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ブランドを語る前に製品単位での正確なコミュニケーションを
◆韓国・現代自動車の大型SUV「ベラクルス」。トヨタ製なら米国で大ヒット?!
<2007年05月28日号掲載記事>
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【現代自動車のブランドへの挑戦】
2004年の米国自動車初期品質調査(IQS)で現代自動車がトヨタを上回り 7 位となったことは、業界において大きな話題になったが、2006年の IQS 調査で再びトヨタを上回り、ポルシェ、レクサスに次ぐ 3 位となったことは現代の品質への取り組みが一過性のものでなく、着実に品質を向上させてきていることの表れといえるだろう。
しかし、一方で、米国における販売状況は後退してきている。これまで通貨危機以降のウォン安を生かし、エントリーカーとしてコストパフォーマンスの高さを売りにしてきた同社であったが、近年のウォン高によって低価格を維持できなくなっていることがその主な理由である。昨年には同格の車種において、価格が日本車を上回るケースも見られた。
価格の安さが消えた状態では、消費者が現代を積極的に選択していないといえるが、このような状況は近年の同社の品質向上が未だ消費者のブランド認知にまでは結びついていないことを示している。
現代の品質向上が話題になったのはここ数年の話であり、未だに品質といえば日本車という消費者の認知は変わっていないということだろう。実際、J.D.パワーには新車購入後 90日間における初期品質を表す IQS のほかに、新車購入後 3年が経過した時点の耐久品質を表す VDS という指標があるが、現代は 2006年の VDS において業界平均を下回る 23 位に留まっている。
このような状況において、2007年のニューヨークモーターショーにてプレミアムスポーツセダン「ジェネシス」が発表されたわけだが、プレゼンテーションを担当した米国法人 COO のスティーブ・ウィルハイト氏も、今回の記事の中で、米国市場で高級車に挑戦するにはブランド力が不足していると告白している。
また、広告代理店から彼に持ち込まれたクロスオーバー車「ベラクルス」に関する調査結果によると、購入を検討していた 200 人の消費者にロゴマークを外したクルマを見せると、71 %が買うと答えたが、これに現代のロゴがつくと、買うという人は 52 %に下がる。そして、トヨタのロゴがつくと購買意欲は 20%以上上がった、という。
【ブランドをつくるということ】
現在、自動車業界に限らず、ブランドという概念が経営を考えるうえで、重要になってきていることは周知の事実だろう。
ブランドというのは「競合他社やその製品・サービスとの違いを明確にするために用いられる名前、言葉、デザイン、シンボル、またはそれらを組み合わせたもの」であり、消費者に対する「信頼の証」とも言うことができる。
消費者にとってブランドは購買リスク回避の意味合いを持つ。購買を行うにあたって、消費者はさまざまな情報を収集するが、すべてを完全に理解するのは難しいため、ブランドを頼り、ブランドはある種の品質保証の役割を果たすことになる。
このようにブランドが重要になってきている背景には、市場におけるあらゆる商品やサービスの供給が需要を上回っているという市場の成熟化の問題がある。消費者としては様々な商品やサービスの中から、どれかを選択する必要があり、そのよりどころの一つがブランドということになる。
また、同様の理由から、製品やサービスの評価、品質保証を行う第三者機関に対するニーズも今後、どんどん大きくなってくることが予想されるが、ブランドというのは品質保証を第三者でなく当事者がやろうというのだから、よく言われるブランドが一朝一夕では形成されないということも改めてうなづけるだろう。
長い期間をかけて、提供する製品やサービスといったものの積み重ねがブランドを形成するわけであるが、日本の自動車業界における品質へのこだわりのように一貫した価値観に基づいた積み重ねであればブランドは自然に形成されていく。
しかし、実際の企業活動は様々な内部、外部の環境にその都度、対応していかなければならないため、自然に一貫性が保たれるというケースはそれほど多くはないであろう。そうした際に日常の積み重ねがブランドを形作るように意識的に行うのがいわゆるブランドマネジメントということになる。
【まず製品単位での正確なコミュニケーションを】
