自動車業界ライブラリ > コラム > 日産のペラタ副社長、「ロシアでの現地生産について3つの…
日産のペラタ副社長、「ロシアでの現地生産について3つの…
◆日産のペラタ副社長、「ロシアでの現地生産について3つの方法を検討中」
新規の工場建設・露GAZとの合弁事業・ルノーのモスクワ工場を活用
<2004年09月28日号掲載記事>
——————————————————————————–
28日付のロシア経済紙 Vedomosti は、日産が価格を引き下げるためにロシアにおける現地生産を検討していると報じた。パトリック・ペラタ副社長によるとその進出形態として以下 3 つのオプションを検討しているという。
1 つ目は、仏ルノーのモスクワ工場を活用する案である。2 つ目はゼロから工場を建設する案。そして 3 つ目は、ロシアの大手自動車メーカー、GAZ との合弁事業により現地生産を行なう案である。
一般的にそれまで輸出で対応していた市場の規模が拡大し、販売台数が増加するにつれて生産コストの削減、マーケットへの迅速な対応、為替リスクの軽減、現地政府・行政との円滑な関係構築等を目的に現地での生産が検討されることとなる。
市場規模が拡大するどのタイミングで現地生産開始の意思決定を行なうかに関しては各社とも基本となるガイドライン、考え方があるものと思われるが、やはり個々のケースの状況を把握した上で最終的な意思決定が行なわれることになる。
今回の報道によれば日産は今後拡大が見込まれるロシアマーケット攻略に向け、何らかの形で現地生産することを決定した模様である。但し、現地生産を決定したとしても今後 3 つのオプションの中からどれか 1 つを選ばなければならない。またこの 3 つ以外にも潜在的なオプションが存在するかもしれない。
パトリック・ペラタ副社長は、「(工場をゼロから建設する)場合、ロシアの自動車市場が今後 10年間、成長を続けるとの確信が 100% なければならない」としている。
そのとおり、進出形態の選択には市場予測、市場の伸びをどう見るかの判断が大きな影響を及ぼす。実際、ロシアの今後の市場成長にはまだまだ不確実な面が多く、国民所得もまだ低いため、値段の安い国産車が購買の中心となっている。同様に、海外メーカーとして好調な大宇も低価格を売りとしているが、昨今では、販売台数でトヨタが首位になったように着実にマーケットの変化は起こりつつある。
市場予測は進出形態を検討する上で重要なファクターであるが、ではそれ以外に各進出形態を比較し、選択していく上での選択基準、評価軸としてはどういったものが考えられるだろうか。以下に主なものを列挙してみた。
「投資金額」
3 つのオプションでは何よりもまず投資金額が異なる。独自でゼロから工場を建設する案は当然のことながら最も投資金額が必要とされる。ルノー工場の活用案は稼働率に余力があり新規設備投資が必要ないのであれば最も少ない投資で済むかと思われる。GAZ との合弁事業案は GAZ の既存工場を活用するのか、新規に工場を設立するかにより投資金額が左右されることとなる。
「生産能力、生産拠点のロケーション」
ゼロからの工場建設であれば生産能力をどのレベルに設定するか、生産拠点のロケーションをどこにするかを完全に自社の裁量で決定できる。一方でルノー、GAZ とのアライアンスを活用する場合は、相手の都合、生産余力といった制約が生じる。実際、ルノーとのアライアンスの場合ではモスクワ市内で生産を拡大することは困難とのことである。また、生産拠点のロケーションによりある程度、調達物流、販売物流といった物流網も規定されることとなる。
「生産車種」
ゼロからの工場建設であればどの車種を生産するかを完全に自社の裁量で決定できる。一方で、ルノー、GAZ とのアライアンスを活用する場合、相手の製品戦略といったものとバッティングしないようにしなければならない。その意味で生産面で協力するということは、生産のみに留まらずマーケティング面においても影響を及ぼすこととなる。無論、ルノーとはグローバルに提携しているので生産拠点を活用する、しないに関わらずマーケティング面での棲み分け、協力体制といったものを考慮する必要があるものと思われる。
「労働力の確保」
ゼロからの立ち上げであれば新規に労働者を雇用をする必要がある。一方、ルノー、GAZ とのアライアンスの場合は相手の持つ労働力の活用が可能である。
「税制面での特典」
ロシアの自動車政策においては外資系企業が合弁会社を設立した場合は税務上の特典が得られることになっているが、その場合、現地調達率の規制が発生することとなる。しかし、ロシアの自動車部品製造企業の体質、生産設備は旧ソ連時代からほとんど変わっておらず、品質面で問題がある点を考慮に入れる必要がある。
他にも進出形態を検討する上で考慮されるべき要素は存在すると思われるが、基本的にはリスクを取りコストを払うほど戦略的自由度が増すことになる。
ちなみに、他社事例を見てみると、現在単独で進出しているのはフォードのみであり、それ以外に進出している GM、ルノー、BMW、大宇等は合弁生産である。トヨタは 8月にロシアでの現地生産を発表したが報道によると単独進出、部品はほぼ日本からの供給で対応するとのことである。
今後、市場の動きに加えて、上記のような要素を考慮した上で、最終的に進出形態を確定していく必要があるものと思われる。
<秋山 喬>