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ショッピングセンター活用の方向性について考える
◆西日本初のオートモール「アリオ八尾店」12月オープン
<2006年11月02日付日刊自動車新聞掲載記事>
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【オートモール「アリオ八尾店」オープン】
大阪府八尾市にトヨタ、トヨペット、カローラ、ネッツのトヨタ系列 4 販社とダイハツ販社が出店するオートモールがオープンする。
ショールームには各店舗約 5台分の展示スペースが有り、店舗の前の共有スペースを活用して共同イベントが開催可能となっているようである。また、サービスストールはトヨタ、ダイハツが各 4 ストールで、トヨペットとカローラ、ネッツは 8 ストールを共同運営するそうである。
類似例として岐阜県にある「カラフルタウン岐阜」が挙げられる。「カラフルタウン岐阜」にもトヨタ系列 5 販社(ネッツが 2 販社出店している)とダイハツ販社が出店している。さらに「カラフルタウン岐阜」には、キャンピングカーの専門販売店やカスタマイズ専門店、中古車販売のカーロッツ、カー用品販売のジェームスが出店している。
「アリオ八尾」と「カラフルタウン岐阜」はどちらもイトーヨーカドーや映画館などが同居するショッピングセンターであり、どちらかというと、そちらの方がメインになっている。
記事は、ショッピングセンターの集客力を活かして、日頃接点を持ち難い新規顧客の獲得に各社とも期待を寄せていると締めくくられている。確かにイトーヨーカドーに夕飯の買い物に来る主婦や映画を観に来たカップルが顧客候補になることを考えると、通常の店舗では主婦やカップルという顧客自体に接点を持ち難いし、夕食の買い物や映画を観るという出会いのシチュエーションとしても日頃接点を持ち難いだろう。
顧客や出会いのシチュエーションが変われば、出店者側の顧客へのアプローチやビジネスの構造も変わってくるだろう。出店する販社の立場から、新車販売、中古車販売、サービスといったビジネス別に、日頃の接点との違いや出店する際の考慮点を考えていきたい。
【ショッピングセンターへ出店する際の考慮点】
<新車販売>
通常のディーラー店舗には車を買う、少なくとも買うことを検討している顧客が訪れる。しかし、ショッピングセンターに来場する顧客のほとんどは車を買いに来てはいないだろうし、車を買うことを検討すらしていないと思われる。
それでも既納客の場合にはサービスや保険の更新を通して、一般的に 5年に一度のサイクルと言われる買替を促すという通常の顧客アプローチが考えられる。しかし、新規顧客の場合には以下の考慮点があると考える。
第一にクロージングまでのプロセスが長くなることである。
クロージングまでのプロセスを AIDMA (Attention (注目する)、Interest(興味を持つ)、Desire (欲しくなる)、Memory (検討する)、Action (購買する))で分解すると、通常の店舗に来店する顧客は車を買うことは検討しているので Interest や Desire のプロセスから始まると思われるが、ショッピングセンターの顧客は、車の購買を目的としていない場合も多いため最初のAttention 活動から始める必要があり、購買までのプロセスが 1 プロセス長くなる。
第二に新規顧客開拓効率が高まる可能性を持つことである。
ショッピングセンターに来場する顧客は車を買うことを目的としていないが、別の目的でショッピングセンターに来場はしている。ショッピングセンターでの新規顧客の開拓が Attention 活動の場から始まると考えると、通常の店舗での Attention 活動は、チラシや飛び込み営業が中心であり、新規顧客に接触するためにコストを要するのに対し、ショッピングセンターでは来場はしているので接触することにコストは要しない。
接触した後にコストは要するが Attention 活動全体では、接触までのコストが削減できるから、これまでよりコストを掛けずに、これまで以上の効果も期待できるのではないだろうか。
第三に Attention 活動から始まる購買プロセスに不慣れなことである。
Attention 活動が成功し Attention プロセスにいる顧客が多数集まったとしても、次の Interest プロセス以降へ繋げなれければ意味がない。
Attention → Interest 以降のプロセスへ繋いでいくための具体的イメージを持つため、Attention プロセスの顧客、Interest プロセスの顧客をイメージしてみたい。例えばカタログを貰って帰った顧客はいずれのプロセスの顧客だろうか。カタログを貰うということは興味を持ったからと捉えると、Interestプロセスの顧客になる。そうすると Attention プロセスの顧客は、カタログを貰う前の顧客となり、例えば、ここに店舗があるんだとか、ここでこんな車が売っているんだということを認知した顧客になるだろう。
まず考慮しなければいけないのは、店舗や車の存在を認知した全ての顧客を顧客 DB で管理することは現実的には無理だろうし、管理するにしても販売効率を考えると次回車検の近い顧客に絞り込むといった工夫が必要だろう。そして、通常の店舗では前述したように Interest プロセスから始まることが多いから、Attention プロセスにいる顧客をホット化し、Interest 以降のプロセスへ繋いでいくことが不慣れであると考えられる。
