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物流業界の全体最適化を主導するのは誰だ?
◆トランコム、倉庫の空きスペース情報を収集して貨物保管需要を仲介
東京、名古屋、大阪の都市部から「スペースマッチング」事業を展開へ
<2006年06月18日号掲載記事>
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【スペースマッチングとは?】
物流センター構築・運営、全国輸配送、物流関連 IT システム構築等を手がける物流事業者のトランコムは倉庫の空きスペースと貨物保管需要を仲介する事業を本格化する。不定期、短期、小規模の貨物を対象に、倉庫を埋めたい物流会社と貨物を保管したいメーカーなどの双方の需要を満たす仕組みだ。
新サービスは「スペースマッチング」。物流各社の倉庫の空きスペース情報を収集しておき、1 週間、1 カ月などの短期や量が少ない貨物の保管場所を振り分ける。トランコムは成約した場合に一定の手数料収入を受け取る。
トランコムは空荷のトラックと貨物の輸送需要を仲介する「求貨求車」事業が好調で、物流・運輸会社や荷主など 8200 社の情報を持つ。これまでの取引を生かし、倉庫の空き面積と保管需要の情報を集めていく。
【マッチングビジネスの特性】
トランコムが展開するスペースマッチングは世の中に存在する様々なマッチングビジネスの 1 形態と捉えることができる。マッチングビジネスは相手を必要としているものの、候補者が多岐にわたる等の理由により、その相手がなかなか独力では発見しづらいという 2 つのパーティーが存在するときに初めて成立するものである。
マッチングビジネスを行う事業者は 2 つのパーティーの間に介在し、圧倒的な情報量、及びマッチングのための仕組み、システムをもって双方を結びつける。役割としては、出会いを効率化させることにより、世の中のミスマッチを無くすこと、つまり全体最適化させることが求められるわけである。
また、マッチングビジネスはネットワークの外部性が働くビジネス形態でもあり、多くの参加者が集まる場所であればあるほど、出会いの確率が高くなり、それが誘因となってさらに多くの人が集まるという特性を持つ。
マッチングを小規模に展開する限りはそれほど参入コストも必要としないため、世の中には多くのマッチング事業者が存在するものの、上記のネットワークの外部性によるメリットを最大限に享受するには、他者に先んじて世の中のミスマッチに目をつけ、そのマッチングの場の規模を拡大していくことが重要となる。
自動車に関連するマッチングビジネスというと中古車オークションなどはまさにその典型的なものであり、現在は規模の拡大を追及した USS が業界で一人勝ちとなっている状態である。
また、先の道路交通法改正により違法駐車の取り締まりが厳しくなったため、今後は駐車場と駐車したいドライバーを結びつけるマッチングビジネスもこれまで以上に盛んになっていくものと思われる。これまでは取り締まりがそれほど厳しくなかったため、ドライバー側のマッチング要求が低かったわけだがこれからはそうも言っていられない。両者のマッチングニーズの高まりにより、マッチングビジネスとしてのポテンシャルも高くなってきたわけである。
【マッチングによる物流業界の全体最適化】
トランコムが展開する求貨求車にしてもスペースマッチングにしても、物流領域におけるマッチングビジネスであり、マッチングの結果として物流業界の全体最適化に一歩近づくことになる。
インターネットが普及し電子商取引が一般化した現在においても、そのバックエンドでは生産と消費のギャップを埋める形で物流が存在し続けるわけだが、多くの企業にとって物流はなるべく効率的に行うことが求められる業務の一つであろう。
そのような状況の中、求貨求車やスペースマッチングにおけるマッチング率向上は荷主の物流コストを削減する一方で、輸送用車両、倉庫といった資産の保有者である物流事業者にとっても稼働率向上につながり、マッチングビジネス事業者も含めて win-win-win の関係を生み出す。(実際、世の中で上手くいっているマッチングビジネスは全て win-win-win である。)
