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新生GMにとっての中国拠点の役割
◆米GMと中国・上海汽車(SAIC)、パワートレインの共同開発で合意と発表
エンジンは直噴の1000~1500ccでターボチャージャで過給する。変速機は現在の6速AT比で燃料の消費量とCO2の排出量を10%以上減らすことができる乾式のクラッチを使うDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)。開発はデトロイトにあるGMのpowertrain Engineering Centerと、上海にあるPan Asia Technical Automotive Centerが共同で当たる。
<2010年08月18日号掲載記事>
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【着実に復興を進める新生GM】
昨年より新生 GM として再建を進める米 GM であるが、着実にその復興の道程を進めている。今年 4月に発表した 2009年(7~ 12月)の決算内容によると、その売上高、純損益、営業活動によるキャッシュフローは以下の通りとなっている。
. 2008年 2009年 (単位:億ドル)
. 1~7月 7~12月 1~12月計 前年比
売上高 1,490 471 575 1,046 ▲30%
純損益 ▲309 1,091 ▲43 1,048 -
営業CF ▲120 ▲183 10 ▲173 -
(出典:マークラインズ)
新生 GM となった 2009年 7月以降、純損益こそ 43 億ドルの赤字となっているものの、営業活動によるキャッシュフローは 10 億ドルだが黒字に転じた。経費・債務削減も大幅に進捗しており、2010年決算は黒字化する可能性が高いといわれており、再上場する計画も現実的となってきている。
販売面でも、着実に回復傾向にある。GM の地域別世界販売台数推移は以下の通りとなっている。
. 2008年 2009年 2010年 (単位:千台)
. 1~6月 前年同期比
北米 3,565 2,485 1,280 11%
うち米国 2,981 2,084 1,081 13%
欧州 2,043 1,667 846 ▲4%
その他海外 2,753 3,326 2,026 34%
世界合計 8,362 7,478 4,152 17%
(出典:各社新聞報道他)
北米市場も回復傾向にあるが、この新生 GM の復興を牽引しているのは、中国に代表される「その他海外」市場である。中国政府による販売支援策等の後押しもあり、2010年上期(1~ 6月)の販売台数は 121 万台を突破、米国を抜いて GM 最大の販売市場となったと報道されている。
【新生GMにとっての中国拠点の役割】
新生 GM にとって、この中国の存在は、単なる最大の消費地というだけのものではなくなってきている。
一つは、グローバル展開における中心拠点としての役割である。新生 GM が発足した 2009年 7月に、北米・欧州以外の全世界を担当する GM インターナショナルオペレーション(GMIO)の拠点を上海に新設している。更に 2009年 12月には、上海汽車と共同で、SAIC GM Investment を設立しており、この会社を通じて、上海汽車から資金面での支援を得ながら、GM の新興市場開拓を進めるとしている。既にインドについては、GM インドの株式の半分を上海汽車が取得することで、GM ・上海汽車の共同展開という方向性が報道されている。
一説には、新生 GM が米国・カナダ政府等から得た再生の為の資金を他国での事業展開に利用できないという事情があるとも報道されているが、今後の GMのグローバル展開において、上海汽車が不可欠な存在となっていることは読み取れる。
二つ目は、研究開発拠点としての役割である。GM と上海汽車が合弁の生産会社として上海 GM を設立したのは 1997年であるが、同じくその年に、両社の合弁で、PATAC (Pan Asia Technical Automotive Center)と呼ばれる R&D センターも設立している。この PATAC は、上海 GM が生産する乗用車の開発・設計を担っており、その後中国最大規模の車両性能試験場を建設するなど、同社の研究開発機能を強化してきた。
また、上海 GM は、2008年 9月に GM 中国園区を建設し、その中に、代替エネルギー技術、次世代環境対応車やそのパワートレインの開発を担う研究開発施設を次々に開設している。更に上海交通大学や清華大学等の中国の大学とも共同研究体制を強化し、人材育成も進めてきた。こうした研究開発機能の強化により、上海 GM はハイブリッド車等の次世代技術の導入として成果をあげている。
つまり、中国という拠点は、GM にとって、最大の販売拠点、グローバル展開の中心拠点、研究開発拠点という三つの役割を担う重要な存在となっている。
【研究開発拠点の意味合い】
今回のニュースにある GM と上海汽車の共同開発の内容も、これまでの GM と上海汽車の研究開発面での連携という一連の取組みの延長線にあるものであろうが、その位置づけは、これまでと大きく踏み込んだものではないかと考えている。
研究開発機能といっても、当初は中国市場をターゲットにした商品開発が主目的であったはずであり、米国等の海外で開発・設計した車両を中国市場に投入していくにあたり、その現地化の役割を担っていたと考える。
2000年代後半から、次世代環境対応車等の開発にあたっても機能を強化しているが、これも将来に対する布石という意味合いであり、この分野で日系自動車メーカーに遅れをとっていた GM が、資金・人材面でも潤沢な上海汽車側との提携を進めたものだと想像する。
しかし、今回の提携の内容は、小型エンジンとそのパワートレインという、自動車市場における中心を担う領域におけるものである。勿論、中国の PATAC単独で取り組むわけではなく、米国デトロイト側の研究開発機能との連携という形になるとのことだが、単なる現地市場への適合や、将来への布石という周辺領域におけるものとは意味合いが大きく異なると考える。
【中国自動車メーカーの脅威】
これまで、ほとんどの日米欧の先進国自動車メーカーは、技術漏洩等への懸念もあり、パワートレインに関する領域で、現地市場への適合や生産という機能を超える部分での提携には踏み込んでこなかった。誤解を恐れずに言うならば、先進国市場でも通用するレベルのパワートレインを自社開発できるかどうかが、先進国メーカーと新興国メーカーの技術レベルにおける最大の違いであったとも考えている。
新興国メーカーにとっては、自国だけでなく、将来的なグローバル展開を考える上では、この技術領域が喉から手が出るほど欲しいものでもあったはずである。だからこそ、潤沢な資金を背景に、立ち行かなくなった先進国メーカーに出資参画することで、こうした技術力を取り込みたいという意向もあったと考えられ、これが昨今のM&Aにもつながっている。
そもそも、多くの部品の開発・設計・生産を部品メーカー等に依存している自動車メーカーにとって、自前での開発を中心に進めてきたこのパワートレインの開発・製造領域は、自身の存在意義の一つであるはずである。
そのパワートレイン領域での共同開発というのが今回の報道である。生産・販売台数、グローバル展開だけでなく、技術開発においても、GM は中国へ軸足を移してきているということだが、日系自動車メーカーにとっては、GM 以上に上海汽車の存在が脅威となる可能性がある。量だけでなく実力の面でも、中国自動車メーカーが、グローバル展開を進めてきた先進国メーカーと肩を並べるところまで着実に迫りつつある、と言えるであろう。
<本條 聡>