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異業種に学ぶ知覚価値ベースの成長戦略
◆ガソリンスタンドが地域のリサイクル拠点に
<2006年 7月 27日号掲載記事>
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【ガソリンスタンドがバイオ燃料を販売】
滋賀県にあるガソリンスタンド(油藤商事)がバイオ燃料を販売するという。
料理等で使用済みの植物油から、二酸化炭素の発生を抑制できるとされるバイオディーゼル燃料を製造、販売する取り組みを進めている。廃食油を地域の企業や家庭から回収し、バイオ燃料を製造、販売するガソリンスタンドは全国唯一といい、地域に根付いた活動を学ぼうと問い合わせが相次いでいるとのことである。
バイオディーゼル燃料は植物油(料理油)の廃油にメチルアルコールと、水酸化カリウムを規定量投入後いくつかの工程を経て精製され、出来上がったバイオディーゼル燃料は軽油に 20% 混合し販売している。通常のディーゼルエンジン車両に改造無しで給油でき、環境問題に配慮した地域の公共車両(バス、福祉車両など)や配達業者などがバイオディーゼル燃料の使用を既に始めている。
油藤商事は自社の敷地内に精製プラントを所有しており、廃食油の回収は近所の人の持込みや地域企業からの収集が基本である。油藤商事では廃食油の回収の他にも牛乳パック、アルミ缶、ペットボトル等の資源ゴミ回収を行っており、地域の資源ゴミ回収ステーション=エコロジーステーションを目指しているとのことである。
【事業の成長戦略を位置付ける】
企業が自社の成長戦略の方向性を確認する際にアンゾフの成長マトリックスが用いられることが多い。この成長マトリックスは縦軸に市場、横軸に商品という 2 軸を取り、それぞれを既存と新規に 2分し 4 つの象限に分類するものである。
●市場浸透戦略 (市場:既存/商品:既存)
既存の商品を使って既存の市場で成長する戦略。言い換えるなら「QCD 向上戦略」である。生産性改善によりコスト競争力を高めて価格競争で優位に立ったサウスウエスト航空や、納品時間指定を可能にして顧客満足度で競争力を高めたヤマト運輸等が有名である。
●新商品開発戦略 (市場:既存/商品:新規)
既存市場に新商品を投入する戦略。別の言葉で言えば「マーチャンダイジング戦略」である。品揃えの幅を広げて得意客にもう一品買ってもらい、客単価を上げようとするもの。例えばユニクロが高機能素材を使った DRY アイテムを展開したり、ミスタードーナッツが飲茶を商品ラインアップに加えたりすることである。
●新市場開拓戦略 (市場:新規/商品:既存)
既存の商品を新市場に投入する戦略。「広域化戦略」とも言える。客単価は変わらないが顧客数を増やすことで売上を伸ばそうとするもの。例えばスターバックスは都市から中堅都市、地方へと多店舗化を進めている。自動車産業の多くが取り組んでいるグローバル化戦略もこれにあたる。
●多角化戦略 (市場:新規/商品:新規)
新市場に新商品を投入する。「ベンチャー戦略」と翻訳できる。未知・未経験のチャレンジだけにリスクは高いが、未開拓・無競争の世界なので大きな創業者利益を取れる可能性もある。多くのベンチャー企業が取る戦略で弊社はこれを支援している。
この古典的な 4 つの成長戦略に加えて昨今では新たに 2 つの成長戦略が出現してきているように見受けられる。「革新的アプリケーション開発戦略」と「革新的プラットフォーム開発戦略」の 2 つである。
前者は「マーチャンダイジング戦略」の延長線上にある「複合化戦略」の ひとつだが、単なる品揃えの強化に留まらない。既存のプラットフォームの上に従来なら考えもよらなかったようなサービスやファンクションを乗せて得意客に新たな財布を開かせようとするものである。
後者は「広域化戦略」の延長線上にある「高度化戦略」のひとつだが、同じ顧客層を面で取り込むのではなく、従来とは全く異なる顧客層向けに新たなプラットフォームを開発し、若干趣きを変えた従来型の商品を売っていこうというものである。
冒頭に紹介した油藤商事の取組みを上記 6 つの成長戦略に照らし合わせると「革新的プラットフォーム開発戦略」に位置付けられるであろう。既存の給油客についで買いを誘うものではないから「複合化」の方向ではなく、面的拡張を伴うものではないから「広域化戦略」でもない。ガソリンスタンドというプラットフォームを地域のエコロジーステーションに抜本的に作り変えることで新たな顧客層をつかもうとするものである。