しかし、物流業界の全体最適化につながるマッチングは求貨求車、スペースマッチングといった荷主-物流事業者間のマッチングだけに限らない。これら荷主-物流事業者間のマッチングは、ある意味、現状、物流事業者が保有する資産(輸送用車両、倉庫)の数を前提としているところがあるが、これら物流資産を物流事業者間でシェアする、言い換えれば、物流事業者間のマッチングという方向性も次のステップとして考えられるだろう。
輸送用車両を物流事業者間でシェアすると、それは法人間カーシェアリングということになるが、当然ながらシェアリングが適切になされると業界全体として余剰な物流資産が整理されることになり、結果的にはこれも全体最適化につながる。
このようにマッチングビジネスは物流領域においても大きな可能性を秘めていると思われるが、現状は小規模事業者が多数乱立している状態であり、マッチングビジネス特有の規模のメリットを享受しているような有力事業者も見当たらない。
この背景には、求貨求車であっても 1990年代後半に本格展開され始め、まだ事業としての日が浅いこと、また既存の物流事業者が自社の物流業務の傍らで展開しているケースが多いことなどが理由として考えられるだろう。やはり、自社で物流業務を行っている限り、業界の全体最適を指向する動きというのは本格的には取りづらいものと思われる。
【マッチングビジネスの追い風となる物流のアウトソーシング】
しかし、近年盛り上がりを見せている物流のアウトソーシングは上記マッチングビジネスの追い風になるだろう。
物流のアウトソーシングは 1990年代から包装、検品、検針、値札などの作業レベルでは始まっていたが、2000年以降になって物流センターの運営や物流関連業務丸ごとを外部事業者に委託するケースが増加してきている。
これらの背景には企業の本業への集中、「持たざる経営」への変化などが誘因として存在するが、物流事業者側でもアウトソースの提案が盛んであり、最近では、物流専門の外資系投資ファンドも、国内物流業務に参入を始めている。
例えば、「貸倉庫業」を専門に国際展開する米国の不動産開発会社プロロジスは日本での業務を 2001年に業務を始めてから急成長しており、既存の倉庫2棟を買収、2003年以降、更に複数の「物流センター」を新築し、日本通運、良品計画、ヤマトロジスティックス等が専用倉庫として利用している。また、英国の物流会社エクセルは、富士通の物流子会社である富士通ロジスティックスの全株式を 2004年に買収している。
また、自動車業界における物流のアウトソーシングというと、日産が子会社であったバンテック、日産陸送(現社名はゼロ)の MBO により、部品物流、完成車物流を外部に切り出した事例が記憶に新しいだろう。
そして、企業から物流業務を委託される側であるアウトソーサーは独立した立場を上手く活用しながら他社からの受注も獲得して、稼働率を向上させ、得られた利益を委託先企業の側にも物流コスト削減という形で還元する必要に迫られる。そのような立場のアウトソーサーにとってはマッチングビジネス事業者は稼働率向上に寄与する有用な存在になるものと思われる。
【あえて全体最適を指向する勇気】
物流領域でのマッチングビジネス事業者に有力事業者がまだ見当たらないことは先述したが、やはり物流領域の全体最適化は物流業務を営む 1 事業者では構造的に指向しづらい。なぜなら個別企業として部分最適を目指す必要があるからであり、現在、物流業務において大手であればあるほどその呪縛に囚われることになるだろう。
しかし、自動車業界におけるマッチングビジネスの代表例として紹介した中古車オークション事業者の USS も元々は中古車販売を営む 1 事業者であり、中古車流通における部分最適を目指す存在であった。それがあるときから部分最適を捨て、他社に先駆ける形で中古車流通の全体最適化を指向し始めたことが現在のポジショニングにつながった。
マッチングビジネスの特性として触れたが、マッチング事業者となるには圧倒的な情報量が必要であり、物流関連の情報を既に入手できているという点で既存の物流業者が有利な立場にあるのは間違いない。そういう意味で、運ぶ、保管するといった実際の物流業務から脱却し、物流領域の全体最適化を指向する物流事業者が出てきても面白いのではないかと考えている
<秋山 喬>