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不透明な将来に向けての準備の必要性
◆韓国・現代自動車、中国・四川南駿汽車集団と商用車生産合弁会社を設立へ
<2010年10月24日号掲載記事>
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【現代自、中国商用車市場へ本格進出】
現代自動車は、中国 11 位の商用車メーカーである四川南駿汽車集団と、合弁会社の設立に関する意向書を交わした。新会社は「四川現代汽車有限公司(仮称)」で、両社が折半出資する。投資額は計 5000 億ウォン(約 360 億円)を見込み、トラックやバス、エンジンの生産、販売、研究開発、アフターサービスまでを一貫して手掛ける。
現代自は昨年末、四川省や山東省に生産設備を持つ中堅の北奔重型汽車と合弁に乗り出すと発表したが、条件面で折り合えず交渉は白紙化していた。
現代自が中国の商用車市場への本格進出を決めた背景としては、傘下の北京現代汽車による乗用車販売が好調に推移していることが挙げられ、今後、商用車と乗用車の間での相乗効果を目指していくものと思われる。
事実、北京現代は昨年、中国の乗用車市場において約 57 万台の販売台数で上海 VW、一汽 VW、上海 GM に次ぐ 4 位につけている。また、現代自は傘下の起亜自動車と合わせて中国に乗用車の完成車工場を既に 3 箇所稼働させており、北京にも新工場を建設することが決まっている。
【現代自の中央集権型ものづくり】
北京現代をはじめとする現代自の海外生産は 2003年以降に本格化し、2009年には 190 万台と輸出台数を上回る規模まで拡大してきたが、これらの海外生産拠点は現代自独自の生産思想と生産方式に基づいていることが昨今よく指摘される。
2003年以降、迅速に海外生産を拡大できた背景にはこれらの生産思想と生産方式の存在があったと言われるが、最も特徴的とされるのは海外生産拠点における自動化率の高さである。実際、中国やインドでも新工場のスポット溶接の自動化率は、ほぼ 100 %とされる。
このような方針を採用するに至った背景として、現代自が長らく労使問題に悩まされてきたことが影響していることは想像に難くない。
また、自動化率の高さ以外には、現代モービス、現代ウィアといった親密なティア 1 部品メーカーとの約 2 倍の賃金格差を活用したモジュール化、外注化が特徴として挙げられる。
これは自動化に加えて、手間と人手がかかる作業は外部に出して、内部では大物を中心に作業を単純化しようという発想の表れである。
また、このような単純化の発想は、異常処理にも表れており、標準作業と異常作業が明確に分業化されている。異常作業は現場管理者や専門の生産技術者が担当するのに加え、リモートコントロールシステムにより本社の技術者も問題解決に参加する。
上記一連の生産方式は中央集権型ものづくりとも言うべきものであり、トップダウン、現場の自動化・単純化といった方針により品質の安定を図ろうとするものである。このあたりは現場の自発性、自律性を重視する日本型ものづくりとは異なるところである。
一方で、当該方式においては、当然、高い自動化率により固定費が重くなるため、そこは、長い稼働時間の確保や時間当たり生産台数の増大を通じて、量産効果を発揮していく必要に迫られる。
【効果的な意思決定手法は】
現代自型の生産方式の場合、販売が縮小する状況においては、重い固定費により収益が圧迫されることになるわけだが、同社はそれを避けるべく主に新興国において積極攻勢をかけている。実際、 190 万台の海外生産台数のうち、約7 割が中国、インドという新興国のボリュームマーケットにて生産されている。
その結果、地域別の販売ポートフォリオを見ても、2003年時点では 26.1 %を占めるに過ぎなかった韓国、北米、西欧以外の主に新興国での販売台数が、2007年には 45 %と大きく拡大しており、リーマンショックを経た今では更に大きなポーションを占めていることが予想される。
このような現代自の中央集権型ものづくりに代表されるように、昨今、トップダウンによるスピーディーな意思決定の重要性ということが注目を集めている。
これは何も自動車業界に限った話ではなく、積極的に自ら産業振興、産業再編を主導し、産業外交を展開する中国政府、韓国政府や、大規模投資の意思決定をオーナー経営者が迅速に下す電機、電子関連の台湾、韓国企業などの例がしばしば引用される。
確かに、半導体や一部の電化製品のように、コモディティ化しており、大規模投資により規模の経済を享受することが必勝パターンとなっている産業などではこのような意思決定手法が結果的に功を奏している。
逆に、日本の調整型、すり合わせ型の意思決定では国家単位でも企業単位でも意思決定に時間がかかり、また、思い切った判断も下せないため、国際競争力を低下させる要因となっているということもよく言われるところである。
実際のところ、世の中に絶対普遍的に正しく効果的な手法というのは当たり前だが存在しないため、どのような特性を持つ産業がどのようなステージにあるのかということ次第で効果的な意思決定手法というのも異なる。
例えば、すり合わせ型の製品アーキテクチャーの代表である自動車業界においては、意思決定においてもすり合わせ型が効果的であり、だからこそ日本の自動車産業はこれまで競争力を発揮してくることができたのであろう。
一人のリーダーの素質に頼ることなく、組織として、長期的かつ持続的にパフォーマンスを発揮し、現場レベルで自律的に判断して環境の変化に対応していけるというのは、勿論、日本の強みである。
しかしながら、今後、自動車業界も電子化が進み、製品アーキテクチャーがパソコンのようにモジュラー化してくると、業界構造も水平分業型となり、意思決定手法においても日本の強みが発揮できなくなるという懸念も指摘されている。
日本の自動車業界としては、今後、戦略的な観点から、自らの強みが生きるような方向に業界としての変化をリードしていくことが必要だし、もし産業としてのドラスティックな変化が不可避なのであれば、自分の強みが生きる分野が将来的にどこになりそうなのかを見極めていく必要に迫られる。
【不透明な将来に向けての準備】
上述のとおり、自動車業界の将来像は不透明な状況にあり、製品構造、業界構造ともに、今後どう変化していくのかについてはさまざまな議論、推測がなされているのが現状である。
実際のところは、まだまだグローバルで見ると内燃機関車がマジョリティの状況に変わりはないとされているが、今後、ハイブリッド車、電気自動車がどれだけ普及するかは未知数であるし、普及が進んだところで、既存の業界構造をどれだけ変化させることになるのか、といった点については誰も正確なところはわからない。
このような状況において重要なのは、将来をきめ撃ちして正確に見通そうとするのではなく、将来に関するさまざまなケース、シナリオを想定して、自らの戦略や行動の準備をしておくということだろう。
そして、日本の自動車業界を構成する個人のうちのどれだけの人が将来について主体的に考え、準備をしているかどうかで、将来の業界としての競争力も左右されることになるのではないだろうか。
<秋山 喬>