「生涯顧客満足最大化」の実現に向けたホンダの販売店強化施策

(ホンダ、人材育成専門のコンサルティング子会社を設立へ)

販売店の営業マン育成を担当する「ホンダコンサルティング」を7月中旬に 全額出資で設立する。資本金は1億円。ホンダ社内の人材に加え、販売店の 従業員や社員OBなどを招へいして約130人体制で始動、4年目には160人に 増強する。将来はホンダ系以外の販売店からの業務受注も狙う。

また9月1日付で国内の営業体制を一部変更する。各地区の販売店などを統括していた四輪地区営業部(6拠点)、パーツセンター(6拠点)、汎用営業所(9拠点)の計21拠点を廃止。本社に集約し、効率化する。

<2005年05月24日号掲載記事>
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本田技研工業は、2005年 9月に国内の自動車・汎用事業の営業現場強化を目的とした「高効率な事業体制の構築」、「販売網及び販売機能の強化」を軸とする新たな営業体制へ移行すると発表した。

新体制のもと、総合力を高め、先進の営業システムを構築し、ユーザーの「生涯顧客満足の最大化」を目指していきたいとしている。

(2005年5月23日本田技研工業プレスリリースより)

このたびホンダは、コンサルティング会社の立ち上げから組織変更など、複数の販売店向けサポート強化施策を同時並行で打ち出している。

本コラムでは、ホンダが打ち出す複数施策を以下の 3 つに分類することにより、個別施策の狙いを把握し、これを全体最適に関連付けることで「販売店強化施策」の全体を把握することとしたい。

1)人的資源の外部リソースを活用した育成
2)地域組織の機能組織への取り込み
3)地域担当者フィールドワークのITを活用した効率化

【人的資源の外部リソースを活用した育成】

一つ目は、販売現場の営業マンの人材育成を、これまでのホンダ本社営業部門の担当から 2005年 7月にホンダが設立する『ホンダコンサルティング』に移管するものである。

『ホンダコンサルティング』が販売店営業マンの育成を担う目的は、従来の教育システムではカバーが出来なかった営業マン個々の経験や能力に合わせて、効果的なコンサルティングを生涯に渡り断続的に行っていくことでスキルアップを実現することにある。

一般的には、営業マン研修は、入社年次や階層に合わせ定期的に行われているが、その内容はややもすると画一的、形式的に陥りがちとなり、実効性が伴わないという弊害が生じることもある。

ホンダコンサルティングは、外部の専門家をコンサルタントとして登用することで、従来の枠を取り払い、新たな視点や切り口で、人材教育のための専門プログラムを開発するものと思われる。

内部だけのリソースで人材育成に当たろうとすると、既存の発想から脱却出来ず、新たなノウハウの蓄積に繋がらない。外部の血を入れ、新たな「気づき」会の機を如何に創り出して行くかがポイントになるであろう。

【地域組織の機能組織への取り込み】

二つ目は、これまでの地域別営業部(北海道、東北、関東、中部、近畿、九州の 6 営業部)を本社営業部門に機能を集約、一元化するものである。

これは、本社の現場化を意味し、販売店との意思疎通をホットラインで結ぶことにより、多様化するユーザーニーズを素早く吸い上げ、市場の変化に迅速に対応していくものであると考えられる。

さらに、これまでの地区営業部の要であった販売領域のフィールドワーク機能、販売店とのコミュニケーション業務は、営業部門内に東西の営業部を設置し、販売店現場との連携強化を図るとしている。

従来の地域別営業部制度は、国内販売の強化を目的として、系列別の縦割り組織に地域別という横割を組み合わせたものであり、1993年 2月に導入されたものである。ところが、最新のホンダの製品ラインナップを見ると35車種のうち、高級セダンのインスパイア、最量販車種のフィット、ミニバン全車種が3 チャネル併売車種に設定されている。

つまり、地域営業部制を導入した当初目的であった 3 チャネル間での協業(具体的にはチャネルを跨る合同展示場、複合店舗開発など)の調整といった機能は、主要商品が併売になっていることから、あまり意味の無いものになりつつあり、本社へファンクションを集約するという方向転換をする決断は、当然の帰結であろう。

【地域担当者フィールドワークのITを活用した効率化】

三つ目は、これまでの販売店へのフォロー体制の変革である。

従来、各地区営業部の地区担当者は販売店へホンダ営業施策の説明や情報収集などのフィールドワークを行う際に、個別の地域別拠点から販売店に赴き、その後地域別拠点に戻るという動きをしていた。

つまりこれまでは、地域拠点を Hub、販売店を Spoke の先と見なすとすれば、Hub & Spoke の形であった。ホンダでは、これを担当者の地域在住による直行直帰型フィールドワーク=Network 型へと変革する。

本社から各地域や地域間の情報の共有を IT の最大活用を進めることで、本社と販売現場が密着し、スピーディでより効率的なフィールドワークを推し進めていく。

この担当地域在住による直行直帰型フィールドワークは、これまでの各地区営業部から販売店への移動時間の低減をもたらす効果に加えて、販売現場と地区担当者とのより高い一体感を醸成する業界でも初めての試みとして、注目される施策である。

こうした 3 つの施策は、人的資源養成への外部レバレッジ活用→営業担当部署個々人のレベルアップ→販売体制の本社一元集中管理とファンクション軸との掛け合わせによるメーカー施策の地域営業部までの浸透向上→現場での IT 活用によるネットワーク型フィールドワークの実現と、全てが関連している、整合性のある行動である。

これに加えホンダでは、これまでの地域営業部に所属していた臨店指導員制度を廃止し、地場の中小規模の販売店を中心に、営業、サービス、マネジメントの更なる向上を図るために、実務経験豊富なホンダ本社の営業部長クラスを120 名を経営者として、派遣することも決定しているそうだ。

これによりメーカー施策を販売店へ更に浸透させるとともに、現場の情報をしっかり本社に吸い上げていくことを考えているのであろう。

こうした一連のプロセスの中で、我々は人材育成が最重要課題であると考えている。ホンダが掲げる「生涯顧客満足の最大化」の実現には、顧客とフロントで接している営業マンの資質を抜きにしては語れないからである。

このことは、我々住商アビーム自動車総合研究所の母体であるアビームコンサルティングが人的経営資源を組織設計やモチベーション面から最大化を重視していること、更には住友商事が長年海外でディーラー経営を営む過程で現場を最重視していることと同じ方向性でもある。

<寺澤 寧史>