アフターマーケットにおけるFC事業の成功要因

◆富士重工、軽板金塗装サービスの全国展開に向け、2005年度中に準備へ

通常の板金塗装サービスの半額を目安に料金体系や作業ノウハウを構築する

<2006年01月15日号掲載記事>

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昨年末から日本の自動車メーカーは国内販売網の再構築の動きを加速させているが、富士重工においても 2006年度から 3年間で最大 600 億円を 546 あるディーラー店の 30~ 40 % に投じ、店舗の改築・改装を実施する。また、老朽化している店舗が多く存在する地方のディーラーを中心に移転・再編・改築を行う。

これに加えて、富士重工業では 2005年度中に系列販売会社での軽鈑金塗装サービスの全国展開を準備する。現在の 4 店舗を来年度中に 10 店舗まで拡大し、順次全国に拡大していこうとするものである。

国内メーカーによる傘下ディーラー網再編の目的は、一般的には店舗統合によるコスト削減と、需要発生地域への戦力集中による台数増の組み合わせによる収益力向上にあるが(富士重工の場合は台数増加を目的とした店舗数増加も目論んでいるだろう)これに付随する形で打ち出された軽鈑金塗装サービス展開の狙いはシンプルだ。この狙いは、新車需要の頭打ちによるディーラー新車部門の収益低下を周辺サービスの収益増加で補うことにある。

また、富士重工自身が当該サービス導入・当該市場への参入を決定した、より具体的な意思決定の判断基準を推察すると、おおよそ以下の理由に分類されるのではないだろうか。

(1) 顧客の側のニーズとして、新車でないと嫌なわけではないが、小傷だらけはいやだ、という層が増えるのではないか。
イメージとしては、美容整形(鈑金)には踏み切れないが、プチ整形(軽鈑金)であれば興味ある、といったところだろうか。

(2) 軽鈑金市場には、まだ突出したライバルが不在の状態である。軽鈑金市場とは、「キズ」「ヘコミ」などの小キズ修理を専門とする市場で、凡そ 5,000 億円規模とされている。2001年にカーコンビニ倶楽部が独自工法と低価格を武器に、この市場への参入を果たし、翌年にはトヨタ自動車が追随。

しかし現在ではカー用品チェーンのオートバックスセブン、カービューティプロ、車検のホリデーなど 6~ 7 千社がしのぎを削る、フラグメント化さた市場となっている。

(3) 他自動車メーカーとの競争ではなく、アフターマーケットプレーヤーが相手であれば、設備投資と技術要件の敷居が低く、十分参入可能である。

(4) 既参入組であり且つ資本関係があるトヨタ自動車のノウハウをシェアできる可能性もある。

(5) 自社経営資源から見て、顧客とのタッチポイント回数を増やすことが理にかなっている。

特に富士重工業の場合は、顧客の商品に対するロイヤリティが相対的に高く(いわゆるスバリストと言われるエンスーの存在)、客単価が取れるブランド資産・顧客資産を有しているものの、ロイヤリティを代替に活かすだけのモデルラインナップ(フルラインナップ)は残念ながら有しているとは言えない。

よって、サイクルマネジメントの徹底管理に基づく代替促進による販売維持を追及しようにも、構造的には難しい状況にある。

一方、今後も自動車の使用年数は延びつづけると想定されていることから、代替回転数を上げる努力はしながらも、1台のクルマに長く乗る顧客とのタッチポイント回数を増やして、お客様一人が生涯に渡って払ってくださる金額を増やすことも重要である。

こだわりを持つお客様が 1台にじっくり乗る場合には、そのニーズにマッチしたサービス提供(今回の件では、これが軽鈑金に相当する)が、このタッチポイント回数増に繋がるのであろう。

メーカーでのサービス開発→ディーラーによるサービス使用権行使という流れは、今後のメーカーとディーラーとの関係が、指定地域内における所謂「車両本体」という機械製品をディーラーが販売する権利をメーカーが与える従来型の関係から、車両に付帯するサービスやノウハウの使用権をメーカーがディーラーに提供する関係へと高度化していくことにも繋がるであろう。

サービスノウハウ提供のフランチャイズの場合、物販 FC 以上に本部と加盟店との良好な関係に基づく指導環境・被指導姿勢が成功の鍵となる。

即ち、モノという目に見える資産の供給ではなくノウハウの伝達であるが故に、教える側に一定以上の力を与えながらも、教わる側もこれをリスペクトする関係が大事になるのだ。

買取 FC チェーンでガリバーが成功した理由はここにあると言われ、ボランタリーチェーンや既存事業を有するプレーヤーの集合体が今でも苦労している理由もここにあるだろう。

幸い富士重工では、それを可能とする統制の取れた直営販社体制を有している。また今回の販社再編スキームで、これを更に最適且つ強固なものにしていくものと考えられる。

<寺澤 寧史>