ビジネス・アイデアを生み出すために必要なことについて考える

(「子育て応援タクシー」、香川県内のタクシー会社 5 社が参入。6 社体制に)

応援タクシーは、研修を受けた運転手が、チャイルドシートの備え付けや、ベビーカーの積み降ろしなどを手伝う。残業で手が離せない親に代わって子どもの送迎も行っている。

                 <2005年12月01日号掲載記事>

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 自動車業界において女性のニーズの何を、どのように取り入れるかは、以前から主要なテーマの一つである。

 これまでに取り入れた例として、製品では、古くはサンバイザー裏のミラー、コンパクトカー(女性ニーズだけではないが)、スライドドア、スカートのままで乗れる回転シート、流通・アフターマーケットでは、以前に弊社寺澤が取り上げたインパネアクセサリーソケットに差し込むとアロマオイルの香りが車内に広がるカー用品、筆者が取り上げた店舗をカフェ風に演出するダイハツのディーラー等、様々である。

 「子育て応援タクシー」は、その名前からだけでも、女性の中で特に母親の子育てにおける移動のニーズを、アフターマーケットにおいて、タクシー会社が取り入れた新たなサービスと捉えられるだろう。

 今回は、「子育て応援タクシー」を例に取り上げて、新規ビジネスモデル開発のプロセスの中でも、最初にして最重要であるビジネス・アイデアを生み出すために必要なことについて考えてみたい。

【子育て応援タクシーの新しさ】
 子育て応援タクシーは NPO 法人わはは(輪母)ネットとタクシー会社が協同で提供するサービスである。サービスは、以下の 3 コースで構成されている。

1.かんがるーコース(乳幼児と保護者が同乗する場合のサービス)
 乗車支援:チャイルドシートの用意、ベビーカーを乗せたり降ろしたり、乳幼児が愚図ったりしても、気持ちよく笑顔で応対

 行き先の提案:乗車日に開催されている子育て支援施設や内容などの情報を運転手が把握。お友達が欲しい、遊びに行きたい、などリクエストに答えて行き先を一緒に考え送迎を支援

 子育て情報の提供:子育て情報誌など必要な冊子やリーフレットの提供

2.ひよこコース(子どもが一人で乗る場合のサービス)
 あらかじめ保護者が、タクシー予約時に迎え場所、送り先を指示し、子ども一人での移動を支援。急な残業で保育所までの迎えにいけない、急な用事で学習塾への送迎ができない等に対応

3.ふくろうコース(急なトラブル・夜中の移動などのサービス)
 夜中の子どもの突然の発熱や怪我の際に、救急車を呼ぶほどではないといった場合に対応

(わははネットホームページより抜粋)

 上記のサービスを既存市場・新市場と既存サービス・新サービスのマトリックスで整理してみる。

A.既存市場・既存サービス
 乳幼児の愚図りやベビーカーの乗せ降ろしの笑顔対応等によるサービスレベルの向上

B.既存市場・新サービス
 チャイルドシートの用意、行き先提案型営業、子育て情報誌の提供

C.新市場・既存サービス
 保護者の指示に基づいた、子ども一人での移動対応(子ども一人でのタクシー移動は、都市部では既存市場の可能性もあるが、一般的にという意味で新市場とする)

D.新市場・新サービス
 特に無し

 つまり新たなサービス(大きく捉えるとビジネス)といった意味では、上記の B と C の領域となるであろう。

 一般的に、新たなビジネス・アイデアを生み出すためには、A ・ B の領域は、既存顧客の声を、どのように集めるかという工夫が必要になり、C、D の領域では、新たな市場調査などが伴うことが多い。

 そういった活動において、今回の「子育て支援タクシー」では、わははネットが果たした役割は大きい。

【わははネットの活動】
 わははネットは、以下のサービスを通して、地元(香川県)に密着した育児情報の提供と、育児に関する悩みを話し合う場の提供を行っている。

1.子育て情報誌「おやこ DE わはは」の企画・編集・発行
 マタニティから就学前の家庭向けに、衣食住に渡る総合情報誌である。母親達の手だけで運営されており、情報・リポーターを随時募集中。無料のサービス。

2.携帯メールを使った 情報提供サービス 「わははメール」の企画・運営
上記「おやこ DE わはは」の携帯メール版

3.まちかど子育て応援スペース「わははひろば」の設立・運営
 商店街に、母親と子供のための集いの場・憩いの場である「わははひろば」を開設・運営し、子供達と一緒に遊んだり、母親の子育て相談に対応。会員制で月額会費 500 円。一日会費 100 円。

4.育児サークルのネットワーク化 「かがわ子育てネットワーク zoo」
 香川県内約 180 の育児サークルを始め、幼稚園・保育園・子育て支援センター・小児科・産婦人科等子育て支援団体をネットワークした「かがわ子育てネットワーク zoo」代表として、子育て支援を提案。

(わははネットホームページより抜粋)

 筆者の推測を交えて、わははネットのサービスの関係性を整理すると、まず1 が核となり、2、3 といった派生サービスが生まれ、ネットワークの外部性により 1、2、3 の付加価値が向上する。その副次的産物として、4 が生まれたということであろう。

 こうした 4 つのサービスを提供する中で、ビジネス・アイデアの源泉となる母親のニーズを収集し、「子育て支援タクシー」が生まれと考える。

 以下が、わははネットが持つ母親のニーズの収集力の強みである。
A.調査対象自身が調査
 調査対象である母親自身がリポーターであり、調査員であるため、調査対象に受け入れられ易い。

B.調査媒体が複数
 雑誌、インターネット、生の声を収集可能。

C.複数の目線から調査可能
 母親だけでなく、幼稚園・保育園、小児科、産婦人科といった目線からの情報も収集可能。

D. 調査可能数が多い
 「おやこ DE わはは」は 25,000 部/季刊、「わははメール」は登録会員 2,000 名、「わははひろば」の年間利用者はのべ 5,000 名、そして、「かがわ子育てネットワーク zoo」と、多数の母親にリーチすることが可能。

 上記の強みを活かして、わははネットが基点となったビジネスは、「子育て応援タクシー」以外にも存在するようで、ホームーページには、PTA の連絡網システムや、子ども玩具の販売店などの広告も載っている。

【「子育て応援タクシー」の事例から学べること】
 ビジネス・アイデアを生み出すために必要なことについて、以下のことがいえるのではないだろうか。

A.市場情報を持つ企業を活用する
 今回取り上げた、わははネットの活動は、活動そのものが市場調査であり、他市場においても、こういった団体・企業は存在することが考えられる。こうした団体・企業とのアライアンスにより、効率的にビジネス・アイデアを生み出すことができるだろう。

B.複数の目線を取りれる
 直接の顧客でもなければ、競合でもない人達の視点を取り入れることである。
わははネットでいえば、幼稚園や小児科といった人達である。こうした人達は、同じ市場に参入する者として、知見を持っているだろうし、違った切り口からのアイデアを持っている可能性がある。

C. 市場調査の重要性の再確認
 ビジネス・アイデアの源泉となるのは、市場のニーズである。提供する商品・サービスがシーズであっても、ニーズであっても、市場から必要とされるのか、必要とされているのかの確認が重要である。その際には、雑誌、インターネット、生の声など複数の媒体を活用することや、調査対象を多くとることが必要であろう。

 手前味噌ではあるが、弊社も自動車業界に特化したコンサルティング会社として、自動車業界において幅広い知見とネットワークを有している。新たなビジネスを考える際には是非、ご活用いただきたい。

<宝来(加藤) 啓>