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新規参入の脅威に対する既存事業者の対応策
(ライブドア、ジャック HD を買収し、中古車ネットオークションなど進出へ)
ライブドアは、東証 2 部上場の中古車販売業、ジャック HD の株式 51 %を取得し、インターネットを活用した中古車オークションに進出すると発表した。
第 3 者割当増資の引き受け(135 億円)や大株主の伊藤忠エネクスなど他の株主から株式買い付けで、9月中旬に同社株の 51 %取得する予定。
ライブドアは、自社サイト内に近く消費者同士で中古車を売買するオークションコーナーを新設する予定で、ジャックのノウハウを生かすとともにジャックの全国 75 店舗を中古車の受け渡しなどの拠点として活用する。
「米国では、インターネットを通じた中古車の個人間取引が活発で、日本でもビジネスモデルを確立できる」と同社。買収総額は約 145 億円。
<2005年8月25日号掲載記事>
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8月 25日に、ライブドア、ジャック HD 両社から資本提携及び第 3 者割当増資によるライブドアによるジャック HD の子会社化のリリースが発表された。
ライブドアの狙いは、中古車保有者にジャック HD を通じて買取保証価格を提示しつつ、Livedoor オークションへの出品を促し、ジャック HD での買取またはネットオークションのどちらを選んでもライブドアとユーザー双方が WIN-WIN にある関係を構築することにあるようだ。これを通じてネットオークションで先行するヤフーに対抗する有力コンテンツに育てることにあると報道では伝えている。
【ヤフーオークションについて】
ヤフーについては、2005年 3月に弊社の長谷川が、「ヤフー、Yahoo!オークションの自動車カテゴリなどで、大幅値上げ」と題したコラムを執筆している。
その中でヤフーオークションの中に占める自動車部門の年間出品台数と売上高、営業利益を以下のように試算している。
(詳しくは、https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/4042.html参照)
・年間出品台数 228 万台
・売上高 7,367 百万円
・営業利益 5,476 百万円
出品台数だけをとると、オートオークション市場の最大手であるユー・エス・エスの 214 万台(2005年 3月実績)を上回っている。
だが、ヤフーオークションにおける出品者は主に自動車販売事業者が中心で、つまり BtoB 乃至は BtoC オークションになっている。
【ジャック HD のビジネスモデル】
ジャック HD は、1987年(事業開始 1994年)に日本中古車査定センターの商標で設立された全国展開の中古車買取事業者である。無料出張査定の草分けで、その後買い取った中古車を販売する事業に乗り出した。大規模小売店舗「カートレット」を全国 12 ヶ所で展開している。つまり、買取と販売の 2 つの柱を持ち、全国 75 拠点の買取拠点で中古車ユーザーから買い取った中古車を全国12 ある大型中古車販売拠点(カートレット)で小売するという買取直販 CtoBtoCモデルが特徴である。東証 2 部上場企業でもある。
ジャック HD は、度重なる経営の不祥事で財務内容が悪化していた。2004年の秋口より段階的にエクイティ・ファイナンスを実施し、財務体質の改善に一定の成果は得ていたが、成長しきれずにいた。
ジャック HD の業績推移
. 売上高(百万円)営業利益(百万円)経常利益(百万円)
2006年 3月期(予) 45,700 ― △490
2005年 3月期 43,062 △687 △1,432
2004年 3月期 49,032 328 206
2003年 3月期 44,663 405 107
2002年 3月期 45,357 △236 △302
2001年 3月期 61,948 1,216 1,320
【ライブドアのビジネスモデル】
ライブドアは、「Livedoor」というポータルサイト運営事業者である。
ポータルのビジネスモデルは、ポータルサイトに様々なコンテンツを掲載しユーザーのページビュー数に応じて、スポンサーから広告料を徴収している。
また、ネットオークションやショッピングサイトを運営し、トランザクションごとに手数料を徴収するというものである。
ポータル事業で先行しているヤフーに対して立ち遅れていたのが、ショッピングサイトでとりわけオークション事業であった。
今回のジャック HD との提携は弱みであったオークション事業の強化である。
(参考)ライブドアの業績推移
. 売上高(百万円)営業利益(百万円)経常利益(百万円)
