グレードダウン型商品開発には仕組みの更なる現地化を

◆トヨタ、軽自動車市場参入について記者会見を開催

                 <2010年09月28日号掲載記事>

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【トヨタブランドでの軽販売開始】

 トヨタは 9月 28日、子会社のダイハツから OEM 供給を受ける形で、軽自動車を国内販売することに合意したと発表した。2011年秋以降、3 車種をめどに随時導入を予定しており、販売台数は年間 6 万台 (3 車種導入時) を想定している。

 来年秋から来年末にかけて「ムーヴ コンテ」「ハイゼットカーゴ」を調達。車種は決まっていないが、2012年に乗用車1車種を調達するとのことである。

 国内新車販売はエコカー補助金制度の終了で大幅な落ち込みが予想され、トヨタにしても 9月の総受注台数が前年同期比で 4 割減という報道がなされるような状況の中で、国内市場の 3 割以上を占める軽自動車市場に参入することで販売を下支えしたい模様だ。

 昨今の不況において、トヨタの顧客でも軽自動車を要望する声が増えており、そういった顧客の声に迅速に対応するために、グループの経営資源を活用し、OEM供給することで合意に至ったということである。
【低価格品志向を強める日本市場】

 今回の報道の中でも触れられている、全体の新車販売に占める軽自動車の比率であるが、これは何も今年になってから急激に上昇しているわけではなく、既にリーマンショック以前の 2006年には 35.3 %に達していた。その後、2008年には 36.8 %にまで上昇したが、その後はエコカー減税、エコカー補助金等で冷遇された影響もあって、むしろ多少勢いが落ちていた。実際、2010年の上半期においては、軽自動車比率が 35.2 %へと低下している。

 このような状況を踏まえると、元々、市場構造として軽自動車比率が高くなっていたところに、エコカー補助金終了の反動が来ることが予想され、改めて軽自動車を望むディーラーの声が大きくなったために、トヨタとしてもそれに対応したという構図ではないだろうか。

 ちなみにホンダなどは 2008年 3月に軽自動車強化のため、子会社の八千代工業で四輪車新工場を建設するという方針を打ち出していたが、リーマンショック後の経営環境悪化の影響により、新工場建設の白紙化も含めた見直しを発表し、グローバルコンパクトカーにリソースを集中投下する方針に転換している。

 また、市場構造として軽自動車比率が上昇している背景としては、地方における日常の足として利用されていることが指摘されるが、消費者意識の観点からすると、車の位置づけから嗜好品の要素が薄れていることに加え、景気の低迷により消費者が低価格品を志向するようになってきていることが大きい。

 このような低価格品志向の消費行動は、勿論、自動車に限った話ではなく、現在の日本市場において、ヒットするのはユニクロやスーパーマーケットのプライベートブランドなど消費者の低価格ニーズに合致したものが主流となりつつある。
【求められるグレードダウン型商品開発】

 一方、日本市場が低価格化志向を強めているからといって、世界的に見ると、日系企業はまだまだ高機能、高付加価値のものづくり、サービスが得意分野であることに変わりはない。

 そういった日系企業に対し、新興国を中心とする海外企業は低価格化路線を積極的に推進しており、一部は消費行動の低価格化が進む日本市場にも進出してきている。

 例えば、近年であれば、携帯電話や家電、航空チケットなどの分野でそのような動きが顕著である。

 航空チケットでいうと、オーストラリア系のジェットスター航空や中国系の春秋航空などのローコストキャリア(LCC)とも呼ばれる格安航空会社は低価格を実現するため、サービス内容に思い切ったメリハリをつけている。例えば、これまでは当たり前だった機内サービスについてもその多くを有料化しており、春秋航空などは座席のない立ち乗りチケットをサービスアイデアとして打ち出している。

 そして、これまで、高機能化、高付加価値化が商品開発のメインストリームだった自動車業界においても、今後はこのようなグレードダウンの発想が必要となりつつある。特に新興国を攻略するうえでは非常に重要な要素となってくるのは言うまでもないが、日本のような先進国に対しても消費者の低価格ニーズに対応する必要がある。

 グレードダウン型商品開発においては、これまで当たり前とされてきた要素や機能の中で、どれを消費者ニーズの観点から削除、もしくは簡素化するかを検討する必要があるが、そういった状況においては、これまで、日本の強みであるとされてきたきめこまやかさなどは、逆に、思い切った割り切りの障害にもなりかねない。

 グレードダウン型商品開発にどのように対応していくかは今後の日系企業共通のテーマであるといえるだろう。
【更なる現地化の必要性】

 これまで日本と同程度、もしくは先行して発展してきた欧米市場を主たる対象としている間であれば、商品開発としても高機能化、高付加価値化の方向でよいのかもしれないが、今後、新興国を対象にしようとすると、それだけでは現地ニーズにフィットしない部分が出てくるのは仕方のないことであろう。

 やはり経済発展の段階や各国の文化的背景によって消費者の志向や価値観は異なってくるであろうし、日本にいる開発者が現地の消費者の気持ちになって考えるのも限界がある。

 そう考えると、新興国を向いた製品開発を行うためには、一過性のマーケティングリサーチに頼るのではなく、継続的に現地のニーズを把握し、それに応じた商品開発を行えるような企業としての仕組みがなければいけない。

 その意味で、組織論の観点からは、更なる現地への権限委譲が必要であるし、現地の消費者と同じ感覚で考えられる現地マネジメントの登用を積極的に行っていくことが必要ではないだろうか。

<秋山 喬>