求められる新たな時代の収益構造確立

◆トヨタ、2010年3月期連結予想を上方修正。純損益を800億円の黒字に修正

                    <2010年02月04日号掲載記事>

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【相次ぐ通期見通しの上方修正】

 2月前半に自動車メーカー各社の第三四半期決算が出揃い、第三四半期決算そのものの数字もさることながら、通期の見通しについて注目が集まった。

 総じて言うと、殆どの自動車メーカーにおいて中間決算時の通期見通しから上方修正がなされており、前通期(2009年 3月期)で赤字となった自動車メーカーの多くが、今期は黒字転換を果たす見込みとしている。

 特に前通期の決算にて営業利益段階で約 4600 億円、当期利益で約 4400 億円の赤字に陥ったトヨタが、上方修正の結果、今期は営業利益段階でこそ 200億円の赤字であるものの、当期利益では 800 億円の黒字を見込むまでに劇的な回復を果たしつつあるということが注目されている。(注)

 トヨタ、日産、ホンダの主要 3 社の上方修正状況を見てみると、トヨタは中間決算時に通期の営業利益を -3500 億円と見込んでいたが、今回の第三四半期決算時には、-200 億円と 3300 億円の上方修正となった。同様に日産は、中間決算時 1200 億円を 2900 億円と 1700 億円の上方修正、ホンダは中間決算時 1700 億円を 3000 億円と 1300 億円の上方修正をそれぞれ実施している。

(注)上記数値にはフロアマット、アクセルペダル関連のリコール費用約 1800億円が既に織り込まれているものの、現在、取りざたされているブレーキ関連のリコール費用については織り込まれていない。
【上方修正の主要因の違い】

 3 社とも金額的には大幅な上方修正といえるが、もう少し細かく見てみると、その要因が各社で多少異なる。

 横並びで比較するため、各社が公表している上方修正の要因を為替、台数・構成、コスト削減、その他の 4 つに単純化して整理してみると以下のようになる。

       トヨタ     日産    ホンダ
為替      -100     150      290
台数・構成    2700     1050      280
コスト削減    700     300      730
その他       0     200       0
合計       3300     1700     1300

(単位:億円)

 これを見てもらうとわかるが、トヨタ、日産は台数・構成の回復状況が想定を上回っていることを受けての上方修正、ホンダはコスト削減の成果が想定を上回っていることを受けての上方修正ということができる。

 また、トヨタ、日産は主要因が台数・構成という意味では共通しているが、下に示すとおり地域別の販売台数の上方修正状況を見てみると両社の間には違いが存在する。

 販売地域についても横並び比較のために、日本、北米、欧州、その他という区分に単純化して整理してみる。

 ちなみに販売台数に関しては、通期の見通しをトヨタが 703 万台から 718万台へと 15 万台の上方修正、日産が 330 万台から 348 万台へと 18 万台の上方修正、ホンダは 340 万台の据え置きとしている。

       トヨタ     日産    ホンダ
日本       3.0     1.3     -1.5
北米     8.0     4.5     -1.5
欧州     -2.0    4.7     -1.0
その他      6.0    7.5     4.0
合計      15.0    18.0      0.0

(単位:万台)

 これを見てもらうと、トヨタは特に北米が想定以上に回復しているものと推測されるのに対し、日産はその他地域の伸長が想定以上ということになるだろう。また、ホンダもトータルでは台数見通しに変化がないが、日産同様、その他地域での台数伸長が想定以上という状況が見て取れる。

 この傾向を踏まえると、トヨタに関しては、現在取りざたされているリコール自体の影響もさることながら、それが北米での販売台数減少を引き起こした場合には収益回復の足を引っ張ることも懸念される。
【新興市場での収益性確保の必要性】

 金融危機後の自動車市場は主に中国をはじめとする新興市場が主導する形で回復してきており、日系自動車メーカーもその流れにのって収益を回復させてきているといえるが、業界の方と話すと、今後、台数的な伸長が見込めるのは確かに新興市場だが、その一方でなかなか収益性の確保が難しいという声をよく耳にする。

 実際、今回の決算発表における上方修正の数字を見ても、単純に比較するべきものではないかもしれないが、特に北米での台数を上方修正したトヨタは 150万台で 2700 億円の営業利益押し上げ効果を見込むのに対して、日産は 180 万台の上方修正で 1050 億円の営業利益押し上げ効果に留まっている。

 また、本メールマガジンの下方にも結果を記載しているが、前回のワンクリックアンケートで市場別のリソース配分について質問したところ、収益面を考えると、まず先進国での競争力維持を考え、そのうえで新興国にリソース投入をすべき、と回答した人が 3 割以上にのぼっている。

 しかし、これまで日系自動車メーカーが先進国で稼いできたのは事実であるし、今回の決算発表を見ると、まだまだ収益面でのインパクトは大きいのが実態であろうが、今後、中長期的な視点で見ると、新興国、及び低価格帯の車でいかに一定の収益を確保していくかが業界の主要テーマになっていくことは避けられない流れであろう。

 そして、そのためには相互に関連しあう複数の方法論が想定される。

 まずは設計そのものを抜本的に見直し、構造を簡素化した新興国向け旗艦モデルの開発である。先のデリーモーターショーでトヨタがエティオスを発表したのをはじめとして、日産、ホンダも新興国を対象とした低価格車を開発中であり、日産は 2010年からタイ、ホンダは 2011年からインドで生産を開始する予定としている。 

 次にモデル間での設計共通化が挙げられる。これは VW とスズキの提携の際に大きく報じられたが、各モデル間でプラットフォームの共通化を進めることで量産効果を図るというものである。実際、VW のゴルフプラットフォームはアウディやシュコダとも共用され 400 万台以上の年間生産台数を誇る。

 そして、更には現地調達の一層の推進である。これまでは現地調達といっても現地に進出した日系サプライヤからの調達が多かったが、ローカルサプライヤからの調達を増大させたり、これまでは輸入で対応していた部品を現地調達に切り替える、といったことも求められるだろう。事実、ホンダは前述した低価格車においてインド製鋼板を採用する予定としている。
【最適解の模索】

 各自動車メーカーとも実際のところは方法論については十分理解しているものの、品質や個別ニーズの充足度との兼ね合いから、どこまで踏み込んでやればいいのか、どこが最適解なのかを試行錯誤、模索しているというのが現状だろう。

 新興国のメーカーと異なり、これまで世界で実績、信頼を積み上げてきた日系自動車メーカーとしては逆に思い切ったことをやりづらい部分もあり、その意味で今の局面は高度な経営判断が求められる場面である。

 しかしながら、新興国と並ぶ、もう一つの業界主要テーマである環境対策にも今後、資金を投入していく必要もあるということを考えると、その投資費用を捻出する意味でも、新時代の収益構造の確立は各社が取り組まなければならない課題といえるだろう。

<秋山 喬>