2005年 9月期(予) 78,300 ― 11,200
2004年 9月期 30,868 5,654 5,034
2003年 9月期 10,824 1,461 1,314
2002年 9月期 5,890 1,185 1,137
2001年 9月期 3,601 220 302
2000年 9月期 1,207 △179 △180
【中古車個人間売買市場の課題とその解決策】
これまで中古自動車の個人間売買には、幾つかのの事業者が市場参入しているが、いずれも失敗に終わっている。
そもそも参入事業者が自動車事業の周辺事業者(中古車販売事業者、自動車整備事業者など)の小資本経営者が多く地場の限られたエリアでしか展開出来ないという制約があった。
そのため、次のような問題を内包していた。
(1)出品台数の絶対数が少なく、売り手と買い手とのマッチングが困難。
(2)出品車両のコンディションを担保するものがなく、クレームが多発すること。
(3)書類手続き、代金決算などが煩雑で個人間でのやり取りには煩雑なことが多いこと。
(1)については、ジャック HD が出品ソースになることで台数の確保という点では、効果が大きい。査定した車両をインターネットオークションに誘導するとともに、オークションで落札できなかった場合に査定価格で買い取るというオプションを付保することで両社の棲み分けも可能となるのではないだろうか。
課題をあげるとすれば、中古車買取能力の弱体化である。最近、事業の成長が止っているのも財務内容の悪化に伴い、人材への投資に資金が回らなくなり、必要な人材が確保できず買取能力が弱くなっているためと考えられる。
第 3 者割当増資で得た資金を有効利用し、出張査定能力の強化と人材の確保に振り向ける必要があろう。
(2)については、ジャック HD は査定が売り物なので、無料査定した中古車がインターネットオークションに出品されることになり、クレーム発生は、かなり抑えられるのではないだろうか。
(3)についても同様にジャックの店舗機能として従来より持ち合わせているもので、個人間売買における仲介機能として十分であると考えられる。
また、ライブドアは、金融サービスに力を入れており、そのサービスをジャック HD が導入することでエスクローサービスも実現できるはずである。
さらに、自動車整備や点検などは自動車整備工場と提携を結ぶことで、中古車購入ユーザーにサービス提供が可能となるはずである。
このようにライブドアとジャック HD との資本提携で、ヤフーオークションとは一線を画した CtoBtoC という新たなマーケットが創生される可能性が高い。
【自動車保有手続きのワンストップ化で追い風】
自動車保有関係手続きのワンストップサービスは、政府決定の e-Japan 重点計画 2004 において 2005年中にシステム稼動を目指すとされている。
ワンストップサービスとは、自動車を保有するために必要な多くの手続(検査・登録、保管場所証明、自動車諸税の納税等)を、オンラインにより、一括して行うことができるようにするものである。
すでに、東京都、神奈川県にて試験運用が開始され、現在では 8 都府県に拡大されており、2005年 12月から新車の新規登録がワンストップサービスシステムに移行する。
継続検査等の手続きは、2007年から 2008年にかけて段階的に行うこととなっている。このように、中古車を含めた保有手続きは、ナンバープレートの交付を除き、近い将来電子処理に移行し、簡素化されることになっている。
一般ユーザーにとって自動車保有の諸手続きが簡素化されることは、歓迎されることではであるが、ナンバープレートの交付は陸運事務局での手続きが残ることになり、書類手続きと合わせて専門業者に委託するケースの方が多いのではないかと想定される。ジャック HD は、最後に残るこの煩雑な手続きを代行出来ることで強みを発揮出来る可能性がある。
【オークション事業者が認識すべき問題】
影響を受ける事業者 問題 対応策
(1)オークション事業者 出品者が弱る 出品者や落札者でしか出来な
. いなくなる いことを見つけ、そのサービ
. 落札者が弱る ス性を上げる
. いなくなる
(2)中古車買取事業者 個人の買取希望 個人のバイヤーが出来ない
. 者からそっぽを 売却のアドバイス、買い替え
. 向かれる のアドバイス等を行う
(3)中古車販売業者 個人のバイヤー 個人の売り手が出来ない
. からそっぽを 木目細かいサービス、フォロー
. 向かれる アップを行う
最後に、既存事業者が新規参入の脅威に対抗するためには、
既得権に安住せず、
1.既存の枠組みに満足している人や最終的な Payer に目を向ける。
2.そのために自分が出来ること、出来ないことを考える。
3.自分が出来ないことには、適切なパートナーを見つける。
ということが基本ではないだろうか。
<寺澤 寧史>