【ガソリンスタンド業界の成長戦略】
全ての産業・市場は成長と停滞を繰り返していくものであるが、ガソリンスタンド業界は現在、苦境に立たされているようである。
国内のガソリンスタンドは’93年度の約 60,000 拠点をピークに減少を続けており、’03年度には 51,294 拠点、’05年度では 47,584 拠点となっている。この背景は’96年 4月に規制が緩和され、異業種からの参入が活発化し価格競争が激化したことによるものであり、その結果、閉鎖・撤退する店舗が増加した。
そこで多くのガソリンスタンドが価格競争から脱するための新たな成長戦略として、給油に付帯する事業=油外ビジネスを強化した。カー用品販売や整備点検等をガソリンスタンドで提供することにより、客当たりの単価をアップする戦略である。つまり「マーチャンダイジング戦略」を取ったのである。
石油元売各社も油外ビジネスの拡大をバックアップしている。新日本石油の「ドクタードライブ」、出光興産の「クルマーク」、コスモ石油の「オートビークル」など国家資格整備士を育成して、車検・点検から日常点検や洗車などガソリンスタンドの「マーチャンダイジング戦略」を支援しようとするものである。だが、少なくとも今のところこの戦略は必ずしも成功しているとは言えないようである。
矢野経済研究所のレポートによると、車検サービスの利用業態でクルマを購入したディーラーや整備工場以外に次回車検を依頼したい業態は、車検チェーン 20%、カー用品店 13%、ガソリンスタンド 12%、その他 7% となっている。ユーザーにとっては自動車の使用過程で最も身近な存在のはずのガソリンスタンドが「その他大勢」より少しましという位置に甘んじているのである。
こうしたことから再び「QCD 向上戦略」を見直す動きも強まっている。セルフステーションの増加である。<店舗の増加に触れる>人件費をセーブすることでコスト競争力を強化し、価格競争力を高めることで競争優位に立とうとする戦略である。実際に<価格の引き下げ幅と売上の増加幅に触れる>等、成果が出ており、ガソリン価格高騰で消費者が価格に神経質になっていることが追い風になっている。
また一方で、コンビニやコーヒーショップを併設するなど「革新的アプリケーション開発戦略」を取る店舗も見られる。
その何れもまだ決定打とは言えず、総じて言うとガソリンスタンド業界の成長戦略はバラバラで方向感が見えていない印象を持つ。
【コンビニ業界の成長戦略】
そこで、異業種で成功している成長戦略モデルをベンチマークすることで、その正攻法についてヒントを見出したい。小売業界で業態売上トップにあるコンビニエンスストア業界の戦略を以下にて考察する。
コンビニエンスストア業界の成長過程をたどると第 1 段階は 24時間営業の利便性を提供するプラットフォームを開発した後、QCD 向上戦略を取った。FCシステムや POS レジの導入による効率化や顧客満足の向上を目指したのである。
第 2 段階は「広域化戦略」である。全国くまなく均質なサービスを提供できる店舗を張り巡らしていった。
第 3 段階は「マーチャンダイジング戦略」である。おでん、おにぎり、弁当等、利便性のプラットファームに適した商材を次々に品揃えしていった。
第 4 段階は「革新的アプリケーション開発戦略」である。公共料金の支払いやキャッシング機能、チケット販売、荷物の発送からネット販売で購入した商品の受け取りなど複合化戦略を推し進め、既存顧客に新たなコンビニの利用価値を認知させて客単価を引き上げたのである。
しかしこうして成長してきたコンビニ業界もここに来て成長力に衰えが見える。2000年以降は既存店 1 店舗あたりの売上の前年割れが続いている状況となっている。ライバル業態の 100 円ショップやドラッグストアの台頭によるものである。
この状況を覆そうとコンビニ各社は第 5 の成長戦略の展開を開始した。「革新的プラットフォーム開発戦略」である。
●ローソン:ストア100
鮮度に拘った野菜や果物の取り扱いを強化し、基本的に取り扱い商品は 100 円としている。
●ローソン:ナチュラルローソン
美容や健康に拘った品揃え、情報発信をすることで子供から大人までの女性を意識した店作りである。
●ファミリーマート:ファミマ!!
