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オプション製品を例にした製品開発における出発点
(トヨタ、腕時計にスマートキーを内蔵「キーインテグレーテッドウォッチ」 を発売)
スマートキーの機能を腕時計に内蔵し、腕につける事により、ドアの解錠・施錠ができるほか、エンジンスイッチを押すだけでエンジンの始動・停止を行うことができる「キーインテグレーテッドウォッチ」を開発し、クラウン(『ロイヤル』&『アスリート』シリーズ)専用の販売店装着オプションとして 10月4日より発売する。
<2005年09月28日号掲載記事>
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「キーインテグレーテッドウォッチ」は、通常の時計と同じように腕につけておくことにより、以下の機能を発揮する。
・フロントドアハンドルを軽く握るだけでドアの解錠
・ドアハンドル上のロックボタンを押すだけでドアの施錠
・腕時計の側面にあるボタンを押すことにより、遠隔操作でドアの施錠・解錠
・エンジンスイッチを押すだけでエンジンの始動、停止
上記の機能は、顧客に、鍵を取り出す手間を省く、そもそも鍵を持ち歩く必要がないという利便性を提供する。
この「キーインテグレーテッドウオッチ」を開発したトヨタや東海理化の意図は、クラウンをより便利にしてクラウンの付加価値を上げるところまでだとは思うが、考えようによっては、今後の製品開発の考え方におけるオポチュニティを示唆しているように思われる。今回は、そのオポチュニティについて考えてみたい。
【生活横断的な製品展開】
「キーインテグレーテッドウオッチ」のキーを持ち歩く必要がないという利便性は、もう一段階拡張の余地があると思われる。
というのも、例えば顧客にとって持ち歩くキーはクルマのキーだけではなく、家のキーや会社の引き出しのキーなどもあろう。それらキー類は、個別に持ち歩くより、一纏まりにして持ち歩くことが多いと想定され、そこから、クルマのキーだけなくなることに、それほど利便性は感じられない。
そこで、利便性拡張の事例として、ソニーのメモリースティックが参考になるのではないだろうか。ソニーはメモリースティックを PC、プリンター、デジタルカメラなどの各種デバイスに展開し、様々な生活シーンでの使用に展開していった。
これを「キーインテグレーテッドウオッチ」に置き換えて考えてみると、自宅のキーの開閉や、会社の PC やセキュリティゾーンへの進入とか、飛行機のファーストクラスへのスマートチェックインとか、ATM の認証だとか、自動販売機でジュースやたばこを買うのにも使えるようにするとか、キーインテグレーテッドという機能を軸として、様々な生活シーンで横断的に使用できるよう展開することが考えられる。こうしたことをやっていくと「ネットワークの外部効果」でクラウンはもちろん、トヨタの住宅や金融サービスも、もっと売れるようになるかもしれない。
そして、どんな製品・サービスに、この技術を搭載するかを考えるにあたっては、顧客層の属性や生活スタイルを考慮することが重要になるであろう。
例えば、今回の場合も、キーインテグレーテッド「携帯」ではなく、キーインテグレーテッド「ウオッチ」としているところに、クラウン顧客層の属性への考慮を感じる(考えすぎかもしれないが)。クラウンは往年の高級車であり、購入層は若者よりも、比較的、中高年の高所得者層が多いと想定され、ともすると携帯電話をいつも携帯していると限らないこと、携帯には高級感が感じられないこと等を考慮したと思われ、この点では正しいと考える。
次に考えなければいけないのが、こうした属性を持つユーザーがどこで、どのような状況において「キーインテグレーテッドウオッチ」を使うことでイライラが解消されたり、満足感を感じるかという場面の想定である。ゴルフ場ではどうか、スポーツジムではどうか、銀座のクラブではどうかと考えていくとよい。
【顧客をカスタマイズ】
通常の内装・外装・機能などのオプション製品は、顧客が自分の好みに合わせて選択し、クルマをカスタマイズする。「キーインテグレーテッドウオッチ」は、選択するのは顧客であるが、それを身につけることによって、顧客自身がクルマにあわせてカスタマイズされる。
言い換えてみると、顧客が自分の好みに合わせて商品を選択することには違いないが、選択することで、ある種の制約を自らに課すということになる。
こうした点で例えばレクサス店は、至れりつくせりの、おもてなしサービスを提供する一方、こうしたサービスを受けるためには、必ずレクサス店へ行かなければいけないという制約が発生する。定期点検時の自宅への引き取りや、納車は行わないというだけでなく、ワランティなども既存トヨタ店では受けることはできない。他には、IT 業界の ERP システムもそうであろう。ERP システムはパッケージであり、その機能を最大限に活かし、効率的に導入するには、システムのカスタマイズは最小限にとどめ、業務をパッケージに合わせる必要が発生する。
上記のような顧客をカスタマイズするために発生する制約を乗り越えるためには、制約以上の何か特別な理由付けが必要になる。
何かとは、「キーインテグレーテッドウオッチ」の場合、キーを持ち歩く必要がないという利便性か、クラウンというブランド力になるであろう。
キーを持ち歩く必要がないという利便性は、前述のように、現段階では、特別な理由にはならないと筆者は考える。
また、クラウンのブランド力は、いつかはクラウンといわれた過去もあり、熱狂的なクラウンファンは存在するだろう。だが、レクサスのデビューしたいま、クラウンのブランド力がどれほどのものかは微妙である。少なくともハーレーダビッドソン、フェラーリー、BMW といった関連ノベルティグッズで利益を獲得するというレベルには達していない。クラウンブランドで顧客をカスタマイズするためには、クラウンという記号の持つ意味がもっと明確かつ強力になる必要があるだろう。
【製品開発における出発点】
筆者が前述してきたことをまとめると以下のようになる。
・生活横断的な製品展開をするためには顧客層の生活スタイルを考慮することが重要
・顧客のカスタマイズには、製品自体の利便性や、ブランド力といった、何か特別な理由付けが必要
顧客から製品を考えることは、製品開発をするうえで、基本的なことである。付け加えて、顧客にある種の制約を課してでも買いたいと思わせるには、そこからもう一歩踏み込んで、顧客の特定の場面から製品を考えることを出発点とすることが必要でないであろうか。
「キーインテグレーテッドウオッチ」の場合、高級車クラウンという購買層と、クルマの鍵を開け閉めという場面から出発したということになる。購入顧客の場面から考えることにより、求められる製品や、製品の機能が明確になろうであろう。
そして、顧客の特定の場面から製品を考えることは、クルマ以外の生活を含めて製品を発想することであり、これまでクルマを中心に製品を開発してきた自動車業界にとっては、アイデア面でもリソース面でも得意とはいえない考え方である。そこに、新規参入のチャンスがあるのかもしれない。
<宝来(加藤) 啓>