バリューチェーン戦略 ~日産カーミナルの例~

◆日産、村山工場跡地への「カレスト」出店は中止

日産、村山工場跡地に新車及び中古車の大型店舗を出店すると発表。本年度 末までに、ワンプライス設定の中古車店舗エリア「カーミナル東京」の営業 を開始する。800台の展示場、大規模サービス工場、場内試乗コースを設置。 全取り扱い車種を一堂に展示する新車店舗エリアも開設する予定。

<2006年 4月 29日号掲載記事>

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日産は 2004年 4月に大型オートモール「カレスト」の 3 店舗目となるカレスト村山の出店を発表していたが、先日、「カーミナル」の名称での出店に切り替えることを決定した。

その理由として日産の公式発表では、今後の市場動向をはじめとする事業環境を精査した結果とあるが、本当の狙いは一般のニュース記事を通じて明確に伝わってきてはいない。

【カレストとは】

カレストとは日産本体が手掛ける新中複合型(中古が中心ではあるが)大規模オートモールで、1999年 12月にカレスト座間、2003年 10月にカレスト幕張がオープンし、現在 2 店舗となっている。

両社は日産本体の 100 %出資会社による運営であり、開設当初から国内販売の改革拠点として位置付けられ、メーカー主導で以下のような新しい販売手法の構築を模索してきた。

1. トータルカーライフショップ

・新車販売:日産全車種を展示。座間店は常時 100台を展示、幕張店は常時 50台を展示
・中古車販売:全メーカー取り扱い。座間店、幕張店ともに常時 1000台を展示
・カー用品販売
・大規模サービス工場:整備から車検まで対応
・購入後 1年間の無料品質保証
・試乗コースを整備

2. 新たな販売方法の導入

・ワンプライス販売:透明度の高い価格設定
・ノンプレッシャー:顧客の自由度を重視
・RFID タグ開発:情報検索を簡易に

日産はカレストで開発した販売ノウハウを蓄積し、全国系列販社に提供する方針としており、所謂、販売改革の実験店舗としての位置付けであったともいえる。

しかしながら、日産カレスト座間の最新決算(05年 3月期)は、売上高 55 億 3000 万円 / 純利益▲4800 万円と開設当初の好調さと比べ、苦戦しているようである。

【新しい運営形式での出店】

今般、導入される「カーミナル」は、日産自動車が 100 %出資する日産プリンス宮城販売が第 1 号店舗として今年 1月に設立している中古車専門の販売形態であり、カーミナル東京は 2 店舗目となる。

中古車販売に関するカレストとカーミナルの違いはサービス面においてほとんど無い。しかし、その大きな違いは運営会社にある。

●拠点:取り扱い/ブランド/運営会社(日産との関係)
座間:新車/カレスト/日産カレスト座間(子会社)
座間:中古車/カレスト/日産カレスト座間(子会社)
幕張:新車/カレスト/日産カレスト幕張(子会社)
幕張:中古車/カレスト/日産カレスト幕張(子会社)
村山:新車/未発表/東京日産自動車販売(独立系)
村山:中古車/カーミナル/日産ユーズドカーセンター(子会社)

●主たる事業内容
日産カレスト座間:新車・中古車の販売
日産カレスト幕張:新車・中古車の販売
東京日産自動車販売:新車の販売
日産ユーズドカーセンター:中古車オークション NAA の運営

つまり、広義の日産グループ(含、東日カーライフグループ)における適材適所の実現を目的に、新車ディーラーである東京日産自動車販売(株)に新車を、中古車オークション運営会社である日産ユーズドカーセンターに中古車を運営させる、という試みであるという理解が出来る。

しかし、このやり方であると東京日産自動車販売や日産ユーズドカーセンターが元々の本業から生み出す収益の傘の下に新たな試みによる損益が隠れてしまう可能性も否定出来ない。しっかりとした管理会計の仕組みを構築しなければ経営の意思決定を鈍らすことに繋がることも有り得ることは留意すべきであろう。

【期待したい効果】

上述の通り、中古車販売店舗「カーミナル東京」を運営する日産ユーズドカーセンターは、日産 100 %出資のオークション運営会社であり、全国 3 カ所にある日産系オークション「NAA」を運営している。つまり B2B ビジネスを主業務としている。

今般、カーミナル事業を立ち上げることで、C 向けビジネスを取り込む形となり、B2B2C の事業の模索の第一歩に立つわけである。

他社事例でも同じ形がある。トヨタのオークション運営企業であるトヨタユーゼックは、全国に 6 つのオークション会場「TAA」を運営すると共に、中古車を販売するカーロッツ浜松を運営している。

【越えなければならない壁】

上記の如く、オークションと小売を組み合わせる試みは存在するものの、その取り組みは依然限定的である。そもそも、この組み合わせには以下の 3 つのハードルがあると考える。

1. 仕入ルートの硬直化への懸念

小売拠店が特定のオークションと直接の同一資本傘下(具体的には同じ会社の別部門)となることで、仕入ルートが限定されてしまうようなインセンティブが働き、結果、小売における顧客ニーズに応えることが難しくなる可能性。

2. 事業規模の違い

NAA の 7 会場を中心とした日産圏のオークション出品台数は年間約 14 万台であり、中古車販売店 1 店舗で販売する年間台数の何十倍にも達する。つまり、事業として B2B2C として一貫した流れを作ることによるバリューチェーンを通じた収益の最大化を目論むとすると、それこそ何十カ所もの小売拠点を構築・維持していく必要が生じる。このような巨額な継続投資に耐えられる企業はそう多くないだろう。

3. 手段の目的化(主客逆転現象)

本来、中古車販売会社の仕入を支援する目的で生まれたオークションとの組み合わせが、逆にオークションの台数を維持する為のオークション戻しの促進や、結果としての優良仕入れ玉の他オークションの活用などにいたってしまう可能性もありえる。

それぞれ、依然高い壁ではあるが、ロジックで考えた収益最大化の為の最適解であるバリューチェーン戦略のひとつの表れである「B2B2C」を如何に現場の実態に即した形で実現していくかが今後の各社の腕の見せ所であろう。

必要な経営資源の保有状況からするとメーカー系の事業者は本当は「やり易いポジション」にいるはずである。

<大谷 信貴>