<中古車販売>
新車販売と顧客が共通するから、新車販売であげた 1.クロージングまでのプロセスが長くなること、 2.新規顧客開拓効率が高まる可能性を持つこと、3.顧客管理方法がこれまでと変わることは同じく言えるだろう。
ただ、カタログ販売の新車とは異なり中古車は現物販売であるから、実際のAttention 活動に違いは出てくるだろう。Attention 活動を店舗や車の存在を認知させることを目的すると、店舗の存在を認知させることには必ずしも車は必要ないから、店舗スペースの大部分を占める現物があることが Attention 活動の内容に制約を与えてしまうことも考えられる。そうすると現物があることを活かし、車の存在の認知を高めることが重要ではないだろうか。
<サービス>
ショッピングセンターに来場する顧客の内、整備を目的とする顧客もほとんどいないと思われる。ただし、他の目的で来場した場合でもサービスの実施は可能である。例えば、夕食の買い物は一度だけの時間では作業時間が間に合わないかもしれないが、買い物は定期的に行われるから次回までの代車を与えることで「ついで寄り」が可能だろうし、映画鑑賞の時間だけでも簡単な整備なら対応可能だろう。
ショッピングセンターが定期的に訪れる場であることを活かし、通常の店舗では土日に集中してしまう入庫を平準化することもできると考えられる。平日割引等の導入効果も高いのではないだろうか。
またコストの面でも引き取り納車で発生する費用やサービスストールを共同運営することで、共同運営ルールの難しさもあると思うが、設備への投資額を削減することができる。
【どのビジネスが売り易いか】
これまでショッピングセンターに出店する際の考慮点をビジネス別に述べてきた。新車販売、中古車販売、サービスの中でショッピングセンターで相対的に売り易い、言い換えれば注力すべきビジネスはどれだろうか。上記で述べてきたことを纏めてみると以下のようである。
新車販売は、
・車の購入を目的としてない顧客を対象とするため、クロージングまでのプロセスが長くなる。
・新規顧客開拓の場と位置づければ、これまでよりも効果を発揮できる可能性がある。
・ただし、新規顧客を開拓したとしても購買へ至るまでのプロセスを繋いでいくことは不慣れである。
中古車販売は、
・上記に加え、現物販売であるから新規顧客の開拓の場と位置づけても物理的な制約が働くことがある。
サービスは、
・サービスの「ついで寄り」が期待できる。また作業の平準化も期待できる。
・コスト面でも来店型であるから引き取り納車費用を削減することやストールを共有することで設備投資を削減することができる。
売上の増加や費用の削減が見込まれるサービスに注力すべきだろう。そして、新車や中古車販売からみても、ショッピングセンターの位置づけを新規顧客開拓の場と位置づけるより、サービスを通して買替を促す場と位置づけるべきだろう。
【他業種のショッピングセンター活用の可能性】
ショッピングセンターの店舗ではサービスビジネスに注力すべきだと述べてきた。そう考えるとディーラー以外の例えば整備業者もショッピングセンターを有効に活用できるのではないだろうか。
整備白書によれば整備事業場数は全国に 86,591 事業場あり、その内ディーラーは 16,144 事業場と約 20 %程度であり、残り 80 %のほとんどは整備専業や一部車販も行う兼業の事業場で占められている。
しかし売上高でみると整備全体の売上高 61,702 億円の内、ディーラーが 27,372 億円と 40 %以上を占めている。事業場当たりの売上高はディーラーが約170 百万円、整備専・兼業者が約 50 百万円となり、ディーラーと整備専・兼業者の売上高には 3 倍の差がある。アフターマーケットから見ると入り口となる新車販売が多いディーラーが整備に有利であるという結果と思う。
新車販売で接点を持ち難い整備専・兼業者がショッピングセンターに出店して接点を多くすることは考える価値があることと思う。しかし、これまでとは異なる主婦やカップルを顧客とするため、店舗作りや接客の仕方を変える等自社内での課題に加え、ショッピングセンター運営する会社や不動産デベロッパーを説得し信用を得るという課題もある。1 事業社では対応できることに限りがあるだろうから、業界団体や整備関連のフランチャイズ本部の協力が必要になるだろう。
ショッピングセンターに出店する際にサービスビジネスに注力すべきと述べてきたのは、出店する目的を儲けることとして捉え、儲けるための手段としてはサービスが有効であろうと考えてきたからである。(儲ける手段は他にあり)目的を認知を拡げることだとすれば、自動車メーカーにとっても活用の余地はあるだろう。お台場の「メガウェブ」や池袋の「アムラックス東京」も町全体をショッピングセンターとして捉えれば、ショッピングセンターの集客力を活かした認知を拡げる場として捉えることができる。
こうして考えてくると当たり前ではあるが、目的を明確にし、目的を達成するための手段がいくつかある中で、手段を評価し一番効果的で効率的な手段を選択することが重要だと改めて認識することができる。
<宝来(加藤) 啓>