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シニア世代に向けた製品・マーケティングを考える『第 3 回 シニアの繋がりたい気持ちに目を向ける』
シニア世代のライフスタイルの変化や趣味・嗜好に、着目して、シニア世代のクルマ需要を如何に喚起するか・捉えるかを考えるシリーズです。
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第3回 『シニアの繋がりたい気持ちに目を向ける』
今回は、シニア層が持つ、趣味を通じて他のシニアと繋がりを持ちたいという気持ちに目を向けて、如何にクルマ需要を捉えるか考えていきたい。
【代表的なシニアの趣味】
シニア世代(60 歳以上)は、どのような趣味を持っているのだろうか。ここでは、レジャー白書の調査結果を引用させて頂きたい。
レジャー白書によれば、シニア世代の参加率(ある趣味を 1年間に 1 回以上おこなった人の回答者数に占める割合)が高い趣味*は、以下の通りである。
男性 女性
1 位 園芸・庭いじり 園芸・庭いじり
2 位 日曜大工 音楽会・コンサート
3 位 パソコン 映画(テレビでの鑑賞を除く)
4 位 スポーツ観戦 編物・織物・手芸
5 位 ビデオ鑑賞 観劇(テレビでの鑑賞を除く)
*
2007年のレジャー白書から、趣味・創作部門の年代別(60 代以上)参加率の高いものを引用した。なお、国内旅行や外食なども高い参加率を示すが、当該資料では、趣味・創作部門の対象ではないため、今回は対象外とした。
他の調査資料を見ても、園芸やスポーツ観戦、映画・観劇の鑑賞は高い順位にきている。
【趣味に共通するシニアの気持ちに目を向ける】
上記のようにシニアは様々な趣味を持っているが、今回は個別の趣味を取り上げるのではなく、個別の趣味に共通するシニアの気持ちに目を向けたい。
具体的には、趣味として余暇時間を割くことの根底にある、その趣味が自分は好きだ・興味があるという気持ちに加えて、少なからず持っていると思われる、その趣味を他のシニアと一緒に楽しみたい、趣味を通じて他のシニアと繋がりを持ちたい、という気持ちである。
例えば、園芸で言えば、ある植物を育てる楽しさや悩みごとを、同じ植物を育てているシニアと共有したい・アドバイスを貰いたい、スポーツ観戦で言えば、 1 人で観戦していても楽しいが、みんなで見にいきたいという気持ちである。
繋がりたいシニアが、直接的に自動車業界へ与えるポジティブな要素は、繋がりたい気持ちが、自分の家で個人的に趣味を楽しむだけでなく、外出して交流したいという気持ちとなり、結果的にクルマの需要にも繋がる「移動」となって現れることである。
実際に、以前に本シリーズで述べたように、シニアの外出手段で最も多いのは「徒歩」であるが、次に多い外出手段は、「自分で運転する自動車」であり、ある程度クルマは使われていると見られる。
【商品面で、繋がりたいシニアのクルマ需要を捉える可能性】
趣味を通じて繋がりたいシニアのクルマ需要を捉える一つの方向性として、趣味自体や、他のシニアと繋がりたいという気持ちに目を向けることにより、商品の付加価値を高めることが考えられる。
例えば、園芸では、作物や肥料、道具を運ぶためのトランクルームのスペースや荷物の出し入れのし易さというところに改良の余地があるかもしれない。しかしながら、特定の趣味に特化して商品を開発するほどのムーブメントは起きていないように思うし、現状で、そのクルマが無いと困るという程の強い需要でもないと思う。
また、他のシニアと繋がりたいという気持ちに目を向けて、クルマの付加価値を高める可能性であるが、これもまた難しいかもしれない。
筆者は以前、昼夜問わず携帯電話やパソコンを駆使してコミュニケーションをする、いつでも仲間と繋がっていたい若者に対して、カーナビ上でマイミク(ミクシィというソーシャル・ネットワーク・サービス上の友人)の位置がわかる、音声入力・出力機能を使って運転中にメールやミクシィができるカーナビなどが考えられると述べたが、シニア層は、そこまでして繋がりたいとは思ってはいないだろう。
そう考えると、趣味や繋がりたいという気持ちに目を向けた商品を開発するよりも、現状のカローラの商品企画に見るような、シニア層全体に向けて商品の付加価値を向上していくことの方が現実的なのではないだろうか。
【繋がりたい気持ちをネットワークさせる】
もう一つの方向性として、一見、クルマ需要に繋がらないと思われるかもしれないが、個別に繋がりたいという気持ちを持つシニア同士を繋げ、ネットワーク化し、そのネットワークを活性化することが、クルマの需要を捉えることに繋がるのではないかと筆者は考えている。
例えば、店舗を同じ趣味を持つシニアの仲間が集まる場として提供することである。具体例としては、園芸や編物・織物・手芸であれば、育てた植物や創作品の個展の場として利用することや、講師を招いての教室を開催すること、スポーツや映画・観劇の観戦・鑑賞であれば、大スクリーンをディーラーに設置して観戦・鑑賞会を開催することである。
最終的には、個展や教室、観戦・鑑賞会を開催することで構築した顧客との関係に基づいて、他社に流出している顧客や自社の顧客の買い替えを中心としたクルマの需要を捉えることが目的となるが、まずは、個展や教室、観戦・鑑賞会に来る顧客の整備需要を捉えることが考えられる。
個展や教室、観戦・鑑賞会は数時間からスケジュールによっては半日程度を要するだろう。その間に、洗車や点検、場合によっては車検を行うのである。
シニア層向けのサービスであるから、主には店舗稼動の低い平日に開催することが可能であると考えられる。また、整備需要も一時に集中させることなく平準化できると考えられる。
個展は、主催者に近しいシニアが一度に訪れるのではなく個別にバラバラと訪れることが考えられるし、教室、観戦・鑑賞会は、一度限りのイベントではなく、次回は××分野についての教室を開く、次回は××という映画の鑑賞会を開くのように定期的に開催すれば、開催日程に合わせて、今回は A さんの整備、次回は B さんの整備と販社側で整備需要をコントロールできると考えられるからである。
【店舗を活用してファンタジーを提供する】
以前に筆者は、林文子さんのお話しを引用させて頂きながら、 『営業マンは、クルマを売るのではなく、「この車を手に入れると、お客様の生活はこんな風に変わりますよ」とか、「この車に乗ると、こんな楽しいことができますよ」などファンタジーを売ろう。ファンタジーを売る仕事をする人たちから顧客が流出することはなく、集まってくるものだ』と述べたことが
ある。
(以前の筆者記事)
『顧客接点でもっと仕事をしよう!』
今回、述べた店舗を個展や教室、観戦・鑑賞会に活用することは、シニアに対して、店舗という資産を提供することにより、ファンタジーを提供するということである。結果、顧客が流出することはなく、集まってくる可能性もあるのではないだろうか。
一部のレクサス店では、店舗内にシミュレーションゴルフができる設備を導入したり、商談室の一つをネイルサロンにしたりといった動きが見られる。こうした動きは、店舗という資産をクルマのショールームや商談以外に、ファンタジーを提供する場として活用する動きとも、捉えられるのではないだろうか。
こうした動きを深化させる、ファンタジーを売る・提供することは、シニア層向けのマーケティングに限らず、顧客に訴求するための有効な手段であると考える
<宝来(加藤) 啓>