オフィス向けを意識。店舗デザインにフローリングや木目の棚などを多用し、落ち着いた雰囲気を演出。輸入雑貨や食品を取扱う高級路線。
●エーエム・ピーエム:フードスタイル
生鮮食品からドリンク、お菓子など全ての取り扱い商品が 100 円均一。食生活提案型ミニスーパーマーケットというコンセプトである。
●スリーエフ:キュウズマート
新鮮な食材を強化した高品質、使い切りサイズの商品を提供するコンビニエンスストアの利便性とスーパーマーケットの品揃えを合わせ持つ形態。
これらの店舗がターゲットにしている顧客層は従来のそれとは全く異なる。利便性よりも低価格や安全性を求める個人客層や法人客層を標的に置き、それらの客層が重視する価値に自社の知覚価値である利便性を付け加えるというアプローチを取っている。こうした新たな顧客層を獲得するために全く新しいプラットフォームを開発し直しているのである。
【コンビニ業界から学ぶこと】
自動車業界に生きる我々がコンビニ業界の成長戦略から学ぶべきことがあるとしたら何であろうか。まとめるとすれば以下の 3 つが挙げられる。
(1)「利便性」という自社の知覚価値を徹底的に追求し、そこから決定的に逸脱するアプローチは取っていない。(ハイリスク・ハイリターン型のベンチャー戦略は採用していない。)
(2)しかし、「利便性」を体現するアプリケーション(商材)や、「利便性」を提供するプラットフォーム(業態)は常に自己変革してきている。
(3)しかも、自己変革に方向性や手順がある。(同時並行や番狂わせが無い。)
自動車業界から見ると、派手で浮ついた印象もあるコンビニ業界の成長のアプローチが、実は自動車業界と同様に保守的で堅実なものであることに気付かされる。しかも自動車業界がつい忘れがちな部分にこだわり続けている。自社の知覚価値・顧客価値を明確に認識し、それを徹底して追求するためにアプリケーションやプラットフォームを柔軟に、但し合理的なプロセスを踏んで変化させている点である。
自動車業界では自社の知覚価値へのこだわりよりも何を作る、売る、どこで作る、売るというアプリケーションやプラットフォームへのこだわりを持つ企業が多く、既存のアプリケーションやプラットフォームを活かす場所を探して回るために方向感や手順が疎かになりがちなのではないだろうか。だとすれば、正にこのギャップこそ自動車業界が学ぶべき部分である。
【まとめ】
企業の成長戦略には「QCD 向上戦略」、「マーチャンダイジング戦略」、「広域化戦略」、「ベンチャー戦略」、「革新的アプリケーション開発戦略」、「革新的プラットフォーム開発戦略」の 6 つがある。
●異業種には自社の知覚価値を機軸としてこの 6 つを適確に選択し、手順を踏んで常に自己変革を行い、成長を遂げてきた事例がある。
●自動車業界は自社の製品やファシリティの活用の場を探す形で成長戦略を描きがちだが、異業種のベストプラクティスに学ぶことも検討してみたい。
<大谷 信貴>