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国内自動車メーカー各社、車内の“空気の質”を高める動き
空気清浄機や除菌イオンのエアコン、アロマオイル、カテキンフィルター…
<2005年04月11日号掲載記事>
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自動車メーカー各社の中で、車内の空気の質を高めるための動きがにわかに広がっている。
自動車メーカー各社は、従来の自動車の走行性能、安全性能、燃費性能などでの品質向上は勿論のこと、車内の空気の質を高め、くつろぎの空間を提供することで、他社との差別化を図ろうとしている。
> 【各社の取り組み事例】
1.トヨタ自動車
2005年 2月に全面改良した小型車ヴィッツの 4 グレードにスイッチ操作によって、顔回りの花粉を素早く減少させることができる、世界初の花粉除去モード付オートエアコンを採用。シャープが開発したプラズマクラスター(除菌イオン)技術も取り入れられており、浮遊カビ菌、においを抑制する機能を保有、車内の快適空間を実現している。
2.日産自動車
2003年7月に主力小型車マーチに自動車業界として初めて、除菌とイオンコントロール効果のあるプラズマクラスターイオンTMエアコンをオプション設定した。クリーンモードとイオンコントロールモードによって、車内のイオンバランスを森林や滝の周辺の自然に近い状態に整えることで、快適で健康的な車内空間を実現。2004年4月のマイナーチェンジで標準装備とするとともに、逐次搭載車種を拡大、現在では小型車から大型車のフーガまで幅広い車種に搭載されている。
3.富士重工業
富士重工業は、車内で快適に過ごすことを主眼に、スバルR2のために4種類のアロマオイルを開発した。これは、ディフューザーの頭にパッドが装着できるようになっている。このパッドの部分にアロマオイルを一滴垂らし、インパネアクセサリーソケットに差し込む。パッドが温まると、アロマオイルの香りが車内に広がり、気分を癒してくれるというもの。
その他、ダイハツやスズキも軽自動車に類似の装備を設定しており、車内の快適性をアピールしている。
【自動車メーカーが販売しているのは、もはや移動手段としての自動車ではない】
自動車メーカーがユーザーに提供している価値は何であろうか。
昔、初めて自動車というものが世の中に登場した頃、ユーザーは今までの自分の移動範囲を広げる手段としての価値を自動車に見出していた。しかし、各社が自動車という製品の基本性能を一定レベルで確保した現在、ユーザーにとって「自動車が動く」ということは、価値以前の前提条件として織り込まれてしまっている。
即ち、現在の自動車メーカーはただ単なる移動の手段としての車を売っているのではなく、ユーザーがいかに「心地よく」、「快適に」、過せる空間と時間を販売提供しているのだと言えるのではないか。
以下は、これまで自動車メーカー各社が「車に乗って心地よい空間と時間」をどのように提供しようと模索してきたかを、「空間価値」というキーワードで説明した後、同価値の総和を計算するうえで重要なファクターである、車内という空間を消費した時間の測定という手法で説明してみたい。
【空間価値を高める各種施策】
空間価値(ユーザーが車に乗っていることによる満足感)を高める道具としては、例えば 1)シート、2)音響、3)エンターテイメント(カーナビ)の 3つがあげられる。
1)シート
車内でゆったりと寛ぎ、心地よい気分に浸るために必須の道具。
座った瞬間の柔らかさやしっかりと体を包み込んでくれるホールド性があり長時間運転しても疲労感が少ない構造のものが増えてきている。
最近の成功事例として、日産自動車のティーダがあげられよう。
コンパクトカーでありながら、上質のインテリアと大きめのシートを実現し、室内空間はシーマと同等の広さを確保するなどの仕上がりで、発売以来月間販売台数1万台を維持するヒット車種となっている。
Compact meets luxuryがキャッチフレーズであるが、日産自動車のプレスリリースには、このように紹介されている。
高級なインテリアとクラスを超えた居住性、高い走行性能である。
インテリアは、ソフトな素材をふんだんに使うとともに、素材同士を質感を損うことなく組み合わせることで高い品質感を実現した。また、後席ロングスライド機構により、ゆったりと足が伸ばせる広い室内と積載性の高い荷室の両立を可能とした。
(日産自動車 プレスリリースより)
2)音響
ユーザーが車内で自分の好みの音楽を楽しむオーディオ装備も充実している。
