身では移動できず、他者のサポートを利用して移動するシニア」の間に個人の移動手段としてのギャップがあり、そのギャップを埋めるための例としてトヨタの「i-REAL」やスズキの「PIXI」を挙げて、自動車業界が対応できる余地を考えてきた。
こうしたことは日本市場だけではなく、他国でも活用できると考える。少子高齢化社会は日本だけの現象ではないからだ。欧州でも日本に少し遅れて少子高齢化社会に突入する国々が多くある。
既に少子高齢化社会に突入している日本市場でチャレンジし、それを世界に展開していくことが求められているのではないだろうか。
<宝来(加藤) 啓>