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自動車の新たなアプリケーション開発の必要性
◆NTTドコモなど、携帯電話のGPS機能を活用したロードサービスを提供へ
<2006年12月12日号掲載記事>
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【GPS機能付き携帯電話が可能にした擬似テレマティクス】
三井住友海上火災保険と NTT ドコモは、自動車保険に付帯されるロードサービス「おクルマ QQ 隊」「MOST ファーストクラス QQ 隊」で、携帯電話の GPS機能を活用した位置情報確認サービスを開発し、20日より提供を開始する。
携帯電話の GPS 機能を活用し、音声通話の着信と同時に位置情報を確認することにより、見知らぬ場所でトラブルが生じたケースも所在地の説明に手間取ることなく、携帯電話の複雑な操作不要で所在地の確認が可能となる。
現在、自動車保険は、多くの損害保険会社による利用者の奪い合いが起こっており、損害保険会社は自動車保険にさまざまな付加価値をつけている。今回のロードサービスもその一環ということができる。
但し、通常のロードサービスと異なるのは、携帯電話の GPS 機能を活用することにより、テレマティクスにおける緊急通報サービスと同様のサービスに仕立てているところである。
安全、快適面での価値提供が中心になりつつあるテレマティクスにおいて代表的なサービスの一つである緊急通報サービスが、肝心の自動車を抜きにして擬似的に成立することになる。
しかし、携帯電話の GPS 機能の用途はそれに留まるものではなく、当該機能を使えば、当然、経路誘導サービスも可能になる。現在の携帯電話の GPS 機能は歩行者向けのナビが中心であるが自動車内でも使用できるとしている。地図データを随時取得するので通信コストがかかるといった問題はあるが、単純な機能の面からするとカーナビの代替物になりうるわけである。
【日常生活におけるインフラとして活躍の場を広げる携帯電話】
2006年末の総務省の統計によると、携帯電話の加入数は約 9000 万台を超え、普及率は約 70% に到達している。市場としては既に成熟しつつあるといえるが、逆に携帯電話を日常生活におけるインフラと捉え、そのインフラを活用した様々なアプリケーション(新たな使い方、新たな提供価値)が登場してきている。
そして、それは従来の携帯電話の中心的な機能であった無線通話に留まらない異分野におけるアプリケーションであり、周辺分野・製品の代替となることが少なくない。実際に、手帳、時計、カメラといった機能の取り込みは早い段階で行われた。
映像配信となるワンセグや音楽配信も新たなアプリケーションといえるが、これは従来の携帯型テレビ、携帯型音楽プレイヤーの代替という形で市場を拡大している。
先述した GPS 機能を活用した経路誘導、緊急通報、位置確認サービスも新たなアプリケーションであるが、これはカーナビを含むテレマティクスや子供が持つ防犯ブザーといったものの代替になる可能性を秘めている。
また、携帯電話に少額支払いのクレジット決済機能を持たせたおさいふケータイでは、クレジットカード会社の市場に参入することになるが、この段階に至っては、従来の通信料を超えて決済手数料という新たな課金方法を実現させている。
この他にも財布内の会員カードの集約、家の鍵の代わりという機能を携帯電話に持たせるというアイデアは既に実用化されており、将来の日常生活を考えると、携帯電話が活躍する場面は確実に増加していくことになるだろう。
そして、ここで言及したかったのは携帯電話のアプリケーションの詳細でなく、市場は成熟し成長率は頭打ちになったが、日常生活におけるインフラとして従来の機能を超えて新たなアプリケーションを生み出している成長モデルについてである。
このような事例から自動車が参考にできる部分はないだろうか。
【自動車をインフラとした場合のアプリケーションとは】
グローバルレベルでは好調な自動車市場だが、日本をはじめとする先進国では市場の成熟化が進み、それとともに自動車のコモディティ化が進んでいる。現在の日本における 2 輪車を除いた保有台数は約 7500 万台であり、普及率は60% 弱に達する。
製品ライフサイクルを考えると、市場が成熟化しているのだから、商品がコモディティ化し、販売が低迷しするのはある意味必然的なことであり、一時的にどんなに優れた商品を投入し販売が上向いたとしても、中長期的に見ると現在の状況が好転していくというのはなかなか考えにくい。
しかし、携帯電話の例を見るように、考え方を変えればそれだけ消費者の間で日常生活のインフラとして定着しているということなのだから、そのインフラを活用して新たなアプリケーションを生み出すことを、模索するタイミングとしては適しているのではないかと考える。
誕生以来、自動車の中心的な機能はモビリティ(移動手段)であり続け、テレマティクス初期の段階で自動車メーカー各社が注目したのも、モビリティとは異なる自動車の新たなアプリケーションの可能性を感じたからだと思われるが、実際はそれほど普及せず伸び悩んだ。
しかし、従来のルールに縛られない新たな取り組みというのはトライアンドエラーの世界でもある。動力機関の変更、センサーの増大を含む電子化の進展、テレマティクスといった現在進行形の技術革新を踏まえ、再度、新たなアプリケーションを構想、検証していく必要があるだろう。
まずは、ユーザーの自己表現欲求と組み合わせる形で、テレマティクスによるつながる価値を見直す方向性が考えられる。初期のテレマティクスはまさに、つながるを謳っていたわけだが、ユーザーは自動車メーカーのデータセンターとのつながりには価値を見出さなかった。
今後、つながる価値を見直す際には、車車間通信を利用するようなユーザー同士でのつながりを実現していく必要があるだろう。この分野の可能性については「住商アビーム Auto Business Insight Vol.134」にて 弊社加藤が述べているので参照してもらいたい。
https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/2636.html
また、現在はドライブ中の車内を誰にも邪魔されない個人的な空間として大切にするユーザーが存在するが、その快適な個人空間を追求するという方向性も考えられる。例えば、アイドリングストップした状態で、動画配信と広範囲なヘッドアップディスプレイを組み合わせての映画鑑賞といったこともその一つだろう。
そして、ハイブリッド車、燃料電池車が普及した際には、災害時の非常用電源としてのアプリケーションという方向性も考えられるだろう。
また、これ以外にも様々な可能性は考えられるだろうが、新たなアプリケーションを模索する際は、現在のハード販売という課金方法に留まらず新たな課金方法についてもセットで考えるべきものであろう。
というのも、課金方法は企業の発想、行動様式を知らず知らずのうちに規定してしまうものだからである。携帯電話もハードの販売で稼ぐモデルから通信料で稼ぐモデルへと切り替えたことで、様々なアプリケーションのアイデアが生まれ実現に至っている。
【モビリティを超えて】
現在、IT、エレクトロニクスといった分野ではそれぞれの製品、サービスが持つ機能が接近し、業界の壁を越えて、消費者の生活における覇権をめぐる争いが起こっている。
例えば、DVD 規格ではブルーレイ・ディスク、HD DVD 陣営が争っているが、もはや DVD に記録せずとも、ホームサーバーが普及すればよいという意見や、そういったリビングの機器のコントローラーとして任天堂「 Wii」 をはじめとする次世代ゲーム機が浮上するといった具合である。
一方で、自動車はモビリティという機能において絶対的な王者であったため、他の業界からの代替の動きを受けることもなかったし、逆に他の業界の代替に動く必要もなかった。近年、マイクロソフトが車載 OS に参入するという動きはあったが、あくまでもモビリティの機能を果たすのが自動車ということに変わりはない。
その意味で、新たなアプリケーションを開発する必要に迫られなかったというのが実情だろうが、今後、自動車社会が成熟した国に対してはモビリティに留まらない新たなモデルを描く必要に迫られるものと思われる
<秋山 喬>