ブランドが消費者へのコミュニケーション行為によって形成されていくものだとすると、そのコミュニケーション行為は 2 つの軸から構成される。
縦串を前述したような製品横断的な視点でのコミュニケーョンとするなら、横串は個別製品単位でのコミュニケーションということになる。
ブランドを形成するには縦串の製品横断的なコミュニケーションに一貫性を持たせる必要があるが、まずは、個別製品単位でその商品の持つ魅力が正確に消費者に対しコミュニケーションされていなければ、その積み重ねである製品横断的な視点も意味をなさなくなってしまう。
今回の記事でも紹介されているように消費者は既に確立しているブランドに対しては、盲目的になる傾向がある。そういった確立されたブランドに立ち向かう挑戦者はせめて個別製品単位で消費者に正確にコミュニケーションすることを心がける必要がある。
また、自動車という製品は開発、生産に多大な資本と工数が費やされるわけであるが、市場への出口である消費者へのコミュニケーションが上手くいかなければそれらの苦労が台無しになってしまうことは言うまでもない。
自動車業界においては長らく、製造品質の重要性が謳われてきた。品質を「インプットされた情報を加工・処理して別の媒体に転写するにあたって、どれだけ忠実かつムラなく再現できたか」という能力と定義すると、製造品質とは設計図情報を生産ラインを通じてどれだけ忠実、ムラなく製品に反映されたかということができる。しかしながら今後はより上位の品質概念が重要になってくるものと思われる。
現在、リコールの原因の約 7 割は製造品質の上位の開発品質に起因すると言われており、その意味で開発品質が注目されているが、更に上位の企画品質(消費者ニーズを商品企画書に反映する能力)、そして販売・マーケティング品質(商品企画書の内容を宣伝・広報・ディーラーチャネルといった販売活動に反映する能力)も一層、重要になるであろう。
前述した個別製品単位での正確なコミュニケーションは販売・マーケティング品質の高さとも言い換えることができ、特に成熟市場においてはブランドを形成していくうえでも重要になるものである。
【コミュニケーションの場として存在感を増すホームページ】
販売・マーケィング品質という点で、注目される事例としては約 1年前にフルモデルチェンジされたトヨタ bB の事例が挙げられる。
bB は自動車への関心が低下している 20 代男性を想定顧客層に設定し、彼らが走りよりも居住性を重視するという分析結果に基づき、それに則したデザインや装備、性能を持たせたのが製品としての特徴である。
例えば「妖しさ」「いかつさ」をコンセプトとしたワイルドな雰囲気の外観。9 つものスピーカーと音楽に合わせて点滅する 11個のイルミネーションを装備した車内。ボディー剛性の向上やワイドタイヤの採用などで乗り心地の快適さも高めた。
そして、販売・マーケティング活動もそういった製品の特徴を正確に、効果的に伝えるよう設計された。想定顧客層がインターネットに接する時間が長く、広告よりも友人からの口コミを信頼する傾向が強いということを踏まえ、通常、宣伝予算の 8~ 9 割を費やすテレビコマーシャルによるマスマーケティングを半分程度に抑え、主にインターネットを介して口コミが広がる仕掛けを打ち出した。また、自動車への関心が低下しているという事実を考慮し、当初は自動車ということを意識させないように「ミュージックプレーヤー」というキャッチコピーだけで売り出した。
このように販売・マーケティング品質の向上は製品の持つ特徴をいかに正確に、効果的に消費者にコミュニケーションするかにかかっているわけだが、この bB の事例に限らず、消費者へのコミュニケーションの場としての、ホームページの重要性というのは増大してきている。
また、テレビコマーシャルで注意、関心を喚起し、インターネット検索時のキーワードを提示し、その上でホームページ上で製品の持つ魅力をじっくりと伝えるというのは一般的なマーケティング手法になってきている。逆にテレビコマーシャルはハードディスクレコーダーの普及により CM 飛ばしの犠牲となるケースが増えてきている。
さて、今週から新規連載として自動車好きのウェブコンサルタント、遠藤氏による車種別のホームページ診断が始まる。
このメールマガジンの読者には製品開発に携わる方も多いが、自分たちの開発した商品が消費者に対して正しくコミュニケーションされ魅力が伝わっているかどうか、そういったことを考える際の参考にしていただきたい。
<秋山 喬>