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「エコカー減税」の効果と影響
◆直嶋正行経産相、エコカー減税とエコポイント制度の廃止を示唆
再任後に初登庁した際の記者会見で、エコカー減税とエコポイント制度の廃止について、「減税にはエコ商品普及と景気対策の2つの意味がある。景気の状況を見ながら(廃止を)もう少し先に判断する」、「次世代自動車やエコ家電普及をどうするか、国として考えなければならない」と述べ、景況が急激に悪化しなければ廃止する考えを示唆した。
<2010年06月10日号掲載記事>
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【エコカー減税とエコカー購入補助金】
先週、菅新内閣が発足し、再任された直嶋経産相は、冒頭の通り、景況が急激に悪化しない限りは、「エコカー減税」を再延長しない考えを示したと報道されている。
そもそもこの「エコカー減税」であるが、以下二つが混同されているケースが多く、今回直嶋経産相が言及したものも、後者のエコカー購入補助金の延期に関する問題のことであろう。
(1)エコカー減税
車両重量と燃費性能の組合せで一定基準を満たした新車を購入した場合に、自動車取得税・重量税を減免する制度。
100 %免除、75 %免除、50 %免除の三段階があり、ハイブリッド車や電気自動車は 100 %免除の対象となっている。
元々数年前から環境性能に優れる車両への優遇減税制度は存在していたが、現在「エコカー減税」と呼ばれているものは2009年4月から導入された制度・税率を指すことが多い。現在の内容は、2012年 3月末までの登録が対象となっている。
(2)エコカー購入補助金
燃費性能で一定基準を満たした新車を購入する際の補助金制度。特に、車齢13年以上経過した車を廃車にして購入する場合には、最大 25 万円の補助が得られるというもの。
当初、2010年 3月末までの登録が対象となっていたが、2010年 9月末まで 6ヶ月延長となっている。
両制度の詳細については、昨年 5月に配信した以下記事にあるので、詳しくはこちらを参照して欲しい。
元々、この両制度は、昨年の政権交代前、自民党時代の施策である。昨年総選挙前に民主党は、ガソリン税や自動車取得税、重量税等の暫定税率撤廃を掲げていたが、財源の問題もあり、安易に実現可能な状況にはないのが現状である。こうした中、政府が掲げる低炭素社会実現や景気対策に向けた施策として、自民党時代の施策であるエコカー減税・購入補助金を継続、延長してきたのであろう。
昨今、政治家の発言の重みが薄れつつあることもあり、政治家のコメントを鵜呑みにして動くリスクもあることは理解しているが、大局としては、景気状況が急激に悪化しなければ、この購入補助金制度は廃止となる方向性であると考え、自動車業界としては、今後の戦略を考えていく必要があるはずである。
今回は、一連のエコカー減税・購入補助金制度のもたらした効果と、その終了後に想定されうる業界への影響について、考えてみたい。
【販売台数の押し上げ】
エコカー減税は 2009年 4月に導入されたものの、同 4月、5月は、前年同期比割れと低調なスタートであり、実質的な効果が生まれたのは、エコカー購入補助金の運用がスタートした同 6月以降である。
この二つの制度を活用することで、例えばプリウスやインサイトを購入する際に、最大約 40 万円も優遇を得られることとなった。
2009年の国内の新車販売台数(登録車)は、上期は前年比 26 %減の 約 130万台となったものの、下期は同 12 %増の約 162 万台と回復し、通年では、同9 %減の約 292 万台となった。仮に、両制度が導入されず、下期についても上期同様水準で低迷したとすれば、通年では約 240 万台程度となった可能性があり、50 万台程度の押し上げ効果があったと考えることができる。
一方で、助成金額が登録車よりも少なく設定されていた軽自動車は、両制度導入後も回復基調が見られず、2009年の新車販売台数は前年比 10 %減の約 169万台となっている。
【対象車の拡大と消費者の変化】
