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革新的なアイデアを生み出すための考え方 ~ ETC 利益率向上を例に~
(ETC の利用率、今月 7日現在で 45.3 %に。目標としていた 50 %には届かず)
高速道路の料金所で止まらず支払いができるノンストップ料金収受システム(ETC)の利用率は今月 7日現在で、45.3 %に達しているが、国土交通省が今春の目標としていた 50 %には届いていないことが 17日、分かった。
国交省は利用率を来春までに 70 %へ引き上げることを目標にしているが、目標達成には週末だけ運転するドライバーの利用が鍵になると判断。
<2005年7月17日号掲載記事>
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2001年より運用が開始された ETC は、堅調に普及している。搭載台数は 2005年 7月 10日現在で、7,474,151台と自動車保有台数の 1 割程度であるが、ETC利用率(ETC 利用台数÷通行総台数)は、45.3 %と 2台に 1台の割合である。
利用率を曜日別でみると全国平均で平日は 48 %前後、土日は 30 %台と低迷しているという分析結果もあり、週末だけ運転するドライバーに焦点が当てられたようである。
そして、週末だけ運転するドライバーに訴求する施策として、最低で月 200円から車載器をリースする制度や、車載器購入者への助成制度などの PR をあげている。
上記のような施策は、確かに顧客の購買意欲を向上させるために効果があると思うが、購入前、購入時、購入後のタッチポイントでみると、購入時に重点をおいていると感じた。
筆者は、顧客が使用する中で利便性を感じる購入後の施策を強化することも重要であろうと考え、現在のところ、ETC は各タッチポイントで、どのようなサービスを展開しているのかを整理してみた。
本コラムでは、ETC の各タッチポイントにおける既存サービスについて整理するとともに、利用率向上のための施策例を考える。施策例は従来の考え方の延長からは出てこない施策についても考えてみたい。
【ETC のサービス展開の現状】
<購入前>
・整備事業者からの車載器取り付け促進に関する DM、チラシ
・道路公団、車載器メーカーの広告宣伝、CM
・サービスエリア、パーキングエリア、高速道路入り口でのポスター、チラシ
<購入時>
・車載器リース制度:リース等(割賦・クレジット)で取り付け可能
・車載器購入支援:購入時割引=5,250 円(税込み)
・料金還元:新規購入時に、「ETC マイレージサービス」など各制度へ申し込み者への 5,000 円分の料金還元
<購入後>
・各種割引
各道路公団によりサービス内容に若干の異なりがあるが全体としては以下である。 ・前払割引:一定の金額を事前に支払うことによる割引(最大 8,000 円お得)
・マイレージサービス:利用実績に応じてポイントを還元する方式による割引(50 円→ 1 ポイントで、100 ポイントで 200 円還元、交換するポイントが高いほど還元率も高くなる)
・大口・多頻度割引:事業者向けの利用実績に応じた割引(1 万円から5 万円までが 6.25 %の割引、5 万円を超えると 12.5 %の割引)
・時間帯割引:通勤、早朝夜間、深夜など利用時間帯に応じた割引(最大 50 %の割引)
・普及促進割引:期間限定で通行料を一律割引(5 %程度の割引)
・特定路線/区間割引:東京湾アクアラインなど利用促進を目的とした割引(20 %程度の割引)
・環境ロードプラインシング:住宅地域ではなく臨海部を交通することによる大型車限定の割引(20 %の割引)
・各種クレジット会社カードとの提携(ガソリンスタンドや高速利用料金に対して 10 %ほどのキャッシュバック有り)
・利用証明書の発行
各タッチポイントで整理してみると、行政施策が購入時だけ重視したものではなく、購入後の施策にもきちんと配慮したものであることがわかる。
しかしながら、購入後の施策が主に日常的に利用頻度の高い利用者や、交通量の少ない時間帯の利用度向上に焦点をあてたものだということも明らかになってくる。
次以降では、行政とは異なる切り口から利用率向上のための施策例を考えていきたい。まずは、従来の延長から考えるということで、週末だけ運転するドライバーというターゲットから考えてみる。
【ターゲットから考える】
ETC を利用する週末だけ運転するドライバーとは、どのような人であろうか。一般的なセグメンテーションの切り口としては、地理的特性、人口統計的特性、心理的特性、購買行動的特性など、いろいろとあるが、レジャー、仕事といった車利用目的と、往復、片道といった移動特性による切り口で考えてみると、車利用目的は、レジャーが大半で、移動特性は、都心から郊外へ、もしくは郊外から都市へ、日帰りないしは 1 泊 2日での往復が大半であると思われる。
