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レンタカー・リース市場における既存市場からのブレークスルーの可能性
(レンタカーに装着したGPSで外国人観光客のニーズを探る)
カーナビに搭載される全地球測位システム (GPS) を使って、新千歳空港を 訪れた外国人観光客の行動ルートを追跡する試みを、JTB 北海道営業本部と北海道開発局が進めている。
<2005年6月6日号掲載記事>
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カーナビが持つ履歴情報が、レンタカー事業者、大手旅行代理店である JTB、そして行政である北海道開発局という新たな連携を生み出した。情報を基点とした、新たなアライアンス戦略は、これからの情報社会において拡大が予想されると同時に、こうした機会を的確に捉えて行動に移すことが、今後の競争市場の勝ち残りの条件となるであろう。
本コラムでは、今回の記事として取り上げられたレンタカー市場に焦点を当て、オートリース市場との比較を交えながら、企業が既存市場セグメントからブレークスルーするためのヒントについて考えてみたい。
【レンタカー・オートリース市場動向】
1)市場規模と成長性
<レンタカー・オートリースの国内市場規模推移>
1995年 1998年 2001年 2003年
レンタカー 23.3万台 26.9万台 31.5万台 29.8万台
オートリース 171万台 206万台 232万台 250万台
(自動車レンタリース年鑑、自動車リース統計より抜粋)
市場規模では、法人需要の多いオートリース市場が相対的に大きい。成長 性では、オートリース市場は拡大傾向にあるが、レンタカー市場は頭打ちに ある。拡大を続けるオートリース市場においても、今後は、成長が鈍化するという見方が多い。
2)プレイヤーの動向
レンタカーとリースの違いを今一度確認する。
レンタカー リース
契約期間 短期 長期
利用者 不特定多数 契約者
所有者 レンタカー会社 リース会社
ナンバープレート 「わ」ナンバー 所有車両と同じ
北海道は「れ」
保管場所 レンタカー会社 契約者
中途解約 車両返却と同時 原則不可
オプション取付 不可能 可能
1台の車に対し、レンタカーの利用者は不特定多数である一方、リースの利用者は契約者のみであり、車の利用方法等が異なるため、同じ賃借といっても、互いの市場への参入障壁は意外と高く、プレイヤー達は一部の大手を除き、お互いの市場に分かれ活躍している。
しかし、顧客に関しては相互に近付きつつある。これまではレンタル市場は個人、リース市場は法人と分かれる傾向にあったが、レンタル市場のプレイヤーは法人顧客獲得へ、リース市場のプレイヤーは個人顧客獲得へ動き始めている。これに伴う、レンタカー・オートリースそれぞれの大手の動きを
紹介する。
<レンタカー業界大手トヨタレンタリースの新事業戦略>
『低調な経済環境のもと、現在、レンタカー利用においてもまた、ビジネス使用など法人需要が増加しています。今後はこれまで以上に、レンタカー市場における法人需要の掘り起こし、さらにはカーリースと同様のメリット提案を事業戦略の核としていきます。』
(トヨタレンタリース HP より抜粋)
<リース業界大手の大手オリックス自動車のプレスリリース>
『オリックス・オート・リースでは、これまで付加価値サービスを充実させることにより、個人向け自動車リースの浸透と拡大を目指し、法人顧客の職域展開とビジネスパートナーによるチャネル展開に注力してまいりました。さらにマスマーケットへの展開拡大と個人のお客様の認知度向上を目指します。』
(2004年10月22日プレスリリース)
勿論、顧客セグメントの相互乗り入れの動きだけでなく、既存セグメントにおける顧客囲い込みにも各プレイヤーは余念がない。
例えばレンタカー業界では、24時間営業、オンラインシステム導入による迅速で正確なサービス提供、割引特典つき会員カードの発行、海外プレイヤーとの提携によるサービス拡大などで、既存顧客の利便性を向上させるべく、企業努力を継続している。
また、リース業界では、長期割引、メンテンナンスや保険をパックにしたプラン、リース料金を低減する残価設定型プランなどにより、顧客への更なる付加価値を提供している。
しかし、こうした既存セグメントにおいてプレイヤー達が求める競争優位性は、スケールメリットによるコスト競争力であることが多く、市場の拡大が鈍化する中、互いにパイを奪い合う厳しい競争環境が待っていることが多い。
【ブレークスルーするためのヒント】
スケールメリット、コスト競争力を求めて、パイを拡大し、そのパイを奪い合う動きは、今後も継続していくであろう。しかし、今回、取り上げたカーナビが持つ履歴情報で外国人観光客のニーズを探るという取り組みは、単なる既存セグメントでのシェア拡大、コスト競争力の向上という手法に頼らない、新しい市場開拓のヒントを示唆している、と筆者は考える。これは即ち、情報を活用する形で、顧客の新たなニーズを吸上げ、これを商品開発に生かすというやり方だ。
例えばレンタカーやオートリースであれば、一旦、事業者の手元を離れた車が確実に自分(業者)のもとに帰ってくる。つまり、どのような車種が選択され、どのように利用され、どういった故障・事故を起こしたのか、更には、どのようなオプションが選択されたかも把握することが可能である。こうした顧客、もしくは車両の情報を収集し、それらをビジネスに活用する方法としては、
1. 情報、そのものを売る。
2. 顧客ニーズに適した商品をメーカーと共同開発する。
3. 新たな料金プラン、その他サービスパッケージを開発する。
等が考えられる。
しかし、こうした情報を効率的且つ効果的に多数の顧客から収集する為には、新たな仕組みが必要となる。これを構築するためには、個人情報保護など様々な障害が想定されるが、まずはIT技術の持つ機能を理解すること、そして、業界の壁に縛られない幅広い視野を持ち、必要に応じて複数の事業者共通の利益を勘案した上で、最適なアライアンスを組むことが重要であろう。
こうした視点を持って読めば、今回取り上げた記事のような形での業界・事業者を越えた提携に基づく情報収集は、効果的であると解することが出来るだろう。
<宝来(加藤) 啓>