トヨタ、ベトナムに輸出センターを設置、タイへの部品供給…

◆トヨタ、ベトナムに輸出センターを設置、タイへの部品供給を開始
8月からタイ、インドネシアで低価格の世界戦略車「IMV」を生産へ

<2004年7月09日号掲載記事>
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トヨタ自動車はベトナムに輸出センターを設け、タイへの部品供給を始めた。デンソーなどの現地工場から調達し、検査やこん包を手がける。トヨタは 8月からタイ、インドネシアで低価格の世界戦略車「IMV」を生産する予定。ベトナムでは新車販売は苦戦気味だが、安価な労働力を生かし、将来の完成車輸出もにらんだ部品の調達体制を整えるとのことである。

今回のニュースは単なる二国間の取引の話に留まらず、アセアン域内での自動車部品の相互補完の一環と位置付けられる。

自動車業界において、アセアン域内での相互補完がここまで進展したのは日系自動車企業のアセアン進出の歴史、背景とおおいに関連がある。そこで、その概略を簡単にではあるが述べておきたいと思う。

1960年代、アセアン各国政府の完成車輸入禁止措置を受けて、日系自動車メーカーは輸出ではなく現地生産によってアセアン諸国の国内市場を確保する行動に出た。

しかし、アセアン各国の狭小な市場に複数の自動車メーカーが進出したため、小さなパイを取り合う状態となっており、市場規模は拡大傾向にあったものの、いわゆる規模の経済を享受できない状態であった。

また、アセアン各国政府の要請に応じ、現地進出を進めた結果、各自動車メーカーがタイ、マレーシア、インドネシアといったアセアン内の複数の国に生産拠点を保持するような状態となり、投資の重複、非効率を引き起こしていた。

後者の問題の解消に向けて、用意されたのが BBC (Brand toBrand Complementation)、AICO (ASEAN Industrial Cooperation) スキームといった関税協定であり、その概要は同一企業間でスキーム加盟国から部品を調達する場合、関税が大幅に減免されるというものである。

こういったスキームの活用により、部品に関してはアセアンがあたかも一つの自由貿易圏のようになり、特定の部品に関して特定の国で集中的に生産し、他の国にも輸出するといういわゆる、相互補完により規模のメリットの享受が可能になった。

このように、アセアン域内における相互補完が進展した背景には、日系自動車メーカーのアセアン進出の歴史があるのである。

但し、あくまでもこれは部品レベルの話であり、完成車については依然としてアセアン域内といえども高い関税が維持された。

しかし、アジア通貨危機を受け AFTA (ASEAN Free Trade Area) 構想の推進が合意されたことで、完成車に関しても輸入関税の引下げが推し進められることとなり、そのための制度として CEPT (Common Effective Preferential Tariff) スキームが用意された。

その概要は一定のアセアン調達率を満たしている完成車・ CKD 部品についてはアセアン内での輸入関税率が最大5%へと大幅に引き下げられるというものである。これによりいわば完成車レベルでの相互補完が視野に入ってきたのである。

トヨタはこれまで 前述の AICO スキームを最大限活用しており、参考文献によるとアセアン域内で流通されている部品の 80% にまで適用しているとのことである。例えば、トランスミッションについてはフィリピンで、ステアリング・ギアについてはマレーシアといったように域内分業を進めている。また、完成車についてもタイをピックアップトラックの輸出拠点とし、IMV プロジェクトを推進する等生産拠点の位置付けを明確にしつつある。

今回、部品の輸出元となるベトナムは 原加盟国であるインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイに遅れる形で 1995年にアセアンへ加盟した。自由貿易協定に関しても原加盟国より多少スケジュール的に遅れる形で、2006年 1月 1日までの関税引き下げを表明している。そのためベトナムも今後、相互補完の一拠点に組み込まれていくことが予想され、今回のトヨタのニュースもそれを視野に入れたものであるといえる。

このようにトヨタを始めとする日系自動車メーカーはこれまでのアセアンでの事業の歴史に基づき、域内分業を推し進めているが、一方で、アセアンにおいては、新規参入者となる欧米系自動車メーカーは異なるアプローチで事業展開を進めている。

これまでのしがらみや歴史が無いため、域内部品補完を前提とした分散型の戦略ではなく、産業集積と規模の経済を利用した地域集中的な生産戦略を選択することが可能であり、実際、GM、フォードは自らのサプライヤーとともに、産業集積の進んでいるタイに集中的に投資を行なっている。

日系、欧米系どちらのアプローチが今後、有効となるのかはまだ判断できる状態にないし、現在は域内分業を前提としている日系自動車メーカーも各国の産業集積状況、人件費動向によっては、生産をさらに特定の国に集中する方向に戦略を変更する可能性もある。
しかし、どちらにしても意識しておかなければならないのが、アセアンが一つの経済圏になるとしても、マーケットは依然として各国レベルで存在しニーズも各国で異なるという点である。いくら規模のメリットが得られるとはいえ、マーケットごとのニーズに対応できないような生産体制では問題がある。その意味で集中と分散のバランスを上手くとっていくことが必要と言えるだろう。

<秋山 喬>