顧客の立場で考えることの重要性

◆部品メーカーもEV試作

                    <2010年11月28日号掲載記事>

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【部品メーカーがEV試作】

 トヨタ系列の部品メーカーにおいて、電気自動車(EV)の完成車を試作する動きが見られる。しかし、いずれも販売目的ではなく、開発テーマを探ったり、社内の機運を高めたりするのが狙いということである。

 豊田合成は昨年 4月に試作を開始し、社員約 40 人が本業との兼務で取り組み、昨年 12月までに完成車を仕上げた。

 購入部品はモーターや電池など一部だけで、車体やルームミラー等に樹脂部品を活用するなどして、大半は自社製造で乗り切った。得意とする LED も車載照明すべてに採用した。同社は今回の試作により、さまざまな開発テーマを見つけることができた、としており今後も試作車の改良を続ける方針だ。

 また、デンソーは昨年末、59年前に製造販売した EV 「デンソー号」を復元させた。復元は技術開発が目的ではなく、昨年の創立 60 周年を記念した社内企画であり、2008年 9月から総勢 160 人の有志が勤務終了後の時間を使って取り組んだ。

 EV 等の環境対応車の普及は部品業界にも大きな影響を与える可能性があるため、これらの例に限らず、部品メーカー各社の関心も益々高まりつつある。

  
【環境対応車向け研究開発の必要性】

 HEV 化、EV 化はどこまで進展するのか、その結果、自社の製品群にどんな影響が及ぶのか、また、そうした変化にどのように対応していくべきなのか、ということについて、多くの部品メーカーが頭を悩ませている。

 勿論、自動車を構成する全ての部品が一様の影響を受けるわけではなく、部品分野によって影響度が異なるのは言うまでもない。

 モータやバッテリ等の新たなキーデバイスの重要性が増すにつれ、エンジン、トランスミッションといった既存のパワートレイン関係の部品についてはその将来性が不透明な状況になる。一方で、シャシー系、内装、外装部品などの部品分野はさほど直接的な影響を受けるわけではない。

 その意味で、特に頭を悩ませているのはエンジン、トランスミッション系の部品メーカーということになるが、これらの変化を不可避なものと捉えて乗り越えていくためには、積極的な新製品開発を行っていくことが欠かせない。また、新製品開発に際しては、シーズ、ニーズの両面から検討を行う必要があるだろう。

 まずはシーズオリエンテッドの観点から、自社の製品の基礎、基盤となっている既存の技術を活用することで、新たな部品分野に参入できないかというアプローチがある。

 材料技術や生産技術も含む既存技術の活用が見込める部品分野に進出するというのは部品メーカーにおける事業領域拡大の王道であるが、今ほど、差し迫っているタイミングはない。

 もう一つ、ニーズオリエンテッドの観点から、自社の製品が現在充足させてるニーズ、及び、果たしている機能を押さえつつ、外部の新技術を取り込むことができないかというアプローチがある。

 自社の既存製品が技術革新により新規製品に代替され、それにより新規プレイヤーが台頭するような状況でも、自動車への搭載要件等を把握していることは大きな強みであり、それを生かして新規プレイヤーと合弁会社を設立するといった展開も考えられるだろう。
 このような環境対応車向けの研究開発戦略は今後、より一層重要になってくる。かつては、自動車メーカーからの依頼に基づき研究開発を進めていればよかった部分もあったかもしれないが、今や自動車メーカーとしても先行きを見通しにくい時代であり、部品メーカーが自身で判断しながら進めていく必要がある。

 
【今後の要意思決定テーマ】

 現在の自動車業界は大きな変革期を迎えつつあり、前述した次世代環境車向けの研究開発戦略以外にも部品メーカーが頭を悩ませ、意思決定を行わなければならないテーマは複数存在し、大別すると 3 点挙げられる。

1.低価格車向け研究開発

 低価格車を実現するためには、製品構造の抜本的見直しもさることながら、各構成部品の更なる原価低減も避けては通れない。まず一義的には自動車メーカーから部品メーカーに低価格での部品供給が依頼されることになるだろう。

 部品メーカーとしては、高付加価値製品を主戦場とするという意思決定も考えられるなか、そもそもこのような低価格車向け部品にどこまで注力するのかを判断しなければならない。

2.海外生産の拡大

 自動車メーカーは北米をはじめとする先進国に依存する事業構造の是正に向かい、今後、自動車需要を牽引すると想定される新興国での生産を増加させていくことが予想される。

 部品メーカーとしても、新興国における供給体制が求められることになり、新興国の中でもどこに進出すべきかという点を検討する必要がある。と同時にコスト競争力の観点から現地調達についてもこれまで以上に現地部品メーカーの開拓を進める必要に迫られる。

3.国内生産体制再編

 円高傾向が継続し、将来的にも為替動向が不透明になっている状況において、自動車メーカーは国内生産体制を見直し始めている。国内生産を縮小させない場合でも、国内生産のコスト競争力を強化するために、韓国や中国からの輸入部品の比率を大幅に高めることも想定されている。

 部品メーカーとしては、自動車メーカー以上に国内生産体制の維持が難しくなることになり、国内生産を死守するのか、海外生産に順次シフトしていくのかの判断を迫られることになる。

 以上の 3 点については、自動車メーカーが抱える悩みが部品メーカーに対して伝播してきたものともいえるが、これらのテーマにつき、それぞれの部品メーカーが自らの判断を下していく必要がある。

 
【顧客の立場で考える】

 かつて自動車メーカー社員への意識調査を行った際に、自動車メーカーは、ものづくりのソリューションプロバイダーとして、自動車メーカーの立場になって課題解決を考えてくれる部品メーカーを求めているという結果が出た。

 この結果は、現在でも同様に当てはまり、将来が不透明性を増す昨今の状況においては、むしろ傾向がより顕著になってきているといえるのではないだろうか。

 今回、紹介した二つの事例は、まさに自らが自動車メーカーの立場に立って物事を考える好例であり、また、そうすることにより、部品メーカーとして今後、意思決定を行わなければならないテーマについてのヒントも得られるのではないだろうか。

<秋山 喬>