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現在の自動車メーカー業績の形成要因
◆トヨタ、2010年3月期連結決算予想を上方修正、純損失4500億円→2000億円に
<2009年11月05日号掲載記事>
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【2009年度中間決算の意味合い】
自動車メーカー各社の2009年度中間決算が出揃った。
トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱の乗用車系メーカー主要 5 社を見るといずれも中間業績は期初の予想を上回っており、通期に関しても上方修正が相次いでいる。
この要因としては日本国内のエコカー減税やスクラップインセティンブに代表されるような、各国政府主導の市場刺激策により市場全体の需要が持ち直したことに加え、各社の原価低減、固定費削減の成果が大きい。だが、今後、各国の市場刺激策は年末、もしくは年度末にかけて、順次、終了していく見込みのため、今後の市場動向としてはまだまだ不透明感が残る。
しかしながら、今回の決算発表は昨年来の自動車メーカー各社の一連の取り組みの成果が、途中経過といえども、ようやく数字に反映されてきたものであり、その意味で注目に値する。
そこで、今回は上記 5 社の中間決算における基礎的な数値を横並び、かつ前年度と比較することで、現在の業績の差がどういった要素に起因し、今後の業績回復のポイントがどのあたりにあるのかを改めて確認してみたいと思う。
【決算基礎数値の各社比較】
まずは 2009年度中間決算における乗用車系メーカー主要 5 社の販売台数を見てみると、
トヨタ:313.0 (-26.4%)
日産 :162.3 (-14.7%)
ホンダ:160.4 (-15.4%)
マツダ: 43.1 (-38.5%)
三菱 : 44.5 (-26.1%) 単位:万台 ( )内は前年同期比
となっており、各社とも一様に前年同期に比べ販売台数を減少させているが、日産、ホンダは他社に比べると、販売台数の落ち込みが比較的、軽微なものとなっている。
次に販売台数の市場別内訳を見てみる。
日本 北米 欧州 その他
トヨタ 90.3 90.4 43.5 88.8
(-11.1 %) (-33.4%) (-24.9%) (-31.6%)
構成比 『28.8 %』 『28.9 %』 『13.9 %』 『28.4%』
(20.7 %) (-9.5%) (2.0 %) (-7.1%)
日産 28.5 51.9 24.9 57.0
(-10.4 %) (-22.1%) (-18.6%) (-6.9%)
構成比 『17.6 %』 『32.0 %』 『15.3 %』 『35.1%』
(5.0 %) (-8.7%) (-4.6%) (9.1%)
ホンダ 28.6 62.3 14.2 55.3
(2.1 %) (-27.6%) (-12.3%) (-6.9%)
構成比 『17.8 %』 『38.8 %』 『8.9 %』 『34.5%』
(20.8 %) (-14.4%) (3.7%) (10.1%)
マツダ 10.4 12.6 10.9 9.1
(-15.4 %) (-37.0%) (-39.1%) (-54.3%)
構成比 『24.1 %』 『29.2 %』 『25.3 %』 『21.1%』
(37.5 %) (2.5%) (-1.0%) (-25.6%)
三菱 7.7 4.6 9.3 22.9
(-7.2 %) (-35.2%) (-44.6%) (-18.2%)
構成比 『17.3 %』 『10.3 %』 『20.9 %』 『51.5%』
(25.5 %) (-12.4%) (-25.1%) (10.6%)
単位:万台 ( )内は前年同期比 『 』内は市場構成比
まず全体に共通していえるのは、海外での市場縮小幅に比べて、日本市場の縮小幅が相対的に小さいため、日本市場の構成比が増加しているということである。これは日本市場の低迷が金融危機によって引き起こされたというより、数年前から少子高齢化等の要因によって構造的に発生していた、ということに起因する。
また、販売台数全体の落ち込みが比較的軽微だった日産、ホンダは日米欧の成熟市場での減少幅が他社に比べて少ないことに加え、中国をはじめとする新興国が含まれる、その他市場での落ち込みが少ないことが台数の下支え要因になっているようである。
では続いて、台当り単価と売上高を見てみる。
台当り単価 売上高
トヨタ:268 (-6.7 %) 83,776 (-31.3%)
日産 :208 (-18.6 %) 33,834 (-30.5%)
ホンダ:253 (-15.7%) 40,588 (-28.7%)
マツダ:230 (2.2%) 9,903 (-37.1%)
三菱 :129 (-36.1%) 5,730 (-52.8%)
単位:台当り単価は千円、売上高は億円 ( )内は前年同期比
台当り単価については日産、ホンダの下落幅が大きいが、これは上述したとおり、低価格帯の商品が中心となるその他地域の構成比が増加したためと思われる。
逆にトヨタ、マツダは日米欧の成熟市場、新興国市場ともに台数を減少させているため、市場別構成比にそこまで大きな変化がなく、結果的に台当り単価にも大きな影響が出なかったものと推測される。
