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自動車販売におけるインターネットの活用を再考する
(日産、大手ポータルサイトと提携し、インターネットでの販促活動を強化へ)
<2005年05月20日号掲載記事>
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日産はインターネットによる販売促進活動を強化する。メールによる問い合わせに対応するエレクトロニック・カーライフ・アドバイザー(ECA)と呼ばれる専門スタッフを増員するほか、今期中に大手ポータルサイトと提携し、自社サイト以外からのアクセス拡大を狙う。ネットでの情報収集をきっかけとした成約率は明らかにしていないが、「さまざまな指標を見ると高水準にあり、費用対効果は良い」(日産)とのことである。
90年代後半、インターネットが爆発的に普及し、自動車業界にも革命をもたらすということが予測され、ネット上での B2B の部品調達を目的に複数の自動車メーカーにより設立された「COVISINT」や、インターネット上で複数自動車メーカーの新車販売を行なう「カービュー」、「オートバイテル・ジャパン」が話題となったが、現状まだまだ浸透しているとは言えず、新車販売においてもインターネット販売は主流とはなっていない。
だが、急激な変化は起こらずとも、インターネットは徐々に自動車業界に普及しており、今回の記事を見ると自動車購入のプロセスにおけるインターネットの活用も、着々と根付いてきているようである。
現在、自動車メーカーのウェブサイトでは商品説明(発売して間もないモデルの場合には特別企画ページが用意されていたりする)、オンライン見積もり、カタログ請求、販売店・試乗車・中古車検索等ができたりするのが一般的である。
やはり、自動車という商品の特性上、購入プロセスの全てがインターネットで完結するという状態にはなかなか至らず、クリック&モルタル、つまりインターネットと既存の販売網の組み合わせ、が当面主流であり、それを上手く組み合わせていった企業が最終的に顧客を獲得することになるのであろう。
但し、ネットであろうと既存のリアルな手段であろうと、消費者がたどる「認知」(知ってもらう、関心をもってもらう)→「感情」(価値に共感してもらう、価値を頻繁に連想してもらうようになってもらう)→「行動」(買ってもらう、使ってもらう)という一連の購入プロセスに変化はないわけであり、販売におけるインターネットの活用を考える場合は、このプロセスの中にいかに上手くインターネットを適用できるかを考えることになる。
ちなみに筆者は上記プロセスに続くものとして「継続」というプロセスも入れたらどうかと考えている。(厳密に言うと購入のプロセスではないのかもしれないが。)それはつまり、CRM 的な視点であり、新規に購入した顧客が次回も継続して購入し、最終的にはロイヤルカスタマーになることが該当する。
また、上記のプロセスはイメージで言うと漏斗状になっているものであり、各プロセスを経るごとに顧客の数は減っていくことになる。そのため、各プロセスにおける幅を広くすることが最終的に自社の商品、ブランドの下に多くのロイヤルカスタマーが残ることにつながる。
それでは、自動車の新車販売における各プロセスでのインターネットの使用例と可能性について改めて考えてみることにしたい。
「認知段階」
消費者が、まずはじめに製品やサービスに対して注意をはらうようになるのが認知の段階である。通常、一般消費者が自動車メーカーのウェブサイトを訪れるのは何か既に関心を持っている商品があるときが主だと思われるので、単純にウェブサイトに商品説明を掲載しただけでは、認知のプロセスにおける顧客のパイを広げたことにはならない。(勿論、偶然ウェブサイトを訪れた消費者がそこで商品を知ることも多少はあると思われる。)
90年代後半、メーカー横断的なインターネット販売の取り組みに参画した自動車メーカー各社の動きは、そうすることで商品の認知を広めようとするものであるし、トヨタ単独で展開した Gazoo も自動車以外の CD、DVD、本、旅行などのショッピングも含んだ形のサイトにすることで顧客を広く取り込もうとしたものと言える。
現在、インターネットを利用する人のほとんどは Yahoo、MSN 等のポータルサイトを経由してインターネットの世界に入ってくることを考えると、今回、日産が発表した大手ポータルサイトとの提携は認知を広げるための妥当な方法と言えるだろう。
「感情段階」
次いで興味や関心を抱き、欲求し、記憶するという感情段階があるが、これはその名の通り、消費者が商品に対し感情が動かされ価値に共感するというプロセスである。自動車に限った話ではないが、世の中で目にするうんちく満載のこだわりの商品などは、それによって消費者の感情を揺さぶることを狙いとしているものといえる。
この感情段階はインターネットの活用の余地がまだまだ残されていると思われ、各自動車メーカーでも積極的にインターネットを活用している。例えば日産は TIIDA の販促に関して社員自らがブログを活用して、自身の生活も交えながら、TIIDA の特徴を語りかけている。
また、トヨタの ist のケースでは、広告にストーリー性を持たせ、TVCM を予告編とし消費者に認知させ、ストーリーの続きをウェブサイト上で閲覧させ感情移入を促すような仕掛けにしていた。
「行動段階」
最終的に消費者が購買行動を起こすのが行動段階であるが、このプロセス自体をインターネットが担うのは今のところあまり想定できないものの、それをサポートする余地は十分にあるものと思われる。
現在でも、自動車メーカーのウェブサイト上で最寄のディーラー店舗の紹介などがあり、場所を確認できたりもするが、これに留まらず、例えばディーラーウェブサイトとの連携により、応対する店員の顔も見える形でディーラー訪問の予約などができれば、ディーラーを訪問することが消費者にとってぐっと身近になるかもしれない。
「維持段階」
維持段階は一旦、商品を購入した顧客が継続的に企業と接点を持つことで、次回も同じ商品、ブランドを購入するというプロセスである。自動車の場合は同じ車種を続けて購入するのはそれほど多いとは言えないので、自社の車両を購入してもらうことが企業側の目的となる。
例えるなら、既存のディーラーが定期的に発生するサービス、スペアパーツ売上を重視し、新車代替のタイミングを狙うのと同じようなことをウェブサイト上でも行なうイメージである。何かしら魅力的なコンテンツを自社ウェブサイト上で用意し、消費者が定期的にウェブサイトを訪れるように促し、その過程の中で新車が発売することを認知する。
ここでいう魅力的なコンテンツとはおそらく企業側の PR を前面に押し出したものでないことは間違いない。そういう意味で外部との提携も視野に入れる余地がある。
購入プロセスに沿って、インターネット活用の例、可能性を見てきたが、これ以外にも、消費者が購入した車両に対して行なう評価等をインターネットを通じて、企業側が入手し、マイナーチェンジや全く異なる車両の開発に活かすなどが考えられる。そしてインターネットを活用する際に重要なのは、インターネットの特性を最大限生かした活用の仕方を心がけることであろう。
インターネットがリアルな世界と異なる大きな点は、様々な人、パーティーとオープンな関係を築きやすいところにある。自動車業界はこれまで競争力を維持するために、クローズドであることが重要であったが、ことインターネットの活用に関しては、オープンにするリスクは最大限考慮しながらも、消費者、競合他社、提携先とオープンな関係を築いていくべきであり、そうでなければインターネットを活用する意義は薄れてしまうといえるだろう。
<秋山 喬>