施策例としては、レジャーという観点から、夏であれば海といったような季節変動を踏まえたレジャー施設でのプロモーション活動、複数の世帯または、複数の独立した個人で行動することも想定でき、複数契約による購入時割引が考えられる。往復移動という観点からは、週末に限定した 1 泊 2日内での往復割引が考えられる。往復区間内乗り降り自由サービスが加われば、さらに効果的だ。
しかし、そもそも週末にしか高速道路を利用しない人に高速道路利用上の便益だけ提供しても車載器への投資効果を訴求することは難しいだろう。
高速道路を降りたときでも、あるいは自動車を利用しないときでも価値を感じることのできる機能やサービスを付加することも検討するべきである。時間貸しパーキング、ガソリンスタンド、ファーストフードのドライブスルーなどでも利用できるようにするというのは既に一部で実験済みであるが、例えば盗難防止や盗難後の追跡機能(技術的に可能かどうかは別として)を付加して車載器搭載車には自動車保険の割引も受けられる等、自動車を動かしていない・乗っていないときにもありがたみを実感できるハードウェアにしていかなければいけない。
ターゲットから考えることは、既存の枠の中で考えるということであって、革新的なアイデアを生み出すためには、一旦、そこから離れ、原点から考えることが重要だと思う。
【ビジョン、ミッションから考える】
ETC は単なるテクノロジーであり目的達成のための手段に過ぎない。テクノロジーはそれ自体がありがたいのではなく、それが製品・サービスや工程に体化することで企業や産業、社会全体の生産性(付加価値)が向上することに意義がある。ETC の普及というテクノロジーや手段自体に意義があるわけではない。
高速道路通行台数を減らしたい(渋滞損失の軽減、交通事故の削減、騒音・煤煙・地球温暖化の阻止)のか、高速道路通行台数を増やしたい(一般道における渋滞・事故・環境悪化を減らしたい)のか、高速道路通行台数は変えないままにその効率を改善させたい(平均走行速度や単位時間あたり通行台数を増加させたい)のか、目的を明確にすることが必要だ。
高速道路通行台数を減らすことを目的とすることはあり得ない話のようだが、ETC 利用台数÷通行台数で表される利用率を KPI とするということは、分子のETC 利用台数を増やすのではなく分母の通行台数を削減しても目標は達成されることになる。そしてその場合、最も手っ取り早いのは高速道路通行料金の値上げである。特に週末の利用率が低いことが課題ならば週末に割増料金を取れば分母が小さくなり、同時に ETC 利用車には割引制度を導入すれば分子は大きくなる。
【ビジネスモデルから考える】
道路公団の収益源には、道路料金収入のほかに、有料道路建設・復旧事業に係わる政府からの補助金(会計上は固定負債計上)、サービスエリア、パーキングエリアの主に占用料収入、駐車場収入、トラックターミナル等関連施設収入などがある。ETC というテクノロジーを使って、これらのどこに投資してどこに儲けるかという課金モデルの再構築が検討課題になっていても不思議はない。
道路料金収入は全収入の 90 %を超えており、もし、今後も道路料金収入を主要な収益源にしていくということであれば、自動車メーカーに対して車載器の標準搭載を義務付け、その見返りに税負担を軽減することになれば新車の ETC普及率は 100 %になるはずである。自動車メーカーにしてみれば、制度を利用すれば税金を使って商品力の向上が図れるし、逆に制度を利用しない場合は税金も含めた製品の最終価格は同じなのに商品力で他社に見劣りする結果になるからだ。
要するに公団が車載器メーカーから車載器を買取り、自動車メーカーを通じてただで配る方法で、ソフトやシステムを利用度に応じて課金するモデル(ASP等)が PC をただで配るのと同じ考え方である。個人に対して車載器のリースや補助金を出すよりも遥かに効果は高い。
【技術から考える】
ETC は、DSRC (狭域無線通信)ができる、決済ができる、ETC カードは個人所有である、1枚の ETC カードを複数の車両で使用できる、といった特徴を持っており、一括りにノンストップ料金収受システムととらえるべきではない。
上記のような特徴と市場ニーズのマッチングを踏まえ、既存バリューチェーンを水平展開していけば、例えば、前述した時間貸パーキング、ガソリンスタンド、ファーストフードのドライブスルーでの決済利用、、高いセキュリティを必要とする建物のゲートで個人認証として使用する、個人情報・車体情報をETC カードに記録し、自動車登録の際に使用する無人式速度取り締まり装置(オービス)に利用する(利用率が下がる可能性もあるが)、などが考えられる。
ターゲットから考えるということばかりではなく、ビジョン、ミッションから考える、ビジネスモデルから考える、技術から考えるといった、原点から考えることにより、これまでの考え方では打ち破れない壁を破る方法が見えてくるはずである。
そして、こうした考え方は何も ETC や道路行政にだけ当てはまる固有のものではない。全ての企業のマーケティング活動全般に有効な考え方だと思われる。
<宝来(加藤) 啓>