また三菱は日産、ホンダ以上に台当り単価が下落しているが、これは市場別構成比というポイントに加えて、下で述べる輸出比率が影響を及ぼしているものと思われる。
生産台数 輸出台数 輸出比率
トヨタ:170.8 (-30.3 %) 80.5 (-43.9 %) 47.1 %
日産 :45.8 (-29.5 %) 17.3 (-47.9 %) 37.8 %
ホンダ:39.4 (-35.0 %) 10.8 (-66.9%) 27.4%
マツダ:37.4 (-33.2 %) 27.0 (-38.2%) 72.2%
三菱 :19.9 (-51.6 %) 12.2 (-62.8%) 61.3%
単位:万台 ( )内は前年同期比
これは国内の生産台数と輸出台数、及び輸出台数/生産台数で算出される輸出比率を各メーカー別に比較したものだが、日産、ホンダは生産台数以上に大幅に輸出台数を減少させており、結果的に輸出比率が大きく低下し、為替の影響を受けにくい構造へと変化させてきている。
一方で、三菱は元々高かった輸出比率にさほど大きな変化がなかったため、市場別構成比と為替とでダブルの影響を受け、台当り単価が大きく下落したものと思われる。
コスト(売上原価+販管費) 営業利益
トヨタ:85,145 (-26.7%) -1,369 (-123.5 %)
日産 :32,885 (-29.7%) 949 (-50.5 %)
ホンダ:39,681 (-25.5%) 907 (-75.5 %)
マツダ:10,123 (-33.2%) -220 (-136.2 %)
三菱 : 6,055 (-49.1%) -325 (-228.0 %)
単位:億円 ( )内は前年同期比
結果的に、新興国に支えられて販売台数全体の減少を小幅に抑え、かつ、輸出比率の低下によって為替の影響を抑えた日産、ホンダが 2009年度中間決算においては営業黒字を維持するという構図になっている。
他の 3 社は日産、ホンダと同等、それ以上の比率でコスト削減を進めたが、売上高の減少に追いつかず営業赤字となった。
【販売台数・構成と為替】
改めて、販売台数・構成と為替が現在の業績を形作っている要因であることが確認されたわけであるが、これらの要素は各社の方向性、及び、今後の業績を見るうえでも引き続き重要な要素となるであろう。
まず販売台数・構成についてであるが、これは今年、世界一の市場になることが見込まれている中国市場でシェア 11 %を誇る VW が 1月~ 9月の生産台数でトヨタを抜きトップに立ったという報道もあるように、中国をはじめとする新興国での拡販を抜きには販売台数増は語れない。
今年の中間決算における販売台数の地域別内訳を見ると、その他地域の割合はトヨタ 28.4 %、日産 35.1%、ホンダ 34.5 %、マツダ 21.1 %、三菱 51.5 %と昨年に比べると、多少は比重が高まってきているものの、まだまだ新興国シフトの途上である。
これまで日系自動車メーカーの多くは北米市場に依存する事業構造となっており、利益面では販売台数比率以上に北米市場に依存してきた。これは裏返せば、日系自動車メーカーの強みであったわけだが、今後は北米をはじめとする成熟市場で台数を維持しつつも、新興国での台数増加を図っていく必要があるだろう。
成熟市場という意味では、国内市場の存在も無視できない。今回の中間決算で市場別構成比が上昇したように、海外市場が不安定になった場合に母国市場としての岩盤性は維持しておく必要がある。また後述するように、国内生産を維持しつつも為替に左右されないような事業体質にするためには、国内市場での一定の販売台数確保が必要になる。
そして、次には為替に左右されにくい生産体制の構築である。
今回の中間期においては日産、ホンダがドラスティックに輸出比率を低下させたが、今後も、現在の円高傾向が続く可能性も視野に入れると、業界全体として現在の輸出過多な構造は是正せざるを得ず、海外市場が安定化してきた段階では現地生産を模索していく必要が出てくるだろう。
また、現地化するには販売台数が少ないという事情もあるだろうが、現在の構造を維持するかぎり、為替変動に左右され続けることになるため、他メーカーとのアライアンス等は現実的な手段として検討する必要があるだろう。
【全ての機能の刷新】
上記の話だけでも、販売と生産の双方の機能を大きく変化させるという意味でチャレンジングな課題であるわけだが、それに加えて台当り単価が象徴するクルマとしての価値向上も自動車メーカーとして取り組まなければならない大きな課題である。
今回の中間期決算において、既に台当り単価の下落が数値として表れ始めてきたが、今後、新興国市場の比重が高まるにつれてこの傾向が更に加速してくる可能性もある。
現在のクルマの価値向上の方向性としては、まず環境性能に優れた車の早期導入が挙げられ、自動車メーカー各社はこぞってハイブリッド車や電気自動車等の環境対応車の開発、及び、市場投入を行っている。
そういう意味で、現在の自動車メーカーは販売、生産、R&D という全ての機能において、これまでの構造を刷新しなければならない必要に迫られており、それが今回の中間決算の数値にも表れているといえるだろう。
来年の中間期決算の段階では、自動車メーカー各社の取り組みの成果が今年以上に数値に反映されていることを期待したい。
<秋山 喬>