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シニア世代に向けた製品・マーケティングを考える『第 4 回 旅行に関係するクルマ需要を捉える』
シニア世代のライフスタイルの変化や趣味・嗜好に、着目して、シニア世代のクルマ需要を如何に喚起するか・捉えるかを考えるシリーズです。
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第4回 『旅行に関係するクルマ需要を捉える』
今回は、シニア層の旅行という活動を取り上げて、如何にクルマ需要を捉えるか考えていきたい。
【シニア層の余暇時間の過ごし方】
最初に、シニア世代(60 歳以上)に人気がある※余暇時間の過ごし方、トップ 5 を見てみたい。
男性 女性
1 位 外食 国内旅行
2 位 国内旅行 外食
3 位 園芸、庭いじり 園芸、庭いじり
4 位 宝くじ 宝くじ
5 位 ドライブ ドライブ
※レジャー白書の調査結果から、余暇活動の中で、参加率(ある趣味を 1年間 に 1 回以上おこなった人が回答者数に占める割合)が高いものを、上から順 に 5 つ抽出した。
なお、余暇活動は、スポーツ部門、趣味創作部門、娯楽部門、観光・行楽部 門の 4 つに分かれているが、全部門を通じて参加率が高い余暇活動を抽出し ている。
国内旅行は余暇時間の過ごし方の中で、男性・女性のいずれも順位が高い。
【旅行で発生する需要と自動車業界の対応】
旅行は必ず移動が伴う。移動があると移動手段として自動車の需要も発生する。しかし、当然ではあるが移動手段は自動車だけではない。国内旅行に関する移動を「旅先までの往復」と「旅先での移動」に分けると、主には、以下のような移動手段があると考える。
・旅先までの往復 :マイカー、レンタカー、高速バス、電車、飛行機
・旅先での移動 :マイカー、レンタカー、タクシー、バス、自転車、徒歩
旅行者が、どの移動手段を選択するかは、旅行者自身の嗜好や同行者との関係・人数、旅行の予算・費用、利便性、現地の交通事情等、様々な要因によって変わるはずである。
もともと、自動車はパーソナルな移動手段であるから、同行者内での雰囲気・空気感を保つ・育むことができることや、予定変更等の自由度・柔軟性を強みとして、旅行者に訴求してきたと思う。
例えば、夫婦・家族旅行でのレンタカー利用、慰安旅行での貸切バス利用、公共交通機関の発達していない目的地へのタクシーでの移動などである。
他にも、自動車業界は、上記であげた様々な要因に対応するべくサービスを多様化させてきた。例えば、利便性という点では、旅先までの往復の鉄道と、到着駅から利用できるレンタカーを組み合わせた「トレン太くん」(料金割引もある)、費用という点では、一定の顧客ボリュームを前提とした「格安バスツアー」などがある。
【旅行に関する自動車業界の対応余地】
旅行に関する自動車業界の対応余地として、一つは、レンタカーで、旅行の目的を達成するための支援をすることが考えられるのではないだろうか。
レジャー白書によれば、60 歳代で経験率(過去に一度でも経験したことがある人の割合)が高い旅行としてあげられているのは以下である。
・のんびりと疲れをとるための癒しの旅
・歴史ある街並みを訪れる旅
・普段なかなかいけない大自然の魅力を味わう旅
例えば、癒しの旅では、普段乗っているカローラではなく、クラウンや LS といったラグジュアリーな車種を提案することで、快適な移動空間を演出することが考えられる。また、歴史ある街並みを訪れる旅や大自然の魅力を味わう旅では、それらの風景や空気を満喫できるオープンカーを提案することが考えられる。
一部では、スポーツカーを取り扱ったり、輸入車に特化して車種を取り揃えているレンタカー会社もあるが、今後も、深化・対応していく余地があるのではなかろうか。
もう一つ、旅先までの往復で利用するマイカーに、自動車業界として収益を取り込める余地があると考える。
例えば、自動車ディーラーが、最寄駅、高速バスの停留所、新幹線の駅、空港までの移動の面倒を見て、その代わりに、利用する必要がなくなったマイカーの整備需要を獲得するのである。
顧客は、旅先までの往復の移動手段として公共交通機関を利用し易くなる為、「運転」自体の負担を軽減するだけでなく、旅行中に、定期的に発生するマイカーの点検や車検を済ませることができる。
本来であれば、ディーラー・整備工場にマイカーを持ち込んで点検・車検を受けることは面倒に感じるはずである。それが旅行で不在中に住むのであれば、手間も省ける上に、マイカーを使えない時間も省くことができるはずである。もし、旅行中、空港や駅の近くの駐車場にマイカーを置いておくことを考えたとしたら、駐車場代の節約になるかもしれない。
【バリューチェーン全体で自動車ライフの付加価値を向上する】
上記で述べたレンタカーの場合、旅行の目的を達成するための支援をすることは、自動車ライフのワクワク感を創出する活動である。また、顧客の旅行中にマイカーを整備する活動は、顧客の整備に出掛ける手間を省くという自動車ライフのラクラク感を創出する活動である。
これまで自動車の製品開発のトレンドは、「環境」(HEV や代替燃料など)、「安全・安心」(パッシブ・アクティブセーフティーや盗難防止・追跡など)、「快適・利便(ワクワク感・ラクラク感の創出)」(コンシェルジュ・サービスやパーキングアシストなど)の 3 つのキーワードにまとめられると考えている。
「環境」、「安全・安心」といった分野では、自動車業界が担う社会的責任も増大しており、その開発リソースは逼迫した状態にある。したがって、開発リソースを「快適・利便」に配分する余裕がなくなってきているのではないだろうか。
更に言えば、自動車は単なる移動手段という価値感を持ったユーザーが増える可能性もある。単なる移動手段となると、顧客の興味は、様々な機能は削ぎ落としてでも、自動車を如何に安く取得し、如何に安く走るか(燃費)ということになりかねないと懸念する。
それは、顧客の「快適・利便」(ワクワク感・ラクラク感を創出する機能)に対する価値が薄まることを意味するかもしれない。そうすると、必然的に「快適・利便」に対する開発リソースの配分が減少し、それが自動車は単なる移動手段という価値感を持ったユーザーを増加させる、という悪循環に陥りかねない。
筆者は、シニア層向けに限らず「快適・利便」が自動車ライフの付加価値を高める上で必要な要素だと考える。製品開発側で「快適・利便」に対するリソース配分に制約がある中で、上記で述べたような悪循環に陥らないためにも、販売・サービス側で、「快適・利便」の付加価値を高めていくことが求められているのではないだろうか。
<宝来(加藤) 啓>