CDプレーヤー、MDプレーヤーは標準装備の車が増え、一部車種にはDVDプレヤーやナビ付AVシステムも搭載され始めている。
スピーカーも2スピーカーから4スピーカー、6スピーカーまでと好みに合わせた選択が可能となっており、自分の世界を満喫することが可能となっている。
3)エンターテイメント(カーナビ)
カーナビの利用で道路不案内の場所を運転する時の心理的不安や渋滞時のイライラを解消するのに役立つほか、目的地までの到着時間の目安が分かるなど、運転者に安心感を与える働きをしている。また、最近ではHDDナビも増えてきており、車内で自分の好きなジャンルのDVD再生が楽しめるようになっている。
一方で、トヨタの「G-BOOK」、日産自動車の「カーウィングス」、ホンダの「インターナビ」に代表されるテレマティスクス技術を使った自動車通信サービスも立ち上がってきている。24時間年中無休のオペレーターサービス、各種エンターテイメント情報、車内でメール受信、通信カラオケが可能など運転者のニーズに合わせた快適な空間が提供されているのである。
こうした流れの一つとして登場したのが、今回の記事である「香り、綺麗な空気、花粉・ほこりの除去などの技術、イクイップメントである。
【車内で過ごす時間の推移】
それでは、ユーザーが車で過ごす時間はどのように変化しているのであろうか。
日本自動車工業会の平成 16年度「乗用車市場動向調査」によれば、この 10年の月間走行距離は、平成 5年 490km から平成 15年 430km と 12.2 %減少している。
空間価値の総和は車内で費やす時間により算出されると考えられるが、現実には車内で費やす時間の短縮を自動車メーカーがコントロールすることは難しい。
しかし、これを男女別に見てみると、
. 平成5年 平成15年
. 月間走行距離 月間走行距離 増減
男性ドライバー 603km 510km -15.4%
女性ドライバー 377km 351km - 6.9%
女性ドライバーの運転時間は男性の半分しか落ち込んでいないのが分かる。
【運転免許保有者増加率でも】
更に、ここ 10年の運転免許保有者数の動向を見ると、女性の運転免許保有者増加率は 30 %の伸びを示しているのに対して、男性の同増加率は 13 %にとどまっている。
また、日本自動車工業会の同調査によれば、男性の車保有率が 5 %の伸びにとどまっているのに対し、女性では 69 %から 78 % へと 9 % の伸びを記録している。
とりわけ、注目されるのが女性の主運転者化が拡大してきたことである。女性ドライバー全体で、主運転者率は 55 %から 66 %に増えてきている。因みに、男性ドライバーの主運転者率は 79 %から 81 %と微増にとどまっている。
これらの女性の過半は、モデル、オプション・装備に至るまで自らが購入決定していることが、この調査で明らかになっている。
【空間価値提供に注力することは、女性ユーザーにアピールすることに繋がる】
右肩上がりの需要増が期待できない時代に、男女という 2 つのセグメントに分けたとき、今後注力すべきターゲットが女性であることは間違いない。
日本自動車工業会の乗用車市場動向調査によるアンケートからは、「家族揃ってのレジャー使用」、「室内全体のゆとり」、「荷室の広さ」など空間に対して重視する姿勢が見て取れ、とりわけ女性にその傾向が顕著であることが分かる。
また、男性は高性能エンジン、運転することでの爽快感など車の基本性能である走りを重視している。
空間価値提供に注力することは、女性ユーザーにとって実にアピーリングなことなのである。
. 男性ユーザー 女性ユーザー
着座位置の高さ(視界の高さ) 61%(55%) 81%(57%)
頭上のゆとり(室内高の高さ) 66%(55%) 72%(53%)
荷室のスペースの広さ 74%(61%) 78%(53%)
後席のゆとり 59%(53%) 63%(49%)
室内全体のゆとり 82%(67%) 81%(48%)
高性能エンジンのスポーティな車 53%(22%) 22%(34%)
運転することに爽快感を感じる車 75%(82%) 68%(67%)
※平成15年データ、( )内は平成7年データ
【終りに】
これまで見てきたように、この 10年で女性の車保有状況は大きく変化している。
その変化を捉えた自動車メーカーが女性をターゲットに商品開発を進めるのは自然の流れといえよう。
車内のゆとりを重視する女性にとって、ゆとり空間の質を高めようとする自動車メーカーの試みは歓迎されるはずである。
においや香りに敏感な女性にとっては、ドアを開けた瞬間に立ち昇る嫌なにおいがしなくなることだけでも車への愛着が高まることにもなろう。
<寺澤 寧史>