陣営内で重要になる共通化と差異化の両立

◆仏ルノー&日産、独ダイムラーが資本・業務提携。幅広い分野で戦略的協力

                    <2010年04月07日号掲載記事>

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【ルノー、日産、ダイムラー連合の誕生】

 日産とルノー、ダイムラーは 4月 7日に、資本・業務提携で合意したと発表した。日産、ルノーがダイムラー株をそれぞれ 1.55 %ずつ保有し、逆にダイムラーは日産とルノーの株式をそれぞれ 3.1 %ずつ保有する。加えて 5年を上限に資本関係を固定することでも合意がなされたという。

 また、3 社は既に複数の共同プロジェクトに関して合意しており、今後速やかに実行に移すとしている。

 具体的には、小型車分野ではダイムラーのスマート後継モデルとルノーの次世代トゥインゴに共通の車体構造を採用、共同開発する。共同開発モデルには電動モデルも用意される。

 また、パワートレーン分野では、3 社でエンジンの共同開発と共用化を進める。ルノー、日産がダイムラーに対し 3 気筒と 4 気筒のガソリン、ディーゼルエンジンを供給する一方で、ダイムラーは日産インフィニティ向けに 4 気筒と 6 気筒を含むガソリン、ディーゼルエンジンを供給する。

 3 社は小・中型商用車分野でも協力し、ダイムラーが 2012年以降ラインアップに追加する小型商用バンにおいてルノーの技術を採用するほか、生産もルノーのモーブージュ工場で行うことを計画している。また、ダイムラーの中型商用バン、ヴィト向けに日産、ルノーが小型ディーゼルエンジン、トランスミッションを供給する。

 加えて、将来的にはインフィニティ、メルセデスベンツ間での部品、モジュールの共通化、米中日市場における日産、インフィニティ、ダイムラーの協業、そして、電気自動車とバッテリー技術の共同開発の可能性を模索するという。
【現在の合従連衡の傾向】

 昨年 12月に公表された VW、スズキの包括提携を皮切りに、自動車業界ではさまざまな提携話が持ち上がっている。その背景として、現在の自動車業界においては、近年の急激な業界環境の変化により、新興国、環境シフトが進み、自社リソースだけでは多様化する販売地域、環境技術をカバーできないという状況が発生しているということが挙げられる。

 そのような状況下では、相互補完関係を構築する必要性に各社が迫られているといえ、今後も新興国、環境という軸を中心に、業務提携、資本提携問わず、提携関係の構築が増加していくものと思われる。

 また、今回の業界再編の特徴としては、性急かつ劇的な資本提携というよりは、業務提携の延長線上にある資本提携、マイノリティ出資からスタートする形の資本提携、株式の持ち合いといったケースが多い。

 これは業界全体としてかつての 400 万台クラブ時代の反省を踏まえ、単純な規模の足し算の議論ではなく、あくまで提携による実質的な効果創出が最重要視されているためと推測される。

 そのため、規模追求のみならず、地域、製品、技術といった複数の観点からのシナジーを踏まえた、より戦略的な意図に基づく提携関係が今後も増加していくものと推測される。

 逆にドラスティックな買収劇を演じているのは、フォードからボルボを約 1600億円で買収する予定の吉利汽車等、新興国の自動車メーカーであり、こちらは今後どのように買収効果を創出していくのかに注目が集まっている。
【陣営化の進展】

 翻って今回のニュースを見てみると、まさに緩やかな提携を代表する事例といえるが、主に新興国という軸で結びついた VW、スズキとは異なり、こちらはどちらかというと環境を軸にした提携である。

 言うまでもなくメルセデスベンツブランドを核とし中大型の車種が製品ラインアップの中心であるダイムラーとしては、今後の環境規制に対応していくためにも、小型車、環境車分野を強化する必要に迫られており、中小型車に強みがあり電気自動車でも先行するルノー、日産連合から得るものは大きい。

 また、ルノー、日産連合としても環境技術に本命がなく、適材適所で異なる技術を投入する必要に迫られている現在の状況においては、環境投資をグループ内で分担することにより投資負担の軽減が期待できる。加えて、中大型車関連技術についてはダイムラーからの供給が可能になる。

 一方で、地域軸の観点からは、日産こそ中国を中心に新興国の開拓を進めているものの、ダイムラー、ルノーはともに販売台数の過半数を停滞中の西欧市場に依存している状態であり、今回の提携後も新興国開拓は引き続きグループの課題として残ることになる。

 また、出資比率が緩やかな提携を象徴しているが、これはダイムラーが過去にクライスラー、三菱自動車、現代自動車と相次いで提携関係を解消したことも踏まえて、両者ともに実効性を重視しながら徐々に関係を深めていこうとする姿勢の表れであろう。

 また、電気自動車に注力しているルノー、日産連合にとって今回の提携は将来に向けた陣営づくりという意図もあるものと思われる。電気自動車はハイブリッド車までの旧来の自動車とは異なり、充電インフラという新たなインフラを必要とし、電気自動車の普及は充電インフラの普及とセットで考えなければならない。

 電気自動車と充電インフラの普及は鶏と卵の関係であり、電気自動車を広く普及させるためには、それに見合うだけのインフラ整備が必要であり、インフラ整備を促進させるためには、少しでも多くの自動車メーカーから電気自動車が投入されることが望ましい。そういう意味で陣営づくりという概念がより重要性を増してくるわけである。

 自動車業界に限らず、製品構造の変化は往々にして業界構造の変化も伴うが、自動車の製品構造が変化するにつれて、今後、業界構造もそれに伴った変化が徐々に生じてくるものと思われる。
【共通化と差異化の両立の必要性】

 今回の提携には将来の陣営づくりの意味合いもあることについては言及したが、自動車業界においては、今後も今回のような提携の話が出てきて緩やかに陣営が形成されていくものと思われる。

 それは何も電気自動車だからということに限らず、新興国、小型車が市場の中心となる状況下において、グループ内で部品、プラットフォーム、製品の共通化を推進し、コストメリットを享受しようという動きが出てくることも大きい。

 そして、その際に重要になるのが実効性であり、実効性といった場合、一義的には共通化によるコストメリットの創出を意味するが、それと同時に、筆者は差異化の能力も重要になってくると考えている。

 なぜなら、単に共通化を進めただけでは、消費者にとっての製品としての魅力が減少してしまうからであり、言い換えれば、共通化しつつも、消費者の目には全く別の製品として魅力的なものに映らなければならない。

 つまり、共通化と差異化という相反する要素をいかに高い次元で両立させていけるかが今後、陣営づくりが進展する自動車業界における課題であるといえよう。

 しかしながら、基幹技術や製品構造は共通化が進むため、そこでの差異化が難しくなる。そのため、ブランドや製品コンセプト、パッケージングといった観点での差異化がどうしても必要になってくるわけであり、今後は今以上にマーケティングといった市場を向いた機能の重要性が増すものと思われる。

<秋山 喬>