クリーンエネルギー車の普及のために

◆東京ガス、天然ガスを利用した「天然ガスハイブリッド車」を開発
CO2排出量をガソリン車比で62%削減、ガソリンを使うHV比で24%削減可能

東京ガスは9日、天然ガスを利用した「天然ガスハイブリッド車」の試作車両を開発したと発表した。ガソリンハイブリッド車の「トヨタSAI」を改造し、化石燃料の中で最も燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ない天然ガスを燃料に走行する同車は、ガソリンハイブリッド車 …

<2010年11月09日号掲載記事>

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【天然ガス+ハイブリッドの環境性能】

東京ガスが、天然ガスハイブリッド車の試作車両開発を発表した。今回開発された試作車は、トヨタのハイブリッド車(HEV)「SAI」をベースに東京ガスとエッチ ・ ケー ・ エス(HKS)が共同で開発したもので、東京ガスが決定した仕様に基づき、HKS が車両の改造を手掛けたという。

東京ガスは、1982年から天然ガス自動車の開発に着手する一方、天然ガスを供給する天然ガススタンドの整備も進め、天然ガス車の国内普及を推進してきた。一方、アフターパーツメーカーである HKS は、天然ガスとガソリンのバイフューエルシステムを開発し、市販のガソリン車を天然ガス車へと改造する事業を手掛けてきた。

注目すべきは、今回の試作車の環境性能である。東京ガスのプレスリリースによれば、以下の通りとなっている。

CO2排出量(g-CO2/km)  燃料代コスト(円/km)
ガソリン車        202          11.40
ガソリン HEV     101           5.70
天然ガス HEV      77             3.12

(出典:東京ガスプレスリリースより)

ガソリン車については、「SAI」が HEV 専用車であり、比較モデル次第の部分も大きいので、一概には言いにくいが、ガソリン仕様の HEV を天然ガス仕様に改造することで、CO2 排出量を 8 割以下、燃料代を半分近くに抑えられるというのは魅力的な車両といえる。
天然ガス車は、既に世界で 10 百万台もの天然ガス車が普及しているという。パキスタン、アルゼンチン、ブラジル、イラン等、1 百万台以上も普及している国もある。乗用車だけでなく、トラック・バス等の商用車も普及しており、汎用性も高い。国内市場以上に海外市場を想定しても魅力的な製品とも思える。

【クリーンエネルギー車の普及のために】

筆者は、次世代に向けたクリーンエネルギー車の方向性として、いくつかの選択肢が適材適所に分散し、最適化させる形になると考えている。HEV は勿論、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)においても万能で完璧なクルマではなく、それぞれ長所・短所を持ち合わせている。一方で、ユーザー側のニーズについても、市場、地域、用途によって、求められる性能やその利用環境は多様化している。それぞれの市場、地域、用途に応じて、複数あるクリーンエネルギー車の中から、最適なものを選択することが有効であり、こうした選択肢を増やしていくことで、社会全体のエネルギーの需給バランスを実現していくことが、クリーンエネルギー社会につながっていくものだと考える。

今回の天然ガスハイブリッド車を、その有力な選択肢の一つとして具体化させ、国内市場で普及させていくためには、少なくとも以下二つの取り組みが必要になると考える。

(1)ユーザー層の開拓と製品の適応

今回の天然ガスハイブリッド車が、燃料代を大きく低減できる可能性があるとしても、このクルマとしての特性をさらに突き詰めて実証試験を継続していく必要があると考える。車両価格、航続距離、走行性能、積載性能、安全性能、等、あらゆる側面でこのクルマの特性を把握し、多様化が進むユーザー側のニーズの中から、ターゲットとなるユーザー層を開拓していくことが求められる。必要に応じて、性能面での改善・進化も求められるであろう。

今回の試験車両の開発には HKS が参画していると発表されているが、より大きな取り組みとして加速させるためにも、自動車メーカーが主体的に参画することを期待したい。ご承知の通り、クルマは、総合的な性能が高い品質要求の元に問われる製品であり、ユーザーの手に渡ってからもメンテナンス等のサポート体制が不可欠である製品である。本格的な普及を期待する上でも、既存の事業基盤を持つ自動車メーカーにその役割を期待したい。

(2)最適な利用環境の整備

ガソリン車主体となっている現在のクルマ社会から、エネルギー媒体を含めてパワートレインの多様化が進みつつある昨今、エネルギー媒体の供給体制を整えることが求められている。これは EV (充電拠点)でも FCV (水素ステーション)でも同様である。官公庁・自治体から補助金を得て、闇雲に整備すれば良いというわけではない。前述の通り、開拓していくユーザー層と照らし合わせながら、必要な場所に必要な量を持続的に供給できる体制を整備するという、全体感を持った取り組みが必要になろう。

そうした取り組みのためには、エネルギー媒体を供給するインフラ会社や官公庁・自治体だけでなく、既存のガソリン供給網を担う各社や新たな役割を担う事業者との有機的な連携が不可欠である。独善的な考え方に基づいて取り組むのではなく、関係各社の考え方を相互に尊重して進めることが業界全体を動かすことにつながると考える。

【インフラ会社の役割】

今回、東京ガスは、「地球温暖化防止と運輸部門エネルギーの石油依存度低減に貢献できる天然ガス自動車の大きな可能性を追求」していくとプレスリリースで掲げている。天然ガス車が普及すればガス自体の売上増加につながる、といった短期的な目線ではなく、一定量のガソリン需要を天然ガス需要に転換することで、社会全体としての CO2 排出量削減や石油依存度低減を進めることができ、国内の資源使用量(輸入量)の最適化を図れる、といった長期的かつマクロ的な視点を持って取り組むことは大きな意味を持つ。こうした想いが、業界全体の土壌作りにつながるからである。

前述の二つの取り組みを効果的に進めていく上では、個別の企業が自助努力で進めるというだけでなく、業界全体で実現するための土壌作りが必要になろう。電気自動車がここ数年で実用化に近付いてきたのも、自動車メーカー各社の製品開発だけでなく、電力会社や官公庁・自治体を巻き込んで、業界全体での土壌作りを進めていることが大きな推進力になっていると考える。

東京電力は、早くから自動車メーカーと連携して、電気自動車の実用化に向けて取り組んできた。自動車メーカーの開発車両を自社の営業車両として運用して実証を継続してきたという流れは、今回の東京ガスとも重なる。同時に、必要となるインフラ整備に向けて、急速充電の規格化を進め、チャデモ協議会という形で業界全体を取りまとめることにつなげた。

今回のケースにおいても、試験車両の実証試験から始めて、業界全体を取りまとめ、知見の共有化、必要な標準化の策定、助成制度の提言等、普及に向けた次のステップに向けた推進役としての役割が東京ガスに期待されることになるかもしれない。自動車業界各社も、インフラ会社に任せるだけでなく、こうした取り組みを積極的に後押ししていくべきではなかろうか。

<本條 聡>