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不透明な外部環境に対応する柔軟性
◆自動車大手8社の連結決算、全社が営業黒字
営業損益は2009年3月期に赤字に陥っていた4社を含め全社が黒字を確保。2011年3月期も全社が増益を見込む。堅調な新興国需要や各社のコスト削減の取り組みが寄与したが、依然厳しい事業環境にある模様。
<2010年05月12日号掲載記事>
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【営業黒字化した各社の業績】
今月、自動車メーカー大手各社の 2010年 3月期決算の業績情報が出揃った。国内上場 10 社の営業利益が黒字となったこともあり、08年のリーマンショック以降の危機的状況から回復基調にあるとの報道もあった。しかしながら、多くの読者も肌身で感じられている通り、決して楽観的な経済環境ではないと考えるべきであろう。
今回は、トヨタ、ホンダ、日産の国内大手三社の発表した 10年 3月期の決算情報と 11年 3月期の業績見通しを見ながら、今年の自動車業界を取り巻く環境を考えてみたい。
【収益性改善による業績回復】
トヨタ、ホンダ、日産の 10年 3月期の決算情報のうち、売上高、営業利益と売上台数をまとめると以下の通りとなっている。
(1)トヨタ
09年 3月期は 4,610 億円の営業赤字となり、当時 10年 3月期は 8,500 億円の赤字を見込んでいたが、黒字に転換。緊急収益改善効果が当初見込みの 2 倍に相当する 16,900 億円に達したとのことによるものという。
売上高 189,509 億円(前年比 7.7 %減)
営業利益 上期 ▲1,368 億円
下期 2,843 億円
通期 1,475 億円(営業利益率 0.8 %)
売上台数 723 万台(前年比 4.4 %減)
(2)ホンダ
09年 3月期も二輪事業が下支えした結果、営業赤字を回避していたが、10年3月期は大幅増益に転じた。
売上高 85,791 億円(前年比 14.3 %減)
営業利益 上期 907 億円
下期 2,730 億円
通期 3,637 億円(営業利益率 4.2 %)
売上台数 339 万台(前年比 3.6 %減)
(3)日産
09年 3月期は営業赤字であったが、10年 3月期は 4,000 億円以上改善し、黒字に転換。特にルノーとのアライアンス効果により、購買コストの改善が 2,000 億円以上に達したという。
売上高 75,173 億円(前年比 10.9 %減)
営業利益 上期 948 億円
下期 2,168 億円
通期 3,116 億円(営業利益率 4.1 %)
売上台数 351 万台(前年比 3.0 %減)
三社とも、売上高自体は前期よりも減少しており、原価低減や固定費圧縮等、内部の収益性改善に向けた成果として増益となっていると考えられ、各社経営陣のコメントも、それぞれ内部努力によるところを理由に挙げている。
また、営業利益率を見ると、トヨタが 0.8 %と低迷しているのに対し、ホンダ、日産は共に 4 %を超えており、収益体質の改善が進んでいることがわかる。
いずれにしても、08年のリーマンショック以降、急激に悪化した市場に対応するために、経営陣のみならず、全社員が危機感を共有し、一丸となって対応してきたことが今回の決算につながったのであろう。
【販売拡大を目指す各社】
この 11年 3月期の目標としては、三社とも売上高、営業利益、販売台数全てにおいて拡大を目指している。
(1)トヨタ
売上高 192,000 億円(前期比 1.3 %増)
営業利益 2,800 億円(前期比 89.8 %増)
営業利益率 1.5 % (前期比 0.7ポイント増)
売上台数 729 万台(前期比 0.7 %増)
(2)ホンダ
売上高 93,400 億円(前期比 8.9 %増)
営業利益 4,000 億円(前期比 10.0 %増)
営業利益率 4.3 % (前期比 0.1ポイント増)
売上台数 361 万台(前期比 6.6 %増)
(3)日産
売上高 82,000 億円(前期比 8.9 %増)
営業利益 4,000 億円(前期比 10.0 %増)
営業利益率 4.3 % (前期比 0.2ポイント増)
売上台数 361 万台(前期比 6.6 %増)
前期同様に原価低減や固定費圧縮等の内部努力にも取り組むことになるだろうが、これだけで前期以上の成果を期待することは難しいであろう。
当然、販売面での拡大を目指していかねばならないが、日本、欧州といった先進国市場では、エコカー減税に代表される各国政府からの支援制度が徐々に終了を向かえる可能性が高く、前期以上の販売台数を期待しにくい。
今期の業績達成に向けた鍵を握ることになるのが、回復が期待される北米市場と、成長を継続する中国に代表される新興市場である。しかしながら、国内メーカー各社が同様に考えているだけでなく、回復基調にある北米メーカーや成長著しい中国地場メーカー等も同様に販売拡大を狙っており、市場競争は前期以上に厳しくなることが予想される。
こうした中、目標通りの販売拡大を達成するためには、販売インセンティブの増加を余儀なくされる可能性も高く、収益体質の改善との両立といった難しい舵取りを要求されることになる。ホンダ、日産の営業利益率が前年比微増に留まるのも、原価低減や固定費圧縮等を今年は進められないというのではなく、こうした販売面でのコスト増も見込んでのことではないかと類推する。いずれにしても、全ての成長市場で攻めるのではなく、ここは攻めるがここは守る、といった柔軟な販売戦略が必要になるであろう。
【外部環境に対応する柔軟性】
一方で、今期については、依然不透明な外部環境も懸念材料となっている。特に、原材料コストと為替変動は大きな悩みの種であろう。
鉄鋼メーカーからは鋼材価格の値上げ要請を受けており、コスト増は避けられない状況にある。一方で、欧州の経済情勢不安に伴い、円高傾向は引き続き維持されるだけでなく、新たなグローバル経済情勢の悪化も懸念される。
こうした厳しい状況の中で収益体質を改善しながら成長するための戦略として、現在、緩やかな連携の加速とグローバル生産拠点の最適化という二つの方向性に向って進みつつあると感じている。
ハイブリッド車、電気自動車等の次世代自動車に代表される環境技術の研究開発も継続していく必要があるが、自前で全てをカバーすることを考えてもリソースに限界もあるし、これまで見てきた通り、どこの会社も少しでもコスト削減を進めたいという状況にある。昨年末のスズキ・独 VW の提携以来、グローバル展開する自動車メーカー同士の緩やかな連携という形が一つのトレンドになってきているが、今後も資本関係に関らず、事業上のリソースを補完する形の提携が進むと考えられ、内容によってその提携関係を使い分けられる柔軟な関係を維持する必要があろう。
もう一つの流れが、グローバル規模での生産拠点の再配置である。これまで世界全体で拡大してきた自動車市場に対応するために展開してきた生産拠点であるが、現在の市場規模とミスマッチが起こっていることが稼働率低迷にもつながっている。これまでの 10年間は市場の多様化に対応するために多品種少量生産を実現可能な柔軟性が追求されてきたが、グローバル規模で需要が変動する市場に対応していくために、生産ラインだけでなく、ロジスティクスを含めた生産拠点そのものの柔軟性を高めていくことが求められている。
不透明な外部環境に対応しながら収益体質を改善していくことが求められる今年は、販売、開発、生産、それぞれの局面において、戦略の柔軟性を保つことが一つのキーワードとなりそうである。
<本條 聡>