自動車工業会の発表によると、2009年度の国内新車販売台数(登録車・軽自動車)のうち、エコカー減税対象車が約 65 %を占めたという。4月以降、毎月増加傾向にあり、2010年 3月分では約 74 %となっている。対象車種の増加と消費者側の認知の拡大の両面から、確実に普及につながっていると考える。
自動車メーカー各社は、モデルチェンジや仕様変更等により対象車種を増やしてきた。この対象車種の増加には、燃費性能向上によるものと、車両重量の調整によるものがあると考えられる。
本来であれば、技術開発等により燃費性能を向上させ、その技術を反映させた新型車の投入や既存車の仕様変更等により、エコカー減税対象車種を増やしていくことが期待されており、実際、こうした取組みに携わった関係者の皆様の努力には敬意を表したい。
ただ、中には、燃費性能と車両重量の組み合せで決まる基準上の問題により、オプション等を追加して車両重量を増やすと実質的な燃費は悪化しているはずなのに減税対象車となるケースが発生するなど、本来の主旨から逸脱した側面があることは否めない。特に今年に入ってから、輸入車もエコカー減税の対象となったことで、燃費がそれほど良くない大型 SUV まで対象となったことに違和感を感じている読者も少なくないはずである。これは、明らかに制度設計の問題なので、燃費性能の絶対値で基準を設ける等、改善してもらいたいところでもある。
一方で、この 1年で「エコカー」そのものに対する消費者の認知度や、エコカーを選択しようという意識そのものは、大きく向上したと感じている。
自動車メーカー各社が、TV の CM を中心としたプロモーション活動において、エコカー減税対象車というポイントやキャンペーン等を全面的にアピールするようになったこともあり、「エコカー=お買い得」というイメージの醸成につながったと考える。また、様々な業界で取り組む環境対策面での取り組みや、家電製品等へのエコポイント制度の波及効果など、自動車業界だけでなく、社会全体としての流れも消費者の認知度・意識向上につながっているのであろう。
こうした消費者側の変化という点でも、一連の制度が与えた効果は、今後の自動車業界にも大きく影響を及ぼすものになると考える。
【制度終了がもたらすもの】
当初は 2010年 3月末までの予定であったエコカー購入補助金は、6 ヶ月の期限延長となり、2010年 9月までとなった。が、前述の通り、再延長は期待しにくい状況にある。
そもそも、こうした購入補助金制度は、将来需要を先食いする性質のものであり、制度が終了すると、しばらく需要が低迷する傾向にある。実際、既にドイツなど、同様のスクラップインセンティブ制度が終了した市場では、販売が急激に減少してしまっている。こうした状況に陥ると、販売現場では自前の資金で値引き対応して客足を呼び戻す方向に走ることが予想される。新車販売への注力度を見直していかなければ、現場の疲弊感が制度導入前よりも高まることもあるだろう。
自動車メーカーとしても、こうした事態を想定し、補助金制度終了後に備えて、新型車の投入やキャンペーンの実施、販売インセンティブの確保等、いくつかの施策を用意し、衝撃を緩和すべく準備を進めることになるであろう。しかし、こうした短期的な施策に留まらず、中長期的には、販売網再編等、縮小均衡した市場に合わせた体制への移行を進める機運が高まると考える。リーマンショック前まで、自動車メーカー各社は、国内市場の販売網再編を進める流れにあったが、より踏み込んだ対応を迫られる可能性がある。
同時に、自動車メーカー各社は、国内市場だけでなく、世界各国の制度終了の動きへ対応していく必要がある。全ての市場に手厚い緩和策を打つ余裕はないことも想定され、改めて、グローバル規模で取捨選択を問われることにもなるだろう。こうした動きが、昨今の緩やかな提携関係を加速させることも考えられる。
いずれにしても、車種ラインナップ、消費者志向の両面でエコカーの存在感が高まった中で、こうしたインセンティブ制度が終了を迎えるということが及ぼす影響は、販売台数減少だけでは留まらないであろう。自動車業界としても、覚悟を持って、想定されうる事態に臨む必要があると考える。
<本條 聡>