三菱自動車、岡崎工場の閉鎖を延期

(事業立て直しに必要な資産の見極め)

<2005年04月19日号掲載記事>

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三菱自動車は年末に予定していた岡崎工場の閉鎖を当面延期すると発表した。

『2005年度の新商品投入は当社再生の鍵であり、品質面、生産面での万全な体制確保を最優先課題と考えました』と理由を述べている。日本経済新聞は、「水島製作所への設備移転などに伴う品質低下などを懸念した」と報じており、延期期間は 1~ 2年の見通しだが、閉鎖自体を撤回する可能性も指摘している。

岡崎工場閉鎖は事業再生計画の主要施策の一つであったが、今回の報道によると、当面延期されるとのことである。ここでダイムラークライスラーが支援打ち切りを表明して以降の、三菱自動車再建の歩みを簡単に追ってみる。

2004年 4月 三菱自動車の経営再建計画を策定していたダイムラークライスラ  -が、三菱自動車への増資には応じず、資金援助も行わないと発表

2004年 5月 三菱グループ 3 社が中心となり事業再生計画を発表

2004年 6月 事業再生に関する追加施策を発表
岡崎 CEO、多賀谷COO体制が正式にスタート

2005年 1月 新経営計画「三菱自動車再生計画」を発表
西岡 CEO、益子COO体制がスタート

2005年 4月 岡崎工場閉鎖の延期を発表

岡崎工場の閉鎖は凍結が噂されている本社機能の京都移転とともに 2004年 5月発表の事業再生計画に盛り込まれた施策であり、今回の閉鎖延期のニュースは、問題、リストラ策の先送りといったイメージで世の中には受け取られている面もあるかと思われる。

こういった企業再生の手法の定石としては、一連のリストラ策を一気に大胆にやることが大切といわれている。その理由は、リストラ策が継続的に展開されることで、一体いつになったら終わるのかと従業員が疲労感を覚え、その結果モチベーションの低下につながってしまうからである。

そういう意味で、三菱自動車ではダイムラークライスラーが主導した 2001年のターンアラウンドプラン以降、継続的にリストラ策が行なわれていることとなり、従業員の間でのモチベーション低下が懸念される状況であり、また同時に従業員の方の心中をお察しする。

しかし、企業再生手法の定石という意味では、今回のニュースはまた別の見方をすることもできるのではないか、と筆者は考えている。

いわゆる企業再生は一般的に資産売却、借入金の返済といった各種リストラ策を通じ、財務面の整理を行なったのちに、事業そのものの立て直しを経てはじめて完了といえるものである。

これまでの三菱自動車の状況は、一旦、財務面の整理を行なったものの、それが次のステップである事業そのものの立て直しへと上手く展開していかず、その結果としてまた再び追加的なリストラ策が必要になるといったように見える。

その観点からいくと財務面の整理として一時のキャッシュが必要だからといって、事業の立て直しに必要な資産、人材まで売却、解雇等してしまうのは本末転倒ということになる。

今回、岡崎工場の閉鎖を延期したのは、今後、事業の立て直しをする上で岡崎工場を閉鎖してしまうのはマイナスの影響があるとの判断が働いたということかもしれない。

というのも、そもそもこれまでの同社の一連の低迷はリコール問題に端を発しているものであり、今後事業を立て直していく段階において、再び品質問題を引き起こすことは許されないからである。そういった見方をすると『2005年度の新商品投入は当社再生の鍵であり、品質面、生産面での万全な体制確保を最優先課題と考えました』というコメントにも頷けるといえるだろう。

そして、この種の話は別に製造面に留まったものではない。例えば、販売の領域においてリストラ目的で、販売員を人員削減した結果、顧客に対するサービスレベルが低下し、売上が伸び悩み、その結果また追加的なリストラを行なわなければならないという、言うならば、リストラスパイラルに陥る可能性がある。

そういった状況を防止するためには、整理の対象にしてもいいものと事業立て直しに必要なものとを見極めた上で、両者のバランスを取っていくことが必須であり、それは企業再生計画立案の過程において、その事業に精通している人間の参画が必須であることを意味している。

企業再生というのは、特殊な世界であり、それだけに専門とする人間も多く、特に財務面の整理の部分はある種セオリーがあるということもあって、そういった専門家に任せがちになるが、上記のような事情を鑑みると、その部分でも事業に精通した人間が積極的に参画、発言し、専門家と喧喧諤諤の議論をした上で落としどころを探るのが最も良い形のように思える。

今回の岡崎工場閉鎖延期でも、これまで外部のステークホルダーばかりが目立ち、どちらかというと蚊帳の外に置かれがちに見えた、事業に精通した三菱自動車の社員からの声が反映されたものであったとしたら、それは歓迎すべきことのように思う。

そして我々自身も仕事柄こういった案件に携わることもあるが、上記のような まず事業ありきの視点で取り組むことを肝に銘じている。

<秋山 喬>