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アフターマーケットの成功者たち(4)『アガスタ』
国内製造業の屋台骨たる自動車産業。国内 11 社の自動車メーカーの動向は毎日紙面を賑わしている。
しかし、消費者にとって、より身近な存在であるはずの自動車流通業界のプレーヤーについては、あまり多く知られていないのも事実である。
群雄割拠の国内の自動車流通・サービス市場において活躍する会社・人物を、この業界に精通する第一人者として業界内外で知られる寺澤寧史が、知られざる事実とともに紹介する。
第4回は、中古車輸出業の新興勢力、アガスタを紹介する。
第4回『アガスタ』
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市場参入企業数1千社ある中で、創業わずか7年にして、2004年 7月に東証マザーズに上場した企業をご存知であろうか。
その回答は、今回ご登場頂く松崎みさ社長率いる『アガスタ』である。
中古車輸出業界の上場企業といえば、2003年 12月にマザーズ上場のアップルインターナショナルとこのアガスタの 2 社のみである。
そうはいっても中古車輸出業界のことは、よく分からないというのが多くの読者の実感ではないだろうか。
自動車関連事業の中でも非常にニッチな市場であり、これまで注目もされてこなかった中古車輸出事業にスポットを浴びる役割を果たしているアガスタとは、どんな企業なのか、その生い立ちとともに眺めてみたい。
今回ご紹介するアガスタは、東京都港区三田に本社を構え、従業員数 24 名の中古車輸出事業者である。
松崎みさ社長は、大学卒業後、モベラ(ベンチャーリンクの子会社)に入社し、コンサルタントとして担当したのが、中古車買取事業のガリバーインターナショナルの FC チェーン立上げ事業であった。
この中古車買取り FC 事業を担当者として進めていくうちに、「日本の中古車は品質、性能も総じていいのに、年式、走行距離だけで査定が付かず、廃車処分される車がなんでこんなに多いのだろう」と疑問に思ったのだという。
そこで、思い出したのが幼少の頃に見た南アフリカで走っているオンボロの自動車のことであったという。「これらの車をここに持っていけば売れるはず。間違いはない。」即断であった。
松崎みさ氏の父は商社マンで、発展途上国での生活経験があり、現地でオンボロの自動車が多く走っていることを目の当たりにしていた。
この幼少期に見聞したことは、松崎みさ社長には強烈な印象を与えていたようで大きくなったら世界を相手に仕事がしたいと心に決めていたのだという。
モベラを4年で辞めた松崎みさ氏は、1997年 6月に自宅であった浦安のマンションで有限会社アガスタを設立したのであった。
アガスタ設立 4 ヵ月後には、右腕となる田中郁恵氏をパートナーとして迎え入れたのであった。この田中郁恵氏はベンチャーリンクの親会社の日本エル・シー ・ エー出身であり、旧知の間柄であったのだろう。
翌 1998年 11月本社を港区芝に移転、12月に株式会社化を行うとともに、業容の拡大とともに元麻布、そして現在の三田と本社の移転を行っている。
松崎みさ社長は、アガスタ設立当時から、中古車雑誌、ビジネス誌、女性誌と様々なメディアで取り上げられている。当初は 26 歳という若さや女性社長ということで興味本位で取り上げるものが多かったが、現在はアガスタモデルと呼ばれるビジネスモデルを開発し、成功している経営者として紹介されているケースが殆どである。
それでは、アガスタモデルとは一体何を指しているのか簡単に説明しておこう。
これまでの中古車輸出事業者の多くは、現車主義(実際に車両を見て売買する)に立脚しており、あらかじめ輸出用に自社在庫を所有し、海外の中古車販売業者の希望車種に照合して取引を成立させるというスタイルが主流であった。
このため中古車輸出業者では、在庫資金負担が大きく大量の中古車仕入が困難であり、自社在庫と希望車種とのミスマッチによる販売機会損失や長期在庫リスクが生じ、総じて小規模経営を余儀なくされてきたといえる。
アガスタでは設立当初より、この流通に疑念を抱き、この問題解決に際して逆手の手法を取り入れることで、在庫負担リスクの最小化と売上の最大化を図ったモデルであるといえよう。
つまりアガスタの中古車輸出取引の仕組みは以下のようになる。
<アガスタの中古車輸出取引フロー>
国内の「売りたい中古車情報」収集
↓
海外の中古車販売業者に中古車情報提供
(ファックス、インターネット)
↓
中古車購入希望確認
↓
国内中古車販売業者との間で仕入れ交渉
↓
海外中古車販売業者/国内中古車販売業者と
個別に販売・仕入契約締結
↓
車両運搬・検査・通関業務委託
↓
船積み
図式化すると非常にシンプルな仕組みを採用していることが分かる。
中古車輸出事業への参入障壁は低く、新規参入企業や既存事業者が同様の事業モデルを用いて競合する可能性も否定できず、経営基盤の拡充のためには、仕入先との信頼関係強化や販売先への付加価値の提供が不可欠となる。
アガスタでは、国内中古車販売業者から提供される査定票が付いた画像情報を海外中古車販売業者向けに独自評価シートを提供することで海外バイヤーからの信頼を勝ち得ているのである。
さて、そもそも社名のアガスタは、どのような由来なのであろうか。
松崎みさ社長曰く、企業の成長が、創成期、成長期、成熟期の段階を経る「人生」があるように、企業とそれにかかわる全ての人々が「星」のようにきらきらと輝く存在でありたい「Age Like a Star」からつけたのだという。
現在、アガスタはアジア、オセアニア、ヨーロッパなど 16 カ国、約 300 社と取引を行っており、2005年度中には新規国と100社程度の取引も開始する見込で取引先は 400 社程度まで拡大する方針であるという。
さらに業績面では、04年 6月期の売上高 45 億円、経常利益 1.5 億円、当期純利益 0.8 億円、今期は売上高 65 億円、経常利益 2.2 億円、当期純利益 1.3 億円と順調な成長を見込んでいる。
しかしながら、中古車輸出事業者全般の問題として、急増する中古車輸出に対して新車輸出が旺盛なため、自動車運搬専用船の船腹確保が厳しいと聞き及んでいる。
アガスタとて例外ではなく、恒常的な船腹確保が喫緊の課題でもある。
この問題を解決できなければ、売上計上基準を船積基準としている同社としては、業績にも微妙な影を落とすことになろう。
直近の株価は 30 万円前後で下振れ推移しており、株主から厳しい声も寄せられている。株主の期待に応えるためにも、アガスタモデルをさらにブラッシュアップして業績で示すことが必要となろう。同社の次の一手が楽しみである。
<寺澤 寧史>