東洋ゴム、国内市販用タイヤの出荷価格を5月から平均で約…

◆東洋ゴム、国内市販用タイヤの出荷価格を5月から平均で約5%引き上げへ
天然ゴム価格が需給ひっ迫により高騰しているため。乗用車用は4%強
<2004年03月15日号掲載記事>
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東洋ゴム工業は国内市販用タイヤの出荷価格を平均で約5%値上げするとし、その主要因を既に平成14年以降約30%高騰している天然ゴム価格にあると説明している。

これで、タイヤ全メーカーが足並みを揃えて国内市販向けタイヤの値上げを決定したこととなった。各社値上げの理由はやはり共通しており、中国での天然ゴムやナフサの需要増加により需給が逼迫し価格が高騰しているためである。
原材料費の高騰は何も天然ゴムだけの話ではなく素材やエネルギー産業全般に関して起きている現象である。例えば、『原材料高騰、米国の自動車メーカーや金属部品メーカーの生産計画に影響。鉄鋼や天然ガスが高騰し、化学メーカーは政府に支援要請(3月17日号掲載記事)』、『原油高騰、IEAやOPECも誤算(3月15日号掲載記事)』等で、いずれも中国需要の急増がその要因と取り上げられている。
今回のタイヤは価格弾力性の低い市販ルートから値上げを実施した形だが、本丸は数量ベースで過半数を占める自動車メーカーへのOEM供給の価格折衝になろう。

その際に重要になるのが交渉力であり、その前例は鋼板業界にある。自動車用鋼板は今回の鋼材原料価格高騰の前に既に04年4月分から自動車業界から鋼板納入価格の値上げを獲得しているが、それには昨今の業界間構造の変化による鉄鋼メーカーの価格交渉力の上昇による部分が大きい。
バブル崩壊後、国内需要が減少していく中で、国内鉄鋼メーカー各社は依然としてシェア争いを重視した経営を行なってきており、生産削減や過剰設備の廃棄といった供給能力削減に向けた取り組みがなかなか進みづらかった。
そのため、需要に対して供給が過剰である状況が続き、製品価格の下落を招いたことで鉄鋼メーカー各社は業績悪化に苦しんできた。しかしNKKと川崎製鉄の経営統合により「JFEホールディングス」が誕生し、高炉5社体制から新日鉄グループとJFEグループの2大グループに集約されたことで過当競争が緩和され、鉄鋼業界の価格支配力が高まったことで値上げが可能になったといえる。

もちろん、単なる規模の拡大が収益力の強化に結びつかないことは自動車業界自身の前例から明らかである。「4百万台クラブ」を標榜したビッグ3の業界再編統合の試みは殆どが失敗に終わり、いま勝ち組とされているのは業界再編とは無縁だったホンダ、PSA、BMW等である。また、鋼鈑業界にはもともとハイテン高張力鋼鈑など海外の追随を許さない技術的強みや商品開発の歴史があってのもので、規模拡大だけの成果ではないことを忘れてはいけない。
しかし、だからといって業界再編による交渉力強化が無意味ということにはならない。
自動車業界でも日産・ルノーやトヨタグループの求心力強化の成果 を否定する人はいないと思う。素材産業においても同様の考え方や効果 を認めて然るべきだ。
今回は世界的な素材、原材料の逼迫と高騰という事情があり、自動車メーカーもさすがに無視できないように思われるが、そもそも自動車産業には一種独特な論理がある。

上流工程は一定の交渉力を持つことを余儀なくされていると思う。 フレデリック・テーラー以来のIE(インダストリアル・エンジニアリング)の伝統として、自動車産業において下流工程が払うべきコストは「標準的」「平均的」な労力や設備・技術、原材料の投入量に対する対価という考え方があり、「革新的」「差別的」なアイデアや技術、それらが生み出す効用やマーケットバリューに対する正当な対価を支払うという考え方や習慣が少ない。

異業種から参入した会社がこの業界に違和感を覚えるのは主にそういう部分だ。 原材料費の高騰の有無に関わらず、上流工程が生み出す効用やバリューに対してもう少し柔軟な考え方があってもよいと思う。欧米に比べて日本の自動車業界は完成車組立産業への経営資源の集中・偏重が特に著しいという特徴がある。完成車組立産業を中核とする構造は、(それが日本の自動車産業の強みでもあるのだから)変わらない・変えるべきでないにしても、その上流工程、下流工程にも適度に経営資源や利益が分散・共有されるような構造に変革していくことが結局自動車組立産業をも含めた日本の自動車産業全体の底力を強化するのではないかと思う。

そうでないといずれ裾野を支える産業が失われるか、存続するとしても自動車産業にそっぽを向けるか、いずれにしても産業全体の競争力が危機に曝されることになることを危惧する。